先日、食肉フォーラムで講演した内容をPR誌用にわかりやすくまとめてくれましたので、この概要版を先に掲載します。解りやすいと思います。詳しく知りたい方は後の本文を見てください。そちらはスライド入りになっています。

 

赤肉・加工肉に関するIARCの発表について

日本人の健康長寿に果たしてきた肉の役割を過小評価すると

高齢者のザルコペニアやロコモーティブ症候群が増加するおそれがあります

 

「ハム、ソーセージなどの加工肉を毎日多量に食べると大腸癌の確率が高くなる」というIARCの発表が、消費者の買い控えにつながる事態を招きました。実際には、日本人の摂取量は1日平均13gと世界的に見ても少なく、リスクはないに等しいことがわかっています。それなのになぜ?「肉をとり過ぎるリスクと、とらないことによる健康リスクについて、正しく伝わっていないため」と、吉川泰弘先生がもどかしさを込めて解説します。

 

よしかわ・やすひろ 昭和46年東京大学農学部畜産獣医学科卒業。同大 学院博士課程修了(農学博士)後、厚生省国立予防衛生研究所麻疹ウイルス部に入省、厚生技官に就任。昭和5254年西独ギーセン大学ウイルス研究所留学(フンボルト留学生)。昭和55年東大医科学研究所助手、その後講師、助教授。平成3年国立予防衛生研究所筑波霊長類センター、センター長を経て、平成9年東大大学院農学生命科学研究科実験動物学研究室教授に就任。定年退官後、北里大学獣医学部教授。平成24年千葉科学大学副学長、現在は同大学危機管理学部教授。日本獣医学会越智賞受賞。日本実験動物学会功労賞受賞、内閣府食品安全委員会で活躍。

赤肉・加工肉に関する突然の発表

きっかけは、20151026日に、WHO(世界保健機関)の下部機関であるIARCInternational Agency for Research on Cancer=国際がん研究機関〉が、赤肉・加工肉に関して行った発表にあります。それによると、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)は一番上のカテゴリーである「グループ1:ヒトに発がん性がある」と判定。赤肉(牛、豚、馬、羊などの肉)を「グループ2A:おそらくヒトに発がん性を持つ」カテゴリーに分類。さらに「加工肉を毎日食べた場合、50gごとに大腸がんの確率が18%上昇する」としました。

食肉学術フォーラムとしての異議申し立て

この評価は、日本の消費者に不安を与えることから(実際、スーパーなどでソーセージ類が売れ残った騒動がありました)、私たち「食肉学術フォーラム」は、ただちに翌11月、これに対して見解を発表しました。それが以下の3点です。

1 IARCの発表はハザードの評価であって、リスクの評価を意味していません。

ハザード(危害要因)は、12A2B34という5段階の分類になっており、12Aは高い方の1位と2位です。しかし、IARCの発表は、ハザードについての評価であって、リスクを評価したものではありません。内閣府の食品安全委員会も「これをもって、すなわち食肉や加工肉はリスクが高いととらえることは適切ではない」とコメントしています。ハザードの評価方法とリスク評価方法に違いがあるということです。

2 発がん性リスクについては、各国の赤肉の摂取状況と摂取量に基づいた評価を踏まえて行われなくてはなりません。

国立がん研究センターは、「IARCでは、全世界地域での赤肉の1日摂取量を約50g100gとし、200g以上の地域も含むとしているが、日本人の1日当たり摂取量は赤肉50g、加工肉13gで、世界的に見ても低い。日本人の平均的な摂取量であれば、赤肉や加工肉のリスクはないか、あっても小さい」とコメントしています。IARCの発表は、リスク評価の方法と適用、特に暴露リスクという問題を抜きにして発表されているのです。

3 これについては切り口が違います。日本人の寿命は、健康長寿を含めて、食肉消費量の増加に比例して飛躍的に伸びてきました。しかし、ここで肉を悪者にして“食肉ゼロ運動”のようなことをしてしまうと、別のリスクが来ます。食肉を適正に摂取しないことによる免疫機能の低下、フレイル、サルコペニア※1など運動機能低下や筋疾患リスク、あるいは血管強化機能の低下による循環器疾患を誘発するなど別のリスクを生むことになります。

また、食肉摂取を現状より制限すると、健康状態を良好に保つことが難しくなる可能性があります。食肉料理のメニューが、QOL(生活の質)を維持するのに重要な役割を担っているのは明らかです。こうしたリスクの「トレードオフ※2」という考え方をきちんと説明してほしいというのが、「食肉学術フォーラム」の立場です。

※1サルコペニア 筋肉量が低下し、筋力や身体機能の低下が起こる症候群。

※2トレードオフ 2つの目標があり、その一方を満足させればさせるほど、他方が不満足になる場合、2つの目標で許容される範囲のどこかで妥協点を求める関係のこと。

IARCの評価の内容を原文で精査する

もう少し詳しく説明すると、加工肉・赤肉についての評価は、WHOのがん専門組織であるIARCが仏リヨンで開催した会議で行われ、世界10カ国から集まった専門家22人のワーキンググループ(WG)が、約800の科学論文をレビューで精査して行われました。詳細は『The Lancet Oncology』に掲載されました。

原文を読むと、いくつかポイントがあります。

①赤肉はグループ2Aだが、その中身は、「発がんの証拠は限られている」。ではなぜ2Aにしたのか。「しかし、強力な発がん機構の証拠がある」。主に大腸がんに関連するが、膵臓がん、前立腺がんとも関連する。

②加工肉については、科学的証拠に基づいてヒトへの発がん性があるので、グループ1にした。しかし、消費量は国によって非常に違う(2%~60%)。平均消費量については情報が少ないが、加工肉の消費量は赤肉よりやや低い。

③毎日の加工肉消費量が少ない人はリスクが少ないが、多い人はリスクが高いという用量反応が認められる。「加工肉を消費する人が多いことから、公衆衛生上の問題と考えた」。

 最後のところで、「公衆衛生的観点からは、肉の消費を制限すべきという勧告を支持する」。一方、「赤肉は栄養があり、今回の研究成果は、肉を食べるリスクとベネフィットのバランスを取るため、各国政府や国際機関がリスク評価を進め、最良の食事を勧告するのに役立つ」と結んでいます。

 つまり、公衆衛生的観点から肉の消費を制限すべき、とり過ぎは良くないとしたのであって、肉は栄養的価値があるので、肉を食べるリスクとベネフィットのバランスをとる必要がある、決して肉が危険というわけではないと、IARCの論文からは読み取れます。それなのに、なぜ、“肉を食べるとがんになる”という伝わり方になってしまったのか。ここでしっかり検証しておきたいと思います。

