先日、本学部のミッションとして、感染症対策のできる獣医師の養成があること。そのため、特に人獣共通感染症について、現在問題となっている「新型コロナウイルス感染症」など、学生に教えるように求められました。期末試験も終わったので、来年度の学生さんに担当している「人獣共通感染症」を教えるにあたり、もう一度「新興コロナウイルス感染症」について考えてみようと思い、スライドを作りました。現在進行中の感染症なので、新年度で教える頃には、もう少し整理してプレゼンテーションできると考えています(2020 /03/01)。学生さんにとっても、かなり難しい内容かもしれません。

 内容的には、かなり専門的で難しいかもしれません。そのため、簡単にスライドの説明を入れておこうと思います。

 最初のスライドは、このホームページの「zoonotic virus」「動物由来ウイルス」に書いてあることの復習です。人獣共通感染症では動物からヒトに来る感染症だけを教えるのですが、全ての動物由来の病原体がヒトに感染するわけではありません。特殊なウイルスや細菌、真菌などが動物から自然宿主の動物種を超えてヒトに感染します。

 ここでは、どの様な特徴を持ったウイルスが動物から種を超えてヒトに来やすいのかを考えてみたものです。「spill over:あふれ出ること,流出.」というのは, 感染症学では種の壁(species barrier)を超えるという意味でも使います。

 種を超えやすいウイルスとしては、大型のウイルスであること、ゲノムが不安定であること、ウイルス独自の複製酵素を持っていること、ゲノムが分節していること(複製中にゲノムが分かれ、遺伝子が再集合するものを含む)、自然宿主がヒトに近いものの5つが挙げられます。

 小型よりも大型のウイルス、DNAの2本鎖よりも1本鎖、DNAよりもRNAウイルスということで、1本鎖のRNAウイルスで遺伝子が再集合しやすいもので、自然宿主がヒトに近いものということになり、リスクの最も高いグループにコロナウイルスが入りました。

 次いでDNAウイルスではポックス、ヘルペス群、RNAウイルスではレオ、アレナ、ブニヤ、トガ、フィロ、ラブドパラミキソ、オルトミキソ群ということになります。

 ここからは、コロナウイルスの各論です。コロナウイルスはニドウイルス目に入ります。ウイルスのmRNAが、nested set方式という独特のやり方で合成されます(後述)。このネスト(巣)のラテン語がニドです。コロナは電子顕微鏡でみたウイルスの形態が王冠(コロナ)のように見えるのでこの名前になっています。コロナウイルス亜科には4つの属(α、β、γ、δ)があります。SARSやMERSウイルスはβコロナウイルスに入ります。

 βコロナウイルス属には、さらにABCD系統があり、B系統がSARS, C系統がMERSです。

今度のCOVIDー19は、どちらかといえばB系統に近いグループです

 コロナウイルスの分岐をもう少し生態学的にみると、コウモリによって拡散したグループ

(α、βグループ)とによって拡散したグループ(δ、γグループ)に分かれます。

 今回、問題となっているグループ(属)は、コウモリを中心としたβコロナウイルスのBCD系統?ということになると思います。

 もう少し詳しくβコロナウイルス属の系統図を見ると、最初にC系統(MERS,自然宿主タケコウモリ?など)が分岐し、次いでB系統(SARS,キクガシラコウモリなど)とD系統(ルーセットオオコウモリ)が、同じ系列から分岐し、最後にA系統が分岐したように思われます。

 コウモリは1系統で、小型コウモリが世界中に分布しており、オオコウモリは亜熱帯と熱帯にのみ分布しています。コウモリの系統樹では小型コウモリからオオコウモリが分岐しているので、これらコウモリの進化に合わせて、βコロナウイルスも共進化したと思われます。

 コウモリの特性については「コウモリと感染症」「人獣共通感染症1」に書いています。

 各コロナウイルス属のゲノム構造です。基本的な遺伝子としては、RNA複製酵素など(L)と宿主の受容体に結合するスパイク蛋白(S)とエンベロープ(外殻)に埋まっている蛋白(E)、ウイルス粒子の骨格を形成するマトリックス蛋白(M)と核蛋白(N)が共通要素です。各属のコロナウイルスを特徴づけている主要な要素は、アクセサリー遺伝子といわれる付加的な遺伝子群と細胞受容体に結合するS遺伝子の特性です。

 問題となるβコロナウイルスのゲノム構造を見ても非常に多様性に富んでいます。A系統は、独自にHE遺伝子(赤血球凝集素とエステラーゼ遺伝子)を持っています。HE遺伝子はBCD系統にはありません。アクセサリー遺伝子としては4,5,Iを持っています。B系統(SARSグループ)は多くのアクセサリー遺伝子を持っています3,6,7,8,9bなどです。C系統(MERSグループ)は、3a,b,c,dを持っています。D系統は3,7a,bを持っています。

 コロナウイルスは+鎖のRNAウイルスなので、ゲノムはそのままmRNAとして機能します。従ってRNA複製酵素は、細胞内で翻訳され蛋白となるので、-鎖のRNAウイルスのようにウイルス粒子には入っていません。ウイルス粒子の構造蛋白としては、S,HE, E,M,N蛋白と、一部のアクセサリー蛋白が含まれています。

 コロナウイルスは、RNAウイルスでは最大の球形RNAウイルスで、宿主細胞由来の脂質2重層のエンベロープ(外殻)を持ち、花弁状の長い突起を持つS蛋白とHE蛋白が外殻蛋白として、ウイルス粒子の外に突き出しています。E蛋白はエンベロープに埋まっており、M蛋白がウイルス粒子骨格を形成し、中央にゲノムRNAとN蛋白がヌクレオカプシドを形成しています。ゲノムサイズは、約30Kb(3万塩基)、粒子サイズは100~200nmです