なぜ赤肉がカテゴリー2A? IARCの答えには曖昧な点がある

WHOは消費者の疑問に答えるため、わかりやすいQ&Aも用意しています。その概要も見ておきます。前項とダブっている部分は省きました。

赤肉とは、哺乳動物の筋肉(牛、子牛、豚、羊、馬、山羊)です。加工肉とは、風味、長期保存などのために塩漬け、保存処理、発酵、燻煙などをした肉で、豚肉、牛肉、他の赤肉、家禽肉、内臓、血液などの副産物、例えばホットドッグ、ハム、ソーセージ、コーンビーフ、ビーフジャーキー他と定義しています。

なぜ、今回赤肉、加工肉について評価を行ったのか、その理由については、

①赤肉、加工肉の摂取量が高いと、いくつかのがんの発生率が上がるという疫学調査に基づく国際アドバイザリー委員会の勧告がある。

②低・中収入国では消費量が高い人が多く、公衆衛生的に影響がある。IARCはこのリスクについて、権威ある科学的な証拠を揃えることが重要と考えた。

調理法で影響が違う? という質問には、「理由は完全にはわからないが、高熱調理で発がんリスクが上がる。焼く、揚げる、バーベキューなどはある種の発がん化学物質を生むようだ」と答えています。

赤肉が2Aである意味は? には、「分類(カテゴリー)は、限られた疫学調査の結果に基づくが、発がん機構に関しては強い証拠がある。しかし、他の説明(機会、偏り、交絡因子)も否定できない」と、少し逃げているところがあります。

肉食はやめるべき? の質問に「肉食は健康にいい」と答えている

加工肉のグループ1のリスクは? との問いには、「ハザード評価が同じ1であるタバコやアスベストと同様という意味ではない。発がんの科学的証拠の強さがタバコ、アスベストと同様という意味である」と答えています。

毎年、どの程度、発がんに関連したケースがあるか? に対しての答えは、「国際疾病負荷プロジェクトによれば、世界中で年に3万4000例が加工肉の高摂取と関連している。赤肉の高摂取では、毎年5万例が関連すると推定されている。タバコでは年間100万人、アルコールで60万人、大気汚染で20万人以上ががん死と関連がある」。

大腸がんの人は肉食をやめるべき? には、「データなし」。

肉食はやめるべきか? には、「肉食は健康にいい」とちゃんと答えているのですが、こういう情報はあまり伝わりません。ただし、「多くの国家保健機関が、心臓病、糖尿病や他の疾患で死ぬリスクが増加するので制限するほうがいいと勧告している」となっています。

肉の何が原因か? には、「十分にはわからない。肉は調理などでヘム鉄、N-ニトロソ化合物、多環芳香族炭化水素(他の食物や大気汚染でも起こる)、ヘテロ環状芳香族アミンができる。これらは発がんに関係すると疑われている」と回答しています。

各国の政府がリスクとベネフィットを考慮して対応してほしい

Q&Aはさらに続きます。WHOの勧告は? これに対しては、「WHOは栄養指針作成の責任がある。IARCは発がんに関係する証拠を評価する研究機関であって、国のリスク管理機関のように健康への勧告をするものではない」という回答です。

より安全な赤肉や加工肉はあるか? には、「少数の研究はあるが、十分な情報がない」。

保存方法は発がんリスクを高めるか? には、「不明」。

大事なのは、各国の政府はどうすべきかですが、これに対しては、「IARCは発がんの証拠を研究する機関で、健康に対してリスクの勧告をする組織ではない。しかし、評価結果はがんのリスクを下げるための国や国際政策、指針、勧告に利用される。各国の政府がリスク、ベネフィットを考慮して決定すべき」という回答がなされています。

つまり、加工肉50g/日で18%、赤肉100g/日で17%増のリスクというのがどのくらいで、健康管理のためにどうすべきかは、各国の政府ないし関係機関が自分でリスク評価をしなさいということです。

IARCは約800の文献で赤肉・加工肉の評価を行った

IARCが赤肉・加工肉について評価するに至った証拠の整理を簡単にしてみます。

ワーキンググループは「多くの国の種々の食事の赤肉、加工肉消費者の1ダース以上の異なるがんについて、800以上の文献で評価をした。最重要評価した文献は、過去20年以上にわたる大規模な全人口の前向きコホート研究※3から得た」としています。

800以上の文献の内訳は、400件が赤身のみ、300件が赤身と加工肉の両方、100件が加工肉のみという構成です。

赤肉と大腸がんの関係は14件のコホート研究。7件で高消費量vs低消費量で差があり、大腸がんに関連(ヨーロッパの10カ国:大量~少量消費、他にスウェーデン、オーストラリア)。15件のケース・対照研究で7件が高消費量vs低消費量で大腸がんに関連あり(ほぼ半々:14/29)。

加工肉では18件のコホート研究中、12件で大腸がんと関連あり。ケース・対照研究では、9件中6件で関連性を支持するデータを報告しています(2/3が関連あり:18/27)。

定量評価※4で使ったのは、メタ分析※5した『Pros one 2011』という論文そのものです。IARCの評価の内容は、丸写しでした。論文は、10件のコホート研究をメタ分析したもので、大腸がんと食肉消費量に有意の用量相関ありとしています。先ほどの消費量増加での発生率、100g/日で17%増、50g/日で18%増という発表の根拠になった論文です(図表3 11証拠の整理)。

その他、・肉の消費でNOC(ニトロソ化合物)生成、赤肉の高消費(300420g/日)でNOCによるDNA付加が起こる・高熱処理した肉で遺伝毒性を持つHAA(複素環芳香族アミン)ができる・肉の燻製、オーブン、表面加熱はDNA付加を起こすPAH(多環芳香族炭化水素)をつくるなどを挙げています。

もろもろのデータから、ワーキンググループは疫学、発がん機構を含めて、総合的に、加工肉消費がヒトの大腸がんに関連するという科学的な証拠は十分と考えてカテゴリー「1」に、赤肉消費はメカニズム的には強い根拠があるけれども、疫学的には加工肉ほどではないので「2A」にしたということです。

※3前向きコホート研究 臨床研究法の1つで、対象者が疾病にかかる前に調査を開始する。つまり未来に向かって調査を進めるため、暴露から疾病発生までの過程を時間を追って観察することができる。

※4定量評価 あるかないか(定性的)ではなく、数値化可能なデータを用いた評価のこと。

※5メタ分析 複数の研究結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のこと。

ハザード(危害要因)のカテゴリー分類とリスク評価はまったく別ものです

「食肉学術フォーラム」が指摘した、ハザードのカテゴリーとリスク評価について考えてみます。ハザードとは、分析対象とする「危害要因」のことです。今回の評価対象は「赤肉と加工肉」で、その危害の影響の結果は「大腸がん」です。カテゴリーとは、危害要因がヒトへの危害にかかわるレベルがどの程度かを評価し、分類したものです。

発がん性のカテゴリーを1~4群に分け、科学的確実性の強さから、ヒトに対して「発がん性あり」、「可能性あり」、「不明」、「なし」としています。

わかりやすいので、動物由来感染症と比較しました。この場合、評価対象の「病原体」がヒトに「感染し・発症させる」、「可能性が高い」、「可能性あり」、「不明」、「なし」になります。「カテゴリー1」はヒトに感染するエビデンス(証拠)のある感染症で、感染症法で最も危険な1類感染症のエボラ出血熱、2類のSARS3類のO-1574類のエキノコックス症、その他、水虫のような皮膚糸状菌症、カンジダ症などすべて「1」です。

発がんの「カテゴリー1」、「2A」、「2B」、「3」、「4」で、「1」はヒトに対して発がん性ありというホルマリン、ベンゾピレンなど118種類が登録され、ここに加工肉が入ったわけです。「2A」はジメチルホルマリン、クロラムフェニコールなど79種類で、ここに赤肉が分類されました。

つまり、「1」というカテゴリーに入っても、病原性の強さやリスク評価とは全く違う性質のものであることがわかります。水虫からエボラ出血熱まで、すべて「カテゴリー1」に分類されるだけのことだと伝われば、多分それほどの騒ぎにはならなかったと思います。

加工肉を全く食べなくなっても男性の大腸がん患者が年に200人減るだけ?

日本の平均加工肉消費が13g/日であれば、IARCが公表した用量反応曲線から見て、相対リスク(RR)は1.01で、1%です。加工肉を食べなくても大腸がんになる人の確率に対して、加工肉を13g食べてもそのリスクは1%しか変わらないというメッセージを伝えたほうがずっとわかりやすかったと考えています。相対リスクの数字の一人歩きは不安をあおるだけです。実際の意味の説明が必要です。私なりに日本の状況を計算してみました。

日本の年間死亡者数は127万人、そのうちがんで死亡する人がおよそ40万人、大腸がん(結腸がん+直腸がん)は5万人弱です。男性が26千人、女性が22千人です。

日本人の加工肉消費が平均13g/日ですから、13g以上食べる人が半数、13g以下が半数になります。男性26000人が大腸がんで死んでいるわけですから、そのうち6000人は加工肉を全く食べない群(RR1.0)、1万人はほとんど食べない(13g以下)群とすると、用量曲線からRR1.005になり、全く食べない群に比べて大腸がんの発症が50人増えます。残りの1万人は毎日13g以上食べる群として、RR1.015となり、全く食べない群に比べて150人増加になります。

仮にすべての男性が加工肉消費をゼロにした場合、年間の大腸がん死亡者26000人が25800人になるという計算になります。単純化すれば、加工肉消費をゼロにしても、日本では男性の大腸がんの死亡者数が年に200人減るだけということです。

肉を食べなくなるとサルコペニアなど低栄養による疾患リスクが増大?

今回のIARCの公表は、科学的には間違っていないと思います。しかし誤解と不安を生む結果になりました。それはハザードのカテゴリーの意味がよく説明されていなかった。発がんリスクではないと、はっきり言っておくべきでした。

日本人のリスクは、「政府機関が独自に健康勧告すべきである」と言っているのですから、日本人は日本人のためにリスク評価をして、その結果をはっきり見せればいいのではないでしょうか。

最初にお話しした「食肉学術フォーラム」の見解にあるように、日本人は食肉の消費によってここまで健康維持をしてきましたが、これをやめることによる栄養性低たんぱく症(特に高齢者)は、種々の疾患に関係します。日本のサルコペニア/ロコモーティブ症候群の患者はすでに1000万人を超えています。心疾患では197000人、脳血管障害では114000人が1年間で亡くなっています。

肉をやめたことによるこれら栄養性低たんぱく症の相対リスク(RR)がどのくらいかを調べてみました。年4%の体重減少率では、2年間の死亡率のRR95%信頼区間で1.38から5.81です。体格指数(BMI23以下では、6年間の死亡率のRR1.69から6.39、平均値をとると4くらいのRRです。食肉による大腸がんのリスクに比べ極めて高い数字です。一番わかりやすい栄養指標である血清のアルブミン値は、3.8以下では年間死亡率の相対リスクがRR1.2から6.6で、これもバラツキが大きいですが、中間値が4です。

日本人の加工肉消費113gの相対リスクRR1.01に比較すると、非常に高いことがわかります。赤肉、加工肉の持つリスクと、食べないことによる低栄養で起こるリスクを比べると、これだけの差になりました。どちらを選択するかは消費者自身によると思います。

 

〈討議の抜粋〉

柴田 大変貴重な分析で、作業量も大変だったことでしょう。結局、先生のお話で全部尽きるのですが、メタアナリシスをする場合、交絡要因が比較的近似なものを集めるという1つの学理が必要です。そういう意味で、今回のIARCの研究は、疫学調査のメタアナリシスを用いる前提が狂っていると思います。それをたった1人の日本の専門家が喝破したというのは大変なことで、ぜひ公表されることをお勧めいたします。

吉川 読んでいて、自分たちがBSEの時に責められたことがよくわかりました。わからないものを分析して出すのは楽なことではないこと、また、これを読んでいた時、ワーキンググループに初めから結論があったような印象を受けました。専門家がこれだけ集まって、これだけの論文を読みながら、たった1つの論文にたどり着いて、それを国際的な数値として発表するというワーキンググループのあり方には、私はすごく疑問を持ちました。

喜田 IARCの報告はお粗末だと思います。これは発がん性ですから、ポジティブだったら発表するけれど、ネガティブだったら発表しないでしょう。そういうものの寄せ集めが疫学になってしまう恐れがありますね。それと、先生が最後に日本のトレードオフの話をされましたが、200人死ぬ人が減るかもしれないけれども、先生の計算によると、トレードオフで何千人減ることになりますか。

吉川 あえて言わなかったのです。それはまた物議を醸すので、それはそれなりに、ちゃんとそれこそ日本の専門家がメタ分析したらいいと思います。

品川 今回のようなお話は、食品安全委員会できちんと説明していただきたいですね。

吉川 最初のコメントにあったように、食品安全委員会はハザード評価あるいはカテゴリー分類とリスク評価は違うと言っただけであって、本来ならリスクのトレードオフまで分析して公表したらすごく格好いいと思いますけれども。

 