 ウイルスゲノムにはリーダー配列(ACGAAC)があり、ORF1(1a,b:RNA複製酵素や蛋白分解酵素を含む)が読まれます。S, E, M,N, アクセサリー遺伝子の前にはやはりリーダー配列(AACGAA)?があり、順次、ネツティッド・セットの形で(後述)mRNAが翻訳されるようになっています。

 これまで、コロナウイルスのmRNA合成は、Aのように、+鎖を鋳型としてー鎖が合成され、リーダーから順次OFR1a,bが翻訳され、次いでリーダーからS遺伝子に飛んで2番目のORFが翻訳され、以下ORF3、・・・・・というように、フルサイズから順次短いmRNAが合成され、各mRNAの最上流の遺伝子が翻訳されるというネツティッド・セット方式といわれていました。しかし、最近、Bのような複製様式が提唱あれるようになりました。-鎖を合成するときに、途中からリーダーに飛んでしまう、ネスティッドセットの-鎖RNAが合成されるというものです。これが起こると、同一細胞に2つのコロナウイルスが感染すると、分節ゲノムを持つウイルスのように遺伝子の再集合(不連続遺伝子組換え)が起こる可能性があります。

 すなわち、相補的-鎖ゲノムRNAから、リーダーが個々の+鎖mRNAを合成するA方式では、個々のmRNAに相補的な-鎖RNAは存在しないことになります。しかし、個々のmRNAに対する-鎖RNAが見つかったことで、B方式が考えられるようになりました。この場合、2種のコロナウイルスが同一細胞に感染すると、不規則的な遺伝子再集合?(不連続遺伝子組換え?)が起こりやすいと考えられます。アクセサリー遺伝子の複雑性やウイルスゲノム中の一部の欠失や挿入が起こりやすいことと関連するかもしれません。

 本来の遺伝子以外?に加わったアクセサリー遺伝子の機能を見てみると、大きく3つくらいの特徴がみられます。まず目立つのが、インターフェロン産生あるいは誘導機能に対する阻害因子です(3b,6など)。アクセサリー遺伝子がインターフェロン系など自然免疫系の誘導を阻害するのは、初期のウイルス増殖にとって有利に働くからだと思います。逆に言えば自然免疫系は、このウイルスに対する初期の有効な防御手段かもしれません。サイトカイン・ディシーズ(サイトカイン病)で言われるようような、免疫系の攪乱因子です。サイトカイン産生誘導?(3a,7a?)に働く因子群は、炎症細胞浸潤を促し症状を悪化させ、かえってウイルスの持続的な増殖に寄与する可能性があります。ウイルスそのものの構成蛋白に関連する安定化作用、蛋白の開裂、活性化のしやすさなど、ウイルスにとって付加的に有利に働く因子です。

 ここからは、SARS,MERS,COVIDの順で、それぞれの「コロナウイルス新興感染症」の特徴を比較してみたいと思います。SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2002年11月中国の広州で発生しました。一般に知られたのは、2003年2月(広州の研究所の2002年7月の認知からすれば、半年以上後になります)の香港、メトロポールホテルでの拡大です。

 クラスター感染が起こり、わずか数カ月で世界中に伝播しました。ペイシャント・ゼロ、スーパー・スプレッダーなどの疫学専門用語が、定着しました。世界中に広がったSARSは、2003年7月に制圧宣言が出され、その間8098人が発症し、774人が死亡しました。

 2002年11月の広州から2月の香港での拡散まで約3か月で、SARS有症者は500人以下なので、アウトブレイク以後の感染拡大からすれば非常にゆっくり進行していた感じがします。今回のCOVID19同様、流行の主体は中国です。全体の2/3(5327/8098人:65.8%)の患者と45%の致死者(349/774人)を占めています。初期は香港(ピークは4月中旬、海外の巻き込まれた国々)、最盛期は中国本土(2003年5月中旬)、後期は台湾(ピークは5月末)の順で流行が拡大し、2003年7月初旬には流行は、ほぼ終息しています。

 潜伏期は2~10日、30~50歳代に好発で、症状としては発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、乾性の咳、喀痰、咽頭痛、下痢、リンパ球減少、血小板減少がみられます。COVID19 とよく類似していますが、重症例が多いのと、COVID19よりも好発年齢が低い点が、少し違います

レントゲンでは胸水はなく、肺炎が広がる点は類似しています。SARSでは、病理組織学的に肺胞上皮の破壊、硝子膜形成とウイルス増殖に伴う融合巨細胞形成がみられています。

 SARSの定義としては、①38℃以上の高熱咳・呼吸困難・息切れのいずれか。②レントゲンで肺炎、③ウイルス検査(PCR)で陽性(水様性下痢の例もある)、④感染経路は飛沫や接触(濃厚接触)です。潜伏期は平均が4~6日、最長は10~14日。ウイルスの排出部位は、SARSの場合、呼吸器系以外に、消化器系や泌尿器系が意外と高くなっています。

発症期:発熱> 38で始まり、しばしば高熱、悪寒伴い、頭痛、倦怠感、筋肉痛などを伴う。発症時に、軽度呼吸器症状を示す場合がある。発疹、神経症状、胃腸の所見は通常見られない(少数例では下痢が報告)。リンパ球減少がある。