 

2016年8月、期末試験も終わり中旬から大学は夏休みです。しかし、食肉消費総合センターの学術フォーラムは、いつもこの時期に行われます。このホームページに載せてありますが、昨年はこのフォーラムで「One world, One Health」の講演をしました。今年は、国際保健機関(WHO)傘下の国際癌研究機関(IARC)が発表した赤肉、加工肉と大腸癌の関連に関する報告について解説しました。

この問題が国際的に衝撃を与えたきっかけは、WHOの下部組織の専門機関であるIARCが発表した内容です。これについて、センターからは以下のコメントが出されています。日本食肉消費総合センターは、消費者の皆様から提起される疑問に答えるために専門家によって構成される「食肉学術フォーラム」を開催してご検討いただき、その成果を公表しております。IARC(国際癌研究機関)は赤肉(牛、豚、馬、羊等の肉)を「グループ2A: おそらくヒトに発癌性がある」 カテゴリーに、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコン等)を「グループ1:ヒトに発癌性がある」 カテゴリーに分類すると発表し、消費者は不安を感じています。食肉学術フォーラムの見解は以下の通りです(201511月)。

 

コメントは、以下の3つの意見からなっています。

  IARCの発表は、ハザードの評価であり、リスクの評価を意味していません。食品安全委員会は「これをもってすなわち食肉や加工肉はリスクが高いと捉えることは適切ではない」とコメントしています。(ハザードの評価方法とリスク評価方法の違い)

  発癌性リスクについては、各国の赤肉の摂取状況と摂取量に基づいた評価を踏まえ

て行われなくてはなりません。国立癌研究センターは「IARCでは全世界地域での赤肉の1日摂取量を約50100gとし、200g以上の地域も含むとしているが、日本人の1日当たり摂取量は赤肉50g、加工肉13gで世界的にも低い。日本人の平均的な摂取量であれば 赤肉や加工肉のリスクは無いか、あっても小さい。」とコメントしています。(リスク評価の方法と適用:暴露リスクと影響リスク評価)

  我が国における栄養学的に適正な食肉の摂取は、免疫機能の低下リスク、サルコペ

ニア症等の筋疾患リスク、及び血管強化機能の低下による循環器疾患のリスクを減少させ、日本人の食肉消費量の増加と並行した国民の平均寿命の延伸に役立ってきたと考えられています。食肉の摂取の現状の水準からの制限は、健康状態の良好な維持に悪影響を与える可能性があります。また、食肉料理のメニューはヒトのQOL(クオリティ オブ ライフ)を維持する重要な要素です。(リスクのトレードオフ) 

 

 専門用語が多くて分かりにくいかもしれません。以下に詳しく見てみましょう。

経緯から見ると20151026日、世界保健機関(WHO)は「加工肉や赤肉が、癌の原因になる」と発表。加工肉は「グループ1, 発癌性がある」と判定。赤肉を「グループ2A、おそらく発癌性がある」と判定。「加工肉を毎日食べた場合、50gごとに大腸癌の確率が18%上昇する」と発表。評価はWHOの癌専門組織、国際癌研究機関(International Agency for Research on CancerIARC)がリヨンで開催した会議で結論を出した。世界10カ国から科学者 22人が集まり、約800の研究論文から、赤肉や加工肉の消費量と発癌の関連を総合的に評価。調査結果は「The Lancet Oncology」に掲載したといったものです。

 

報告のあったWHOの原文のコメントを見てみましょう。その概要は、以下のように書かれています。赤肉と加工肉の発癌性について収集した科学論文のレビューで評価した。ワーキンググループ(WG) は10か国、22人の招集された専門家からなる。①赤肉はヒトに対しておそらく発癌の可能性がある(グループ2A)と評価(A: 発癌の証拠は限られているが、強力な発癌機構の証拠がある)。主に大腸癌に関連するが、膵臓癌、前立腺癌とも関連する。②加工肉は科学的証拠に基づきヒトへの発癌性(大腸癌)あり(グループ1)。消費状況は国により非常に違う(数%~100%)。赤肉よりも加工肉の消費量はやや低い。③毎日の加工肉消費量が50g増加する毎に大腸癌のリスクが18%上昇する。消費量が少ない人はリスクが低いが、多い人はリスクが高い(用量反応あり)。加工肉を消費するヒトが多いことから、公衆衛生上の問題である。

WGは、多くの国における様々な食事の赤肉、加工肉消費者について1ダース以上の異なる癌について800以上の文献で評価した。最も影響のある証拠は過去20年以上にわたる大規模な前向きコホート研究から得た。公衆衛生的観点からは、研究結果は肉の消費を制限すべきという勧告を支持するものであるが、赤肉は栄養価があり、今回の研究成果は肉を食べるリスクとベネフィット(危険性と利点)のバランスをとるため政府や国際機関がリスク評価を進め、最良の食事を勧告するのに役立つ、と述べています。

 

 上記の発表とは他に、消費者に対してWHOQ&Aで、わかりやすく答えています

その概要は、赤肉とは哺乳動物の筋肉(牛、子牛、豚、子羊、羊、馬、山羊)、加工肉とは、風味、長期保存等のため塩漬け、保存処理、発酵、燻蒸等をした肉で豚肉、牛肉、他の赤肉、家禽肉、内臓、血液などの副産物等です。例えばホットドッグ、ハム、ソーセージ、コーンビーフ、ビーフジャーキー他と定義しています。赤肉、加工肉を評価した理由は、①赤肉、加工肉の摂取量が高いと、いくつかの癌の発生率が上がるという疫学調査に基づく国際アドバイザリー委員会の勧告があること。②リスクは小さいが、低、中収入国では消費量が高い人が多く、公衆衛生的に影響があること。③IARCはこのリスクについて権威ある科学的な証拠をそろえることが重要と考えたと答えています。調理法で影響は違うか?という質問には、理由は完全には分からないが高熱調理で発癌リスクが上がる。焼く、揚げる、バーベキュー等はある種の発癌化学物質を生むようである。赤肉が2Aである意味は?という問いには、分類(カテゴリー)は限られた疫学調査の結果に基づくが、発癌機構に関しては強い証拠がある。しかし、他の説明も否定できない(機会、偏り、交絡因子)としています。

 