有症期:発症3〜7日後で、下部呼吸器障害期になり低酸素血症を伴う乾燥した咳または呼吸困難。症例の10〜20%では、挿管と人工呼吸器を必要とする(COVID19では約5%といわれている)呼吸障害期初期の肺局所浸潤から、斑状の間質浸潤に拡大。後期には、肺の硬結(consolidation)領域がみられる。呼吸器障害期のピークには半数の患者が白血球減少症および血小板減少症(50,000 – 150,000 /μl)を示す。CPK, GOT,GPTが上昇する。

隔離期間解熱後、10日以降に感染伝播が起こった報告は無い。通常は、発熱の解消から10日後(呼吸器症状がなくなるか解決するまでとされる。

 新興ウイルス感染症の疫学調査は、有症者のPCRによる確定診断に基づいて始まる(パッシブ・サーベイランス)ので、初期は重症例が多いが、診断体制が確立しPCR検査体制が確立すると、疑い例も含め軽症例なども明らかになる。抗体調査が始まれば、無症状の感染者(不顕性感染者)が明らかになり(アクティブ・サーベイランス)、感染症の全体像が理解される。最終的な調査結果はないが、SARSについて不顕性感染例について考えてみる

 香港全体で、19,386人の家族と濃厚接触者で監視下にあった者のうち223人がSARSを発症した(1.2%)。1,158人の自宅隔離したケースの家庭内接触者中28人(2.4%)が有症例となった。有症者以外のケースには、ウイルスに曝露された(ほとんどのケース)が①感染しなった群と、②感染したが発症しなかった(不顕性感染)群がある。

 その他、不顕性感染例のエビデンスとしては、アモイ・ガーデンの例が報告されている。

患者に接触した者のうち無症状者316名中32名はPCR陽性(10%は明らかな不顕性感染)。香港の休暇村の隔離者では抗体調査?で1名陽性(161人中)、この抗体陽性者との接触者が1例PCR陽性となっている(1.2%が不顕性感染?)。

 香港をモデルにして考えてみると、①母集団はSARS患者と接触があり、ウイルスに曝露された可能性があり、調査対象となった19,386人。R0を3.0とすれば、感染の終息まで非感染のままでいる人の人数はn=N-N(1-1/R0)で、6,362人(32.8%)。残りの13,024 人中の発症者(顕性感染でウイルス陽性)は223人(1.2%)。残りの12,801人(66%)は不顕性感染?ということになる。

②自宅隔離者(濃厚接触者)1,158のケースではSARS発症者は28人。同じ確率で計算すると、非感染が386人となり、残り772人のうち発症者が28人なので残りは744人となり、不顕性感染は64.2%となる。実際には、無症状者(非感染+不顕性感染)1130人から316人(非感染105人を含む)を抽出しているので、この集団で感染した可能性は211人で、検査陽性32名(陽性率は15.2%)ということになる。③抗体調査をしなければわからないが、検査時に既にウイルスが排除されていたケースが多かった?ウイルスの採取方法を含め検出感度が悪い?あるいは自宅隔離での再生産数(R0)が、3.0よりも低い?可能性がある。

 母集団に外挿すると、1,158人中、SARS発症者は28人(PCR陽性)不顕性感染者は744人(うちPCR陽性者は113人、631人は抗体陽性、ウイルス陰性?)、非感染者は386人と推定される。

 SARSウイルス感染症を纏めると、R0は2~3でそれほど高くない。しかし、医療関係者の犠牲率が非常に高い(中国では18.2%:危険は感染症)。有症者数は8098例、人工呼吸器の必要な重症化率は10~20%。死亡者数は774例(致死率9.6%)。国際的には2003年2月に始まり、2003年7月に終息した。

 SARSのサーベイランスの全体像のモデルを図示すると以下のようになる。実際に監視データとして、明らかになるのは死亡例の774例SARS発症患者例(PCRで陽性)の8,098例のみである。60~80%近くが不顕性感染(PCR陽性率15~20%)であるとすれば、感染しているが発症しない人数は40,000人くらいいたかもしれない。曝露されたが感染を免れた者は、その10倍近く36万人?と推定される?

 SARSウイルスの起源は、いろいろと想定されたが、現在ではキクガシラコウモリ、horse shoe bat (Rhinolophus cornutus)と考えられている。またSARSウイルスの受容体はヒトではACE2分子Angiotensin converting enzyme 2)と同定されている。しかし、ACE2分子のアミノ酸配列は、動物種により異なっており、実験室レベルでは、自然宿主のキクガシラコウモリのACE2はSARSウイルスの受容体として機能しないのに、ルーセットオオコウモリやハクビシンのACE2はヒトのACE2と同じようにSARSウイルスの受容体として機能するという不思議な現象がみられた。

 SARSウイルスのS蛋白と、受容体分子ACE2の結合に重要なアミノ酸配列(ACE2分子のα1,3とβ5ドメイン)を比較すると、SARSウイルスに感受性を示すヒト、ハクビシン、ルーセットオオコウモリには共通のアミノ酸配列がみられるのに、自然宿主のキクガシラコウモリや感受性のないラットのACE2は違うアミノ酸配列となっている。

 想像をたくましくすると、自然宿主のキクガシラコウモリが発症しないでウイルスを維持できるのは、ACE2を受容体としないで、別の分子を受容体として(例えば大腸あたりで発現する受容体など)利用するために感染しても発病しない。他方、デマレルーセットオオコウモリやハクビシンなどはACE2を受容体としているためにSARSウイルスに感染する。ウイルスの増幅動物として発病し、ウイルスを人に感染させる可能性があります。

 特にルーセットオオコウモリは、他のオオコウモリと異なり小型コウモリのようにエコロケーション(echolocation:反響定位)が可能で、小型コウモリとともに洞窟に共生できる一方、オオコウモリのように樹上生活も可能です。ウイルスの運び屋としては最も適した位置にいるかもしれません。SARSrCOVはβコロナB系統で、ルーセットオオコウモリのβコロナD系統とは非常に近い遺伝的距離にいます。MERSウイルスはβコロナC系統ですが、B・D系統とは、やや離れた距離にいます。

 これまで上述したように考えていました。しかし、驚いたことに、SARS関連ウイルス(SARSrCOV)の多様性が、最近明らかになってきました。中国で一つの洞窟のコウモリから分離された11株のウイルスの全長ゲノムが解析され、単一の洞窟で異なるSARS関連ウイルスが維持されていることがわかりました。特に、S、ORF3、ORF8で多様性が強いことが明らかになりました。そのうち超可変N末端と受容体結合ドメイン(RBD:receptor binding domain)がSARS-CoVと高い遺伝的類似性を持つ株が見つかり、これらのSARS関連コロナウイルス間の連続的組換えによりSARSウイルスが直接生じた可能性が示唆されました。

 SARSウイルスとCOVID19ウイルスは、広い意味では、こうした多様性を持つ小型コウモリのβコロナウイルス群の2種類といえます。その意味では、残念ながら、自然界にはまだまだ、きわめて多くのコウモリ由来SARS関連ウイルスのプールがあるといえます。

 同一の洞窟に住む種々のコウモリが消化管に多様な亜型?のSARS関連コロナウイルスを保有し、糞口感染を繰り返し、遺伝子組換え(再集合)を行い、ヒトで重症急性呼吸器症候群を起こすシナリオは、まるで極地の水禽類がA型インフルエンザの全ての亜型を腸管に保有し、遺伝子再集合を起こし、ブタなどを介して、ヒトの新型インフルエンザ流行を起こすパターンと非常に類似しています。自然界のウイルス生態の一つのパターンかもしれません。

 図のように、同一の洞窟に生息するコウモリのSARS関連コロナウイルスのほとんどの遺伝子が90%近い相同性を持つのに、細胞の受容体と結合するS遺伝子の相同性は50%以下ORF8は80%以下。3aは90%以下という多様性を持っています。これはコロナウイルスが細胞に侵入する受容体を変えられるカセットを持っていることを示しています。鳥インフルエンザウイルスのように、SARS関連コロナウイルスも、いろいろな動物にウイルスを感染させ、変化した組換えウイルスを持ち帰ってくるような特性があるのかもしれません。

 ここからはMERS(中東呼吸器症候群)について考えてみようと思います。

MERSコロナウイルスは、βコロナウイルス、C系統の新種ウイルスです。クレード(Clade:系統群、共通の祖先から進化した生物群。分岐群とも言う)は、初期のウイルスがクレードA,その後の後のものがクレードBに分岐しています(最近は3つ)。タケコウモリ、アブラコウモリのコロナウイルスと密接に関連しています

 MERSウイルスの祖先は、小型コウモリに存在し、1990年代半ばにラクダに広がり、2010年代初頭にラクダからヒトに広がったと考えられています。240近い分離株から、コドン(遺伝暗号)の使用頻度、宿主、および地理的分布から3つのクレードに分岐したと考えられます。

 マーズウイルスのゲノムの特徴は、アクセサリー遺伝子として3, 4a,b, 5, 8bを持っています。また、SARSウイルスの受容体がACE2分子であったのに対し、MERSウイルスの受容体はヒトのCD26(T細胞マーカ―の一つ、DPP4:Dipeptidyl Peptidase 4)です。ヒトやラクダなど偶蹄類のCD26はMERSウイルスの受容体として機能します(ウサギ、齧歯類、フェレットなどのCD26は機能しない)。

 アクセサリー遺伝子のうち、4a,4b、5はインターフェロン抑制、自然免疫系の抑制に作用します。3はウイルスの病原性に、8bは細胞内ウイルスセンサーであるMDA5を介した細胞反応(NF-κB)の活性化を阻害します。

 MERSは、2012年9月にサウジアラビアで初発例が報告されました。中東地域で感染がゆっくりと広がっています(一部は輸出感染症として欧州にも広がっている)。

潜伏期は2~14日、肺炎が主症状で致死率が高いのが特徴です。ウイルスの感染力は低い。

2013年12月 感染者数166人、  死亡者数71人(致死率43%)

2014年 5月  確定症例635人、  死亡者数193人(致死率31%)

2015年 6月  確定症例1289人、死亡者数455人(致死率35%)

 2015年1月21日、感染症法2類感染症に指定

2016年 3月 患者数1728人、死亡者数624人(致死率36%)

2018年 5月 患者数2220人、死亡者数790人(致死率35.6%)

2019年11月  患者数2494人、死亡者数858人(致死率34.4%)です。

 MERSの累積患者数、死亡者数はグラフのようにゆっくりと増加しています。致死率は35%前後と非常に高いままです。これは経過が早いこと、症状が容易に重篤な肺炎に発展するためです。

 MERSの臨床経過パターンを考えてみます。

①無症状(不顕性感染は?):よくわからない。疫学的には、ヒトコブラクダと高頻度で接触する者は、当然、一般人よりもMERS-CoVに対する抗体陽性率が高いといわれています。MERSの最大発生国であるサウジアラビアで2012~13年に採取された1万人の血清調査では抗体陽性者は15人(0.15%)でした。サウジアラビアの人口が3400万人ですから、外挿すると51000人が抗体陽性となります。ラクダの飼育頭数は47万頭なので、ラクダの濃厚接触者(抗体陽性者)は、1人で平均9.2頭を飼育している?ことになります。

②軽度の呼吸器症状:発症後、約1週間の経過で回復(多くは疫学調査対象にならないかもしれません?)