 加工肉のグループ1のリスクは?との問いの答えは、「摂取リスクがタバコやアトベスト同様という意味ではない発癌の科学的証拠の強さがタバコやアスベストと同様という意味である。毎年どの程度、発癌に関連したケースがあるか?との問いには、国際疾病負荷プロジェクトによれば、世界中で34,000/年(発癌)が加工肉の高摂取と関連している。赤肉高摂取では、毎年50,000例が関連すると推定されている。しかし、タバコでは年間100万人、アルコール60万人、大気汚染では20万人以上が癌死と関連している。量的に大腸癌のリスクは示せるか?リスクは小さいが、10件の研究成果は加工肉摂取が毎日50g増えると大腸癌のリスクが18%増え、赤肉では発癌の証拠が強くないので難しいが毎日100g増えるとリスクは17%上昇すると考えられると回答しています。年齢、男女でリスク差があるか?大腸癌のヒトは肉食やめるべきか?には、いずれもデータなし。肉食はやめるべきか?には肉食は健康にいいと答えていますしかし、心臓病、糖尿病や他の疾患で死ぬリスクが増加するので制限する方がいい(多くの国家保健機関が勧告)。肉食の安全閾値はあるか?データがない。肉の何が原因か?十分には分からない。肉は調理などでヘム鉄、N-ニトロソ化合物、多環芳香族炭化水素(他の食物や大気汚染でも起こる)、ヘテロ環状芳香族アミンができる。これらは発癌に関係すると疑われていると回答しています。

 

 WHOの勧告は?との質問に、WHOは栄養指針作成の責任がある。一方、IARC発癌に関係する証拠を評価する研究機関であり、国のリスク管理機関のように健康への勧告をするものではない。今回の評価は2002年のWHOの勧告(大腸癌のリスクを下げるため肉食消費をやや控えるべき)を再度強化した。鶏肉、魚肉は?ベジタリアン(比較が難しい)を含めて、評価してない。より安全な赤肉、加工肉はあるか?少数の研究はあるが、十分な情報はない。保存方法は発癌リスクを高めるか?不明。どのくらいの研究を評価したか?800以上の癌研究論文、700以上が赤肉の疫学、400以上は加工肉に関する疫学調査。すなわち400が赤身のみ、300が両方、100が加工肉の論文ということになる。政府はどうすべきか?IARCは発癌の証拠を研究する機関で、健康勧告はしない。しかし、評価結果は癌のリスクを下げるための国や国際政策、指針、勧告に利用される。従って、各国政府機関などがリスク、ベネフィットを考慮して決定すべきということになります。

 

前述したWHOのコメントとQ&Aの科学的なデータは、ワーキンググループ(WG)が著者になってランセットという雑誌の論文に掲載されています。そこでこの論文の内容を見てみましょう。

 発癌のメカニズムについては、加工肉は保存処理、燻蒸で発癌物質、ニトロソ化合物、多環芳香族炭化水素(PAH)が、赤肉は高熱調理でヘテロ環状芳香族アミンHAAPAHができるとしています。

 疫学調査では、肉の消費は国や人口構成で異なる。赤肉消費の傾向は国により5%以下から100%、平均消費量は50100/日であり、加工肉は2%以下から60%、平均消費量は利用できる情報が少ない。また、800以上の文献で肉消費と癌の関係を調査した。レビューで最重要評価した文献は全人口の前向きコホート調査である。質の高いポピュレーションベースのケースコントロール研究は証拠の追加に有効。最も重要な情報は、①赤肉と加工肉を分離して扱ったデータ、②吟味された質問で得られた定量的な調理データ、③サンプルサイズが大きく、④当該する癌について主な交絡因子が管理されているデータである。

 データについては、赤肉と大腸癌の関係は14件のコホート研究があり、そのうち7件で高消費量vs低消費量で大腸癌に関連する(欧州の10か国:大量~少量消費、他にスエーデン、豪州)。また15件のケースコントロール研究で7件が高消費量vs低消費量で大腸癌に関連があった加工肉に関しては18件のコホート研究中12件で大腸癌と関連あり。ケースコントロール研究では9件中6件で関連性を支持するデータが報告されている

 

 IARCが用量反応の公表に使った論文は1論文10件のコホート研究をメタ分析したものです。大腸癌と食肉消費量に有意差で用量反応があり、赤肉の相対リスク(RR)は、95%信頼区間(CI) 1.05‐1.31、100/日の消費量増加で発生率が17%増加する。加工肉のRRは95%信頼区間で1.10-1.2850/日の消費量増加で発生率が18%増加すというものです。他に赤肉消費と癌の関係では膵臓癌、前立腺癌が、加工肉では胃癌が関連するという報告がある。大量のデータからなる異なる集団の横断調査でも、加工肉消費と大腸癌の関連が示されている。十分な科学的根拠をもつとしてワーキンググループ(WG)はカテゴリー1とした。赤肉については質の高い文献ではそこまで確証が取れないので、WGとして2Aと結論したと記載されています。

 

 発癌機構に関しては、赤肉には強い証拠が、加工肉には中等度の根拠があると評価した。定点横断研究のメタ分析論文(2013年, 1報)では、肉消費と大腸腺腫に有意な相関がある。肉消費(赤肉、加工肉)の遺伝毒性と酸化ストレスへの影響の証拠は中等度。ヒト大腸癌(保存材料:185件)の分析で弱いが有意な変化としてAPC遺伝子(家族性大腸ポリポーシスの原因遺伝子)の変異(75件)、プロモーターメチル化(41件)が報告されている。赤肉のウェルダーン料理の摂取では、ヒト尿が細菌の変異上昇を起こす。酸化ストレスマーカー(尿、糞、血液)の上昇が肉消費と関連(3文献)。肉消費でNOC(ニトロソ化合物)生成、赤肉の高消費(300 or 420g/日)でNOCによるDNA付加が起こる(大腸細胞、直腸生検、2件の介入研究)。加工肉では少数の介入研究で、ヘム鉄がNOC産生と消化管で脂肪の酸化をこすという報告がある。ヘム鉄の効果は実験的にCaで抑制され、ヘム鉄が発癌性を持つことを支持。高熱処理肉で遺伝毒性をもつHAAが出来る、発癌性HAA代謝物の産生はヒトがラットよりも効率が高い。肉の燻製、オーブン、表面加熱はDNA付加を起こすPAHを作る(摂取後の影響は不明)などの文献があることが紹介されている。

 総合的に(疫学、発癌機構ともに)、WGは加工肉消費がヒトの大腸癌に関連するという科学的証拠は十分と考えカテゴリー1とした(胃癌との関連も見出される)。また、WGは、赤肉消費と大腸癌の関連の可能性はある(カテゴリー2A)と考える。メカニズム的には強い根拠がある。また膵臓癌、前立腺癌との関連も正の相関がある、と記載されています。

 