③重症急性呼吸器疾患:肺炎に進展し、呼吸不全となる。腎不全、多臓器不全、敗血症性ショックを併発することもある。嘔吐や下痢が約1/4の患者に認められる。

報告されている約2500人のうち軽症を含めると重症化率は4.9%?、明確な有症者では30~40%が重症化する)。

④致死率:36%と非常に高い(858人)

 MERSの特徴は、①呼吸器感染が肺を含む下部気道で容易に肺炎を起こし、致命的になること、他方②ウイルスの伝播力が低く、ヒトーヒト感染は起きにくいこと(R0<1.0:通常、感染は拡大しない)、③実際の感染は、ほとんどがラクダからヒトへの感染(人獣共通感染症)であることです。④MERSの常在国以外では、輸入感染症となる。

 下部気道検体のウイルス量が10の6乗(100万コピー/ml)であるのに対し、上部気道の検体では5000コピー/ml(下部の約200分の1)です。肺炎が重篤であるのに対し、感染力が弱いのは、こうしたウイルスの部位による増殖の違いによるものです。COVID19ウイルスは、丁度MERSウイルスの反対で、上部気道で良く増殖しますが、下部気道ではそれほど増殖しません。そのため感染力は強いのですが、重篤化し肺炎を起こして死亡するケースは、高齢者や持病のある人など、比較的稀です。

 MERSウイルスの自然宿主と考えられる小型コウモリのMERSr-CoV(MERS関連コロナウイルス?)とヒトのMERSウイルスのゲノムの比較では、S蛋白の相同性が非常に低いのに、ラクダとヒトのMERSウイルスではほとんど差がない。このことは、①コウモリからラクダへウイルスが順化する(spill overする)間に、ウイルスに対する強い選択圧が働いた可能性と②ラクダとヒトの間では、ウイルスの行き来がある?可能性が考えられる。

 また、幼若なラクダの方がウイルスの分離率が高いことから、ラクダでは、幼若期の方が感受性が高く、容易に感染することが考えられる。また、ヨーロッパでは小型コウモリとハリネズミ(headgehog)の間でウイルスの行き来があった?(bat MERS-Cov, headgehog MERS-Cov)と考えられている。

 MERSは、中東以外の国々ヘも輸出感染症として出て行っています。しかしR0=0.6 が示すように、通常は2次感染以内でアウトブレイクになることはありませんでした。2015年5月20日、韓国で初めてのMERS症例が見つかりました。7月末に流行が終息するまでに感染者186人、死亡例36人というアウトブレイクが起こりました。

 原因はよくわかりません。①MERSウイルスが変異した可能性(これまでのMERSウイルスと99%以上の相同性があり否定的です)、極東アジア人がレセプター発現が多い(高感受性)?②初発者(patient zero)がスーパー・スプレッダー、③感染症対応の不備。病院のバイオセーフティ教育不備、ベンチレーション不備などが挙げられています。

 韓国の流行株ではS遺伝子に4個のアミノ酸置換が起こっていました(S137R, I529T, V530L, and R629H)が、2個S137R、V530Lは細胞培養中におこったものです。R629H受容体結合ドメイン(RBD)の外でした。また、I529Tは、S蛋白と受容体(CD26)の相互作用には関係しないと思われます。

 韓国でのMERS流行の防御体制の詳細を見ると、かなり対応のまずさが目立ちます。日本と同様にSARS流行の際に実際に巻き込まれなかったため、エマージェンシー対応の準備ができていなかったことが影響したと思います。

 病棟での対応のまずさ、病院でのクラスター感染、コンタクト・トレーシングの遅れなどが影響したと思われます。それにしてもR0が1.0以下と考えられるMERSが、韓国でこのようなアウトブレイクになったことは不思議な気がします。

 ここで、SARSとMERSの比較を纏めておきたいと思います。どちらもβコロナウイルス属ですが、SARSはB系統、MERSはC系統です。どちらのウイルスも小型コウモリ由来と考えられています。ウイルスの調査では、どちらの系統も沢山のウイルス株が存在し、それぞれの系統(SARS関連コウモリ由来株群、MERS関連コウモリ由来株群)の中で遺伝子組換えを行っているようです。ヒトへの橋渡し(ウイルスの増幅動物)としてはSRASはハクビシン?MERSはヒトコブラクダです。

 発生地域はSARSが中国、MERSは中東(主にサウジアラビア)。感染経路はともに飛沫感染ですが、SARSは消化器系(糞)、泌尿器系(尿)からもウイルスが排出されるようです。

MERSウイルスは、肺を中心とした下部気道で増殖し、経過が早く、重篤(高い致死率)ですが、ウイルスの感染力は比較的低い(ヒト-ヒト感染は稀で、主に増幅動物のラクダからヒトです)。他方、SARSは肺だけでなく上中部気道でも増殖し、感染力はMERSよりも強く、しばしばヒト-ヒト感染を起こします。致死率はMERSの1/4くらいです。

 コロナウイルス感染症の特徴は、小児の発症者が少ないこと(SARS5~7%, MERS2%)