以上の内容をまとめてみると以下のようになります。

  赤肉、加工肉の大腸癌発癌リスク:約800の文献調査(内訳:400件が赤肉のみ、300

 件が両方、100件が加工肉のみ)。

②赤肉と大腸癌の関係は、14件のコホート研究。7件で高消費量vs低消費量で大腸癌に関連、15件のケースコントロール研究で7件が高消費量vs低消費量で大腸癌に関連(合計は、ほぼ半々: 14件/29件)。加工肉は18件のコホート研究中12件で大腸癌と関連。ケースコントロール研究では9件中6件で関連性を支持するデータ(2/3が関連あり: 18件/27件 )であった。

③メタ分析論文(1論文:Pros One 2011)では、10件のコホート研究をメタ分析した。大腸癌と食肉消費量に有意差で用量反応があった。赤肉では相対リスク(RR)は95%信頼区間(CI)で 1.051.31100/日の消費量増加で発生率が17%増加。加工肉のRR95%信頼区間で1.10 -1.2850/日の消費量増加で発生率が18%増加した。

 

最初の問題であったハザードのカテゴリーとリスク評価について考えてみましょう。

ハザードは、分析対象とする危害要因のことで、今回の評価の対象は「赤肉と加工肉」であり、その危害の影響の結果は大腸癌です。危害のカテゴリーは、危害要因(ハザード)が人への危害にかかわるレベルか否かを評価し、分類するものです。発癌性の分類1~4群から得られる情報は何でしょうか?QAで説明されていたように、評価対象が発癌性をもつという科学的確実性の強さです。人に対して発癌性を持つという確実性(その可能性)がある、あると思われる、不明、ないといったものです(定性的評価)。決してリスクの強さを示しているものではありません。

 

 例えば、分かりやすい動物由来感染症について、同じようにハザードを分類して比較してみましょう。評価対象の病原体が人に感染し発症させる(カテゴリー1)、感染するかもしれない(2)、不明(3)、感染しない(4)ということになります。カテゴリー1は、人に感染するエビデンス(証拠)のある感染症群です。すなわち感染症法で最も危険な1類感染症(エボラ出血熱)、2類感染症(SARS,結核)、3類感染症(腸管出血性大腸菌感染症:O-157)、4類感染症(エキノコックス症)、その他カンジダ症、アニサキス症、皮膚糸状菌症(水虫のたぐい)すべてがカテゴリー1です。

すなわちカテゴリー分類は、危害要因(ハザード)が当該事象(疾病など)を引き起こすのに、どの程度の科学的証拠があるか?を示したものです。そのため同一カテゴリーのハザードでも類型により、そのリスクは全く違います。類型は、リスク評価に基づく、リスク管理のカテゴリーです。感染症でいうなら、病原体の病原性の強さ、伝播力の大きさ、発生頻度、診断・予防・治療法の有無や社会的インパクトなどを加味して評価し類型(カテゴリー)化します。

 

それでは、実際のリスク評価の方法を見てみましょう。

  ハザードの同定(赤肉、加工肉)から始まります。同定したハザードがヒトの健康

に危害を及ぼす可能性の有無(カテゴリー1 or 2A )です。当然、カテゴリー4であればリスク評価する必要がありません。カテゴリー化はここで意味を持ちます。

  発生評価:想定される事象の起こる頻度です。表の中のABCDの数値が問題となります。

AB, C=Dであれば、リスクは不明、無視できるとなり、リスク管理方法も違ってきます。

  暴露評価:ハザードに暴露される程度により、リスクは違ってきます。食べない、

ほとんど食べない、少し食べる、食べる、大いに食べる。日本人は消費量が少ないので(加工肉は13g/日)、リスクは低いというのは、この項目にあたります。

  影響評価:ハザードによる健康影響の大きさです。定量的に表示できれば、非常にわか

りやすいです。ハザードの影響に用量相関があるか?ある。加工肉50/日の消費量増加で

相対リスクが18%増加することになります。この評価のエビデンスは?18%の意味は?

説明が必要です (後で考えてみたいと思います) 

  リスクの推定①を決めた後、②~④のデータを合わせて総合評価するのが一般の

リスク評価方法です。

 

 ここで、WHOからIARCWG報告として発表されたリスク評価の報告のもとになった論文Plos Oneの内容を検索してみましょう。この論文はメタ分析という方法を使っています。複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析する手法です。すなわち、メタ分析は、①関係する研究論文の抽出と、②プール解析の手順を踏みます。この際に、主観的あるいは恣意的なバイアス(偏り)を避けるために、ランダム化比較試験(RCT)方法を用います。

 研究の抽出とは、見つかった研究全てを対象とする。恣意的に研究を抽出することを避ける。そのうえでプール解析とは、抽出した論文データを結合し、ケース群と対照群それぞれのエンドポイントの平均値を算出する。用量反応(影響量)の算出には、ケース群と対照群の平均値の差異を標準偏差で割る。影響量の値は、ケースがプラスになるのかマイナスになるのかの客観的な尺度として算出されます。ランダム化比較試験とは、主観的評価を避けるための尺度であるエンドポイント、効果の差を計測するための治療していない偽薬などを施した群、二重盲検法など、ケース群と対象群をランダムに割り当てるといった手法をとります。

 要約するとメタ分析法はデータの収集、チェック、分析、結果からなりますが、①データ収集:データの質とカテゴリー(個体・性別・年齢、群、地域、公衆、国)、 ②チェック:データ採用、除外基準、除外理由、除外の影響他、③分析:要因の重要さ、交絡因子の排除、用量反応他、④結果:観察単位、収集期間、背景などを含め結果と考察という段取りになります。

 

 

Plos Oneの論文のデータ処理と分析法

 10件の前向きコホート研究を対象とした内訳はアジアの集団での研究(4件)、カナダの乳癌スクリーニングコホートと米国多民族コホート(各1件)と4件の米国コホート研究。前向き研究に焦点を当てた理由はケースコントロール研究が選択バイアス(偏り)やリコール(データ撤回)しやすいこと、肉消費と大腸癌のランダム化比較試験が現実的でないと考えたからである。強い因果推論は、用量反応相関から引き出すことができるので、肉消費と大腸癌の関係は、最高対最低消費量のメタ分析で行った。これまでのメタ分析では用量反応関係の形状を検討していないので、線形用量反応分析と非線形用量反応関係が存在するか否かも検索した。文献検索は1966年から2011331日までのものから初めて、その内容を吟味した。

 

個々の文献データの表示等を統一するためのカテゴリー化、変換を行った。相対リスク(RR)推定値は、固定効果とランダム効果モデルを使用してプールした。研究間の不均一性のためランダム効果メタ分析の結果を提示した。最高、最低メタ分析(最高摂取量vs最低摂取量の比較)では、各研究からの相対リスクの推定値は、総合相対リスクと95%信頼区間(CI)を計算するために、分散の逆数で重み付けをした。線形用量反応メタ分析では、各研究の摂取量増加の単位あたりの相対リスク推定値(標準誤差とともに)をプールするか、トレンド推定のために一般最小二乗を使用して、カテゴリデータから計算した。