です。高齢者、基礎疾患の持ち主、免疫不全者では、発症・重篤化が顕著です。小児では不顕性感染?軽症感染?、あるいはウイルスに暴露されても感染しないのかは不明ですが、この傾向は、SARS, MERS, COVID19のいずれにも見られます。発症から人工呼吸器管理までの日数、発症から死亡までの日数はMARSのほうが短い(急性)経過です。市中感染はSARSではまれ、MARSでは通常、起こりません。

 ここからは、今回の流行の原因となっているCOVID19について考えてみます。2019年12月中国湖北省武漢市で流行が始まり、12月下旬には市中感染レベルまで拡大したと思われます。12月31日に武漢で原因不明のウイルス性肺炎が確認されたことが正式に発表されました。「華南海鮮市場」で働く人に患者が多く、1月1日市場は閉鎖されました。

 1月7日にウイルスが分離され、新型コロナウイルスが原因と判明しました。1月12日原因ウイルスのゲノム(RNA配列)が明らかにされました。しかし、感染は拡大し、1月23日には武漢で交通機関が停止され、武漢市は封鎖されました。中国では1月24日から30日までが春節で、多くの人の移動が起こりました。武漢でのアウトブレイクと、中国全土へのウイルスの拡散が起こったと思われます。春節休暇は2月2日まで延期されました。1月31日には世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言をおこないました。

 1月31日現在では、中国の感染者は9,692人、死亡者は212人でした。わずか1か月で、約1万人の感染者と200人を超す死亡者の流行は、これまでの新興コロナウイルス感染症「SARS」、「MERS」に比べると、非常に速い流行の拡大です。ただし、丁度このころに米国で起きていた2019年末~20年初頭の季節性インフルエンザでは患者総数が1900万人、1月19~25日までの1週間で新規の患者数が400万人増でした。18万人が入院、死者数は1万人を超えていました。COVIDの発表とよく比較して報道されていました。

 2月3日には、中国の死亡者は361人となり、2003年のSARSによる中国の死亡者数を超えたと発表されました。しかし、感染者の推移をみると、武漢の感染者数は2月中旬でほぼ横ばいとなり新規の患者数は減り始める傾向がみられます(赤線、第I期)。しかし、中国の患者総数は増加し続けており武漢以外の中国本土で感染の拡大が起きていることを示しています(青い棒、第II期

 2月5日には、ダイヤモンド・プリンセス号における集団感染が明らかになり。①高齢者集団から構成される、豪華客船という閉鎖空間内での新型コロナウイルス感染症という想定外のシナリオになり、こうした事例における感染症危機管理の難しさが、明らかにされました。また、武漢では①急遽(1週間~10日で)建設した病院に、高齢の重症感染者のみを集中させるという方法をとりました。インフラの伴わない医療崩壊した病院に過剰な重症者のみを集中させることはウイルスの濃度を上げ、致死率を上げるだけで、有効な対処法ではないことを示したと思います。このようなケースは、新興感染症のクライシス・マネージメント(危機管理対応措置)を検討するのに重要な事例です。

 この感染症は、WHOから2020年2月11日にCOVID-19と命名され、日本では2020年1月28日に「新型コロナウイルス感染症」とされ、2月1日に「指定感染症」とされました。

 COVID19の経緯を新規患者数の変遷で見てみると。1月初頭から武漢で流行した新型コロナ感染症は2月初頭がピークで、2月中旬には終息に近くなっています(第I期)。他方、春節を契機に中国全体に拡散したCOVID19は初旬~中旬ををピークに(この時期に患者の範囲(定義)を変えて調査をしたために、患者数は不連続になっている)2月末には減少しているように見える(第II期)。2月末から韓国、日本をはじめ、中国以外でもCOVIDのアウトブレイクがはじまった状況です(III期)

 SARS, MERSに比べると、COVID19はインフルエンザに似た上部気道感染を主流にする流行パターンであり、ウイルスの不活化法も類似していることから、①季節性インフルエンザの封じ込めの上図な国では大規模な流行は起こさないかもしれない、逆に言えば、インフルエンザの抑え込みの下手な国、医療インフラの脆弱な国では大きな流行になる危険性が高い。②また小児や若齢者の多い途上国では、新興コロナウイルスの感染症の特性から(小児、若齢者は軽症ですむ?)、小児が重症化するインフルエンザのような深刻な感染症にならず、見た目には軽い感染症ですむかもしれない。③他方、高齢者や超高齢社会の先進国の方が死者の多い深刻な感染症の様相を呈するかもしれない。

 COVID19ウイルスの由来については、中国が早期にウイルスゲノムを公表したために、急速に分析が進められた。アクセサリー遺伝子としては3a, 6, 7a, 7b, 8,10 を持っている。βコロナウイルス属であるが、C系統のMERSとはかなり遠く、B系統のSARSやSRASrCoVに近い、特に2013年に分離されたナカキクガシラコウモリのコロナウイルス(RaTG13)に最も近い。これは2013年に中国の雲南Yunnanの莫朗Moglangの洞窟でキクガシラコウモリの糞から分離したウイルスである。

 またこれまでのアクセサリー遺伝子の機能から見ると、3aと7aはサイトカイン産生の誘導?ORF6はSTAT1を介したインターフェロン産生系を阻害、7bは膜蛋白?、ORF8はウイルス構成蛋白との相互作用、細胞内ウイルスセンサー蛋白(MDA5)の阻害が考えられます。ORF10 の機能は、まだ不明です。

 ナカキクガシラコウモリのRaTG13に比較して、COVID19ウイルスには、S蛋白(スパイク蛋白)に非常に特徴的な変異が見つかっている。COVID19ウイルスが細胞受容体と結合する際に重要なS蛋白の2つの部位O糖鎖結合部位と細胞受容体ACE2との結合ドメインの配列で変異がみられる。糖鎖結合部位では、ヒトのCOVID19ウイルスは、コウモリやセンザンコウのウイルスにくらべ、塩基性アミノ酸配列が付加されている(蛋白分解酵素で開裂しやすく、活性化しやすい配列になっている?)。ACE2結合部位では、ナカキクガシラコウモリのRaTG13ウイルスよりもセンザンコウpangolinのウイルスの方がヒトCOVID19ウイルスに相同性が高い

 SARSの場合、自然宿主の小型コウモリのACE2でなくオオコウモリのACE2がウイルス受容体活性を持っていた、COVID19も自然宿主の小型コウモリ(RaTG13?)→増幅動物(センザンコウ?)→ヒトという可能性もあるかもしれない。

 COVD19ウイルスの感染性及び病原性について考えてみましょう。COVID19 による死亡者の多くは、SARSあるいはMERSと同様に高齢者、基礎疾患を持つ者、免疫不全者などです。中国の報告では80歳以上の患者の致死率は14.8%であり、循環器系疾患の患者では10.5%でした。

 医療従事者の感染は72,000人中約3,000人(4.2 %)以上ですが、PCRで陽性になったのは1,716(2.4%)でした。SARSの21%、MERSの26%に比べると、約1/10であり、COVID19ウイルスは、一般にヒトに対する感染力が強いわりに病原性が低く、医療関係者の巻き込みが少ないことは、この感染症の蔓延防止がSARS・MERSに比べ、プロテクション(感染防止)に注意すれば、比較的容易であることを示しています。COVID19の医療関係者の致死率は約0.3%で、SARSの2.2%に比べ、やはり低いです。

 COVID19では、約80%以上の患者が軽度の症状で回復しているようです。有症者の14%が肺炎・呼吸切迫となり、5%が呼吸障害、敗血症ショック、多臓器不全を起こし、致死率は高齢者に多く2%です

 今後もコロナウイルス新興感染症が起こりうることを考え、想定外のシナリオであったダイヤモンド・プリンセス号の事例について考えてみたいと思います。

 通常の感染でのCOVID19のR0を2.5としたとき、豪華船という限られた空間で個体密度、濃厚接触頻度共に高いこと(Cが2倍)、高齢者が多く、重篤化し、ウイルス量が多く・排出期間が長い(Dが2倍)とすると、新しいR0=10となる。これで推定すると、非感染者は360人となり、残りは感染者となる。このうち80%が軽症~不顕性感染とする。次いで有症者、重症化患者、死亡者を推定すると以下のようになります。

 非感染者360人、軽症・無症状?2592人、PCR陰性?1656人、有症者648人、肺炎91人、人工呼吸器32人、死亡13人です。あくまでモデルですので、あてはめた数字は、精査すれば、いろいろ変わりますが、全体像は理解しやすいと思います。

 頭を整理するために、ここでMERS, SARS, COVID19 の特徴について簡単な比較をしてみようと思います。呼吸器系を標的にするウイルス感染症では、一般に下部気道(肺)でのみ増殖するウイルスは重篤な肺炎を起こし致死率は高いが、排出されにくいので伝播力は、比較的弱い。他方、主に上部気道(気管、咽頭・喉頭)で増殖するウイルスは伝播力は強く、容易に拡散し、アウトブレイクを起こすが、症状は軽い(不顕性感染が多い)傾向があります。コロナウイルス新興感染症では、感染力はMERS<SARS<<COVID19の順です。他方、病原性はCOVID19<SARS<<MERSの順になります。

 今回のCOVIDの流行から学ぶべきことは、多くあります。

天然痘、エボラ出血熱、SARS,ニワトリ高病原性鳥インフルエンザなどは、重篤で感染性の強いウイルス病ですが、統御は比較的容易です。臨床的に感染個体を識別でき、流行パターンを読みやすいからです(流行初期の濃厚接触者追跡が有効)。他方、H1N1パンデミックインフルエンザ、季節性インフルエンザ、ニワトリ低病原性インフルエンザは、統御が困難です。確定診断がむずかしい。初期には有症状者・重篤化した患者のPCR診断のみ。不顕性感染が多く、濃厚接触者追跡に限界があることです。

 今回のCOVID19は、後者のタイプです。初期には濃厚接触者追跡で感染系統図を試みたが限界があり、市中感染化したステージで武漢からの関係者等からクラスター感染防止に切り替えた。大規模なイベント自粛などの蔓延防止と、クラスター感染追跡は、限界があるが、市中感染拡大阻止には適切な手段と思われる。ただ、対策の有効性評価は、対策後1~2週間後になることを理解しておく必要がある。

 感染症の封じ込めに必要な措置は、当然ステージによって違います。

今回のCOVID19の封じ込め対応を見ていると、新型インフルエンザ用に準備された行動計画がかなり役に立つとおもいました(ダイヤモンド号と武漢の重症患者集中病院は想定外)。 一般に感染者のウイルス排出量とその期間は、無症者が最も少なく・短い。反対に重症者は最も多量のウイルスを長期間排出する可能性が高い。従って、重症者や高齢感染者は、トリアージし、出来るだけ医療体制の整った感染症病院で早期対応をとる必要がある。市中感染期には、医療崩壊防止と蔓延防止のために重症者の入院・治療、および軽症者の在宅医療が基本となる。

 たとえば、もし感染していたとしても(R0=2.5であれば、2.5人に感染を拡大する危険性がある。)、咳をした時に飛沫が飛ばないようにマスクをすればリスクは0.5?減少する。不要な外出を避け自宅療養すれは、さらに0.5減少?、家庭内の濃厚接触を避ければ0.5減?、手洗い・消毒をまめに行えは0.5減少する?とR0=0.5となり、R0は1以下なので感染は終息する。また、解熱し、呼吸が改善され10日もたてば、ウイルスは排除されるので、外出も大丈夫になるのではないでしょうか? 