 

分析対象とした研究

28の前向きコホート研究から42の文献を選択。8件は除外した(より長期の重複データがあるなど)ので残りは34件、英国のデータも除外した。24の前向きコホート研究(2ケースコホート、3件ネスティドケース、19件のコホート研究)が最高量vs最低量メタ解析に、21研究が用量反応メタ解析に用いられた。コホート対象の内訳は男女が対象の13コホート、男性の3コホート、女性8のコホート。研究は北米が12研究(多民族コホートを含む)、欧州の前向きコホート調査(10か国)、他に各2研究がフィンランド、オランダ、日本、1研究がオーストラリア、カナダ、スウェーデン、中国、シンガポールであった。相対リスク推定値には、全研究で年齢、性別、総エネルギー摂取量を調整した。半数以上の研究では社会的経済的地位、大腸癌の家族歴、体格指数(BMI)、喫煙、アルコール摂取等の調整を行った。いくつかの研究では相対リスク推定値は非ステロイド性抗炎症薬、魚や白身肉の摂取について統御した。

 

結果の概要

関連した前向きコホート研究は20113月までのPubMedを対象にした。各研究からランダム効果モデルにより相対リスクと95%信頼区間(CI)を抽出・プールし、分散の逆数で重み付けし、最高対最低摂取量の比較と用量反応をメタ分析した。①赤肉と加工肉の摂取量の増加と大腸癌のリスクは関連していた。②最高対最低摂取量の大腸癌に対する相対リスクは1.2295CI = 1.11から1.34)、100/日の増加で相対リスクは1.1495CI = 1.04から1.24)となった。非線形用量反応メタ分析では、約140/日摂取まで赤肉・加工肉ともにリスクは直線的に増加し、プラトーになった。④大腸癌リスクは、赤肉100/日の増加でRR(相対リスク) 1.1795CI = 1.051.31)であった。加工肉では50/日の増加でRR (相対リスク)1.18、(95CI = 1.10から1.28)となった同様の結果は結腸癌について見られたが、直腸癌では有意な関連は見られなかった、となっています。

 

Plos Oneの論文に示された図。

それぞれのメタ分析結果が図で示されており、わかりやすいです。

各論文のデータ:相対リスク値(RR)は■の中央と95%信頼区間(横棒)で示されます。黒い■の大きさは各論文データの重みです(基本的には分散の逆数)で、■が大きいほど寄与率が大きくなります。メタ分析の総合結果は、菱形◇(RRとCI)で示されています。

① 総肉消費量と大腸癌リスクの用量反応メタ分析

② 肉消費量と大腸癌リスクの非線形用量反応メタ分析

③ 赤肉消費量と大腸癌リスクの用量反応メタ分析

④ 加工肉消費量と大腸癌リスクの用量反応メタ分析です。

 

また、このPlos oneメタ分析論文には、巻末の引用文献に日本の2論文にリストされています。1件の概要は以下のようでした。日本で大規模な前向きコホート研究を行った。19906月~8月まで、宮城県の4064歳の47, 605人に食物摂取頻度を含む自己管理質問調査を行った。研究対象では、20013月までのフォローアップで11年間に大腸癌474例を観察した。相対リスクを推定するため、Cox比例ハザードモデルを使用し、性・年齢・交絡因子を調整し、大腸癌と肉摂取の関係を分析した。①最低摂取vs最高摂取比較では大腸癌の多変量相対リスクRR)1.1495CI= 0.851.53P-トレンド= 0.22であった。②総肉消費量と大腸癌の間に有意な関連は認められなかった。肉消費は大腸癌の危険因子であるという仮説は支持されなかった、と記載されています。

 

Plos oneメタ分析に引用されたもう一つの文献は、日本での西洋食に関連した大腸癌の発症リスクをコミュニティベースのコホートで研究したものであり。Plos Oneのメタ分析データとして使用されてます。

内容は、19922000年に男性13,894人、女性16,327人を追跡した。男性では加工肉の高消費vs低消費比較でリスク増加がみられた(調整後RR=1.9895CI1.243.16。他方、女性で毎日コーヒーを飲む人の大腸癌リスクは飲まない人よりも低かった(調整後RR=0.4395CI0.220.85)。研究結果は、西洋食が大腸癌に関連する可能性があることを示唆した(肉が大腸癌の発生を促進し、コーヒーが大腸癌発生の抑制に関連する?)。この文献のデータがメタ分析に用いられていますが、バラつきが大きく、寄与度は低くなっています。

 

Plos Oneの論文の内容をまとめてみると、以下のようになります。

①最高消費量vs最低消費量のメタ分析では赤肉・加工肉摂取量が大幅に大腸癌のリスクの増加に関連し最高vs最低のRR=1.2295CI=1.111.34、結腸(RR=1.1995CI=1.061.34)、直腸癌(RR=1.51 95CI=1.311.75)であった。②赤肉・加工肉摂取の最高平均値は、一日46211グラムの範囲であった。③用量反応のメタ分析では、赤肉や加工肉の摂取が大腸癌のリスクに正相関しており、100/日の増加は、RR=1.1495CI=1.041.2411研究、11,358例。④赤肉摂取量の最高消費量vs最低消費量比較による総相対リスク(RR)は、大腸癌 1.10 (95% CI = 1.001.21)、そのうち結腸癌1.1895CI=1.041.35)、直腸癌1.1495CI=0.831.56)。赤肉摂取量の最高の平均は、一日26197g。用量反応のメタ分析では、統計的に有意で大腸癌8研究、4,314例、RR100/日の増加で1.1795CI=1.051.31、結腸癌(100g /日の増加で1.1795% CI=1.02 1.3310研究、3,561例)、直腸癌では有意な相関は見られなかった(7研究、1,477:100g/日の増加で1.1895CI=0.981.42)であった⑤加工肉摂取量は大腸癌のリスクに関連していたRR最高摂取量vs最低摂取量 = 1.1795CI = 1.091.25、結腸癌(RR = 1.1995CI = 1.111.29)、直腸癌( RR = 1.1995CI = 1.021.39)。加工肉摂取量の最高平均は一日16122g。4研究は推定値に使用できなかった。加工肉50/日増加による大腸癌の総RR1.1895CI = 1.101.289研究、10,863)、結腸癌RR1.2495CI = 1.131.3510研究、6,727)、直腸癌はRR= 1.1295CI = 0.991.288研究、2565件)であった、となります。

 

WHOの報告、IARCのランセット論文、Plos Oneの論文をもとに、もう一度全体を考察してみました。 

 直接的なリスク評価と誤解されて伝わったハザードのカテゴリーについて考察してみると、IARCは研究機関でWHOの下部組織であり、分析は癌の専門家がおこなう。従って、科学評価に重点を置くため、弱点はリスクコミュニケーション不足なのではないか?と思われます。数字の意味の説明不足も混乱を招くように思われます。①ハザードのカテゴリーは、科学的根拠の確かさを示す分類Q&Aで説明していますが、正確には伝わってきません。カテゴリー1は確か(エビデンスあり?)、2Aはおそらくありということです。これは、直接的な危険性(リスク)の大きさを示すものではありませんが、一般には「赤肉・加工肉は発癌物質」というイメージとして伝わっています。

 この誤解は、感染症の類型を例に考えるとわかりやすいと思います。人獣共通感染症(動物由来感染症)としては、すべてカテゴリー1(確実な証拠あり)ですが、1類エボラ出血熱、2類 SARS3類 O1574類 狂犬病、その他に皮膚糸状菌、カンジダ、アニサキスなど(危機管理から考えると、伝播力、病原性、社会的影響は無視されているので、これはリスク評価でもリスク管理のためのカテゴリーでもない)が含まれます。

 

 相対リスク値(RR)についても説明不足と思われます。加工肉を毎日食べた場合、50gごとに大腸癌の確率が18%上昇すると発表しています。この結果は1つのメタ分析論文の結果(Plos One)をそのまま引用したものです。Q&Aで「健康管理の勧告は、各国政府がやるべき」としています。結局、実際のリスク評価は、各国が自国の消費傾向を明らかにし、自分で行う必要があります。日本の平均加工肉消費量は13/日であると言われています。そうであれば暴露リスクは、この論文の用量反応曲線から見てRR=1.0195CIはほぼ1.011.01)です加工肉を食べなくて大腸癌になる人の確率に対し、加工肉を毎日13g食べても、そのリスクは1%程度しか変わらないことになります。また、相対リスク(RR)の意味は、母集団の大きさにより、社会的インパクトが異なります。18%増加といっても100万人が118万人になることでもあり、100人が118人になることでもあります。相対リスクの数字の一人歩きは、不安をあおるだけです。実際の意味の説明が必要であると考えます。

 以下に日本のモデルが考えてみました。

 

今回の評価を日本に当てはめて考えてみると以下のようになります。日本人の年間死亡者数は127万人です。癌で死亡するヒトは男性が23万人、女性が14万人で、合計37万人と死亡原因の第1位(約29%)です。そのうち大腸癌(結腸癌+直腸癌)で死亡する人は、男性が26千人、女性が22千人となっています(大腸癌死亡率は年間死亡者10万人当たり3,800人になります)。

 他方、日本人の加工肉消費量が平均13g/日ということですから、13g以上食べる人が半数、13g以下が半数となる。ここで、グループを①加工肉を食べない男性群、②食べるが113g以下の男性群、③13g以上食べる男性群に分けて考えてみましょう(実際には正確なデータが必要ですが、ここでは適当に数字を当てはめています)。 

仮定として、大腸癌死亡の男性で6,000人は、加工肉を全く食べない群(相対リスクはRR=1.0)とする。残りの大腸癌死亡男性を2群に分けて、10,000人はほとんど食べない(13g以下)とすると用量曲線からRR=1.005となり、食べない場合に比べて大腸癌の発症が50人増加となります。また10,000人は毎日13g以上食べる群としてRR=1.015とすると、加工肉を食べない群に対し大腸癌の発症が150人増加となります。仮に男性すべてが毎日の加工肉消費を絶った場合(加工肉消費ゼロ)、単純には年間の男性大腸癌死亡者数26,000人が25,800人になるという計算になります(大腸癌の死亡率は10万人当たり、男性2,047人が2,031人になるということです)。

 

数字の一人歩きを避け、可視化できるリスクとして説明する必要があるし、リスコミの課題でもあります。今回の公表は科学的には間違っていないかもしれないが誤解と大きな不安を生む結果となりました。これはハザードのカテゴリーの意味の説明不足と相対リスク(RR)の社会的意味の解釈不足と思われます。IARCは日本人のリスクは「政府機関等が独自に健康勧告」すべきと述べています。日本人の加工肉摂取が平均113gだからリスクが小さい、あるいは無視できるとするとするなら、具体的なモデルで説明する必要があると思います。単純化すれば、仮に、加工肉消費を完全にやめても(加工肉ゼロ)、日本では男性の大腸癌は26,000/年の死亡数が200人減ることを意味するという具合になります

 

最後にQ&Aで述べていたように、食肉の制限はベネフィットとリスクを考慮する必要があります。「日本における栄養学的に適正な食肉の摂取は、①免疫機能の低下リスク、②サルコペニア症等の筋疾患リスク、③血管強化機能の低下による循環器疾患リスクを減少させ、日本人の食肉消費量の増加と並行した国民の平均寿命の延伸に役立ってきた。食肉の摂取の現状水準からの制限は、健康状態の良好な維持に悪影響を与える可能性がある。」というリスクのトレードオフの問題です。

 

 栄養性低蛋白症(特に高齢者)は、種々の疾患に関係します。日本のサルコペニア/ロコモーティブ症候群の患者数は男性300万人、女性980万人です。また、心疾患死亡者数は197千人/年、脳血管障害死亡者数は114千人/年です。栄養性低蛋白症のリスクを見てみると、年間4%の体重減少率では、2年間の死亡率の相対リスクは95%信頼区間でRR=1.385.81です。体格指数23以下では6年間死亡率の相対リスクは95%信頼区間でRR=1.69-6.39、さらに血清アルブミン値が3.8以下では、年間死亡率の相対リスクが95%信頼区間でRRのCI=1.2-6.6と報告されています。日本人の加工肉消費13g/日の相対リスクRR=1.01に比較すると非常に高いということになります。

 

 確かに食肉の過剰摂取が問題となるケースはあると思いますが、それは赤肉や加工肉に限らないでしょう。また、炭水化物も脂肪も過剰摂取は有害ですが、しかし、健康の維持には必要です。どちらを選択するかは消費者自身によると思います。

 

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。

 

妻が、稽古に通い、粘土で作った作品です。昨年、東京フォーラムで、他の生徒さんと一緒に展示されました、「仙人草」

(水やり不要です)。

妻の人形作品です。

ドイツ時代の香代の幼稚園の友達です

ある夏のスナップです。妻の父母、娘、甥たちの集合写真から作りました。