 下の新型インフルエンザ行動計画図からすると、現在は第1紀の武漢での流行、国内発生早期(武漢滞在者の発病、屋形船・・・)から、クラスター感染・市中感染の感染拡大期さらに蔓延期に向かっているところで、封じ込めれるか否かの瀬戸際になりつつある。科学的エビデンスに元ずく政治判断が必要なステージであろう。

 COVID19感染症対応の特徴は、新型インフルエンザ対応のフェーズ5,6の実行体制をとったことである。2009年のパンデミック時には、大阪で実施する寸前で止まった。WHOも機械的にパンデミック・フェース6を表明したが、各国に封じ込め対応は求めなかった(感染力と病原性が別の物であると判断したため)。

 フェース6対応は、科学よりも政治判断が重要であり、社会・経済的影響が非常に大きい。大きな混乱を生むことは間違いないが、いつかは本当にフェース6対応が避けられない感染症が来るであろう。フェーズ6体制下で社会・経済・生活を維持するためのあらゆる分野でのBCP(Business Continuity Plan)を準備するよい機会であると思われる。

 COVID19感染症を無事に乗り越えられた時は、どの様なタイミングで規制を緩和するかという政治的、科学的判断が必要になる。BSEの時には何度も経験したが、規制を強めるよりも緩和するときの方が難しい。

 日本の新型コロナウイルス感染症について、もう一度、時系列で整理してみました(3月8日)まで。2月末(25日、27日)に出された方針・規制措置の有効性が評価できるのは半月後くらいになるでしょう。

 おまけ(2020年3月1日以後の経過):パッシブサーベイランス(感染系統図による濃厚接触者で有症状者の確定診断)から、アクティブサーベイランス(発熱者検査、疑い例?)にPCR検査が拡大すると、これまで軽症・無症状あるいは対象外であった真の感染者が陽性者に加わる。「時間経過から見ると下の図のようになる。封じ込め措置が有効になっていても、陽性数は遅れて一気に増加するように見えるので注意が必要」、と書きましたが、この仮説は、検査数とPCR陽性者数の相関を調べると、間違っていました。すみません。

 以下のHP(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covis19)に、毎日の(新規の)有症者数(患者数)、陽性者数(PCR陽性者)、および報告された検査数(有症者と濃厚接触者、疑似症者)のグラフが載っていました。詳細な数字も見られます。2月6日から3月18日までのデータがありましたので、これを対象に調べてみました。

 その結果、有症者(患者)とPCR陽性者は見事な相関をします。しかし、驚いたことに検査総数とPCR陽性者は、全く相関しません。毎日の検査総数とPCR陽性率(陽性数/検査数)を調べれば、当然逆相関になります。このことは、約80%が軽症あるいは不顕性感染というデータを考慮すれば、現在の検査材料の採取方法では、PCR法では検出できないということになります。他方、ウイルスゲノムを検出できないということは、ウイルスを感染させるリスクは低いということにもなります。

 検査総数を増やせば、PCR陽性者数が増え、流行の全体が分かるということはないようです。流行データとしては遅くなります(とった対策の有効性評価を迅速に知るには、あまり有効な手段ではありません)が、やはり流行の全体を知るには抗体調査が必要です。

 PCR陰性の濃厚接触者や疑似症者が、新型コロナウイルスに感染しているとすれば、現在の検体採取法ではPCR陽性にならないので、(採材時に)鼻腔や咽喉頭にはウイルスはいない。従って、ヒトに感染させるリスクは、有症者(患者)より低いということになります。

 他方、有症者とPCR陽性者の相関は非常に高いので、①患者臨床診断の確定診断としてはPCR検査は非常に有効であること、②PCR陽性者は、検査日にウイルスを排出している患者で、感染を広げるリスクが高いことになります。③ただし、新規のPCR陽性者が、実際に感染したのは、検査日の10日~2週間くらい前のことになるでしょう。

 累積患者数のデータは、流行初期には意味を持つ(拡大傾向が読める)が、流行が広がり、対策が取られ始めた後は、あまり意味を持たない。流行の変動を敏感に読めないからです。特に対策の有効性の有無を判断するには、累積数でなく、新規の陽性者数の方が事態を理解しやすい。しかし、陽性数だけを切り離して考えるのは正確ではありません。本当は、検査した母集団の規模を考える(補正する)必要があります(上の図で説明しました)。新規陽性者数の変動は、新規感染数ではないことを理解することが必要です。平均潜伏期と発症後の疑いまでの日数(10日~2週間?)を考慮すると、新規陽性数は感染時から10日~2週間後に見ている数字です。特に、とった対応の有効性を評価するには、このタイムラグを考慮して、新しい対応を考える必要があります。そのことを考えて、グラフを作ってみました。これは、BSEの時、一般の方に理解してもらうのに苦労しました(あの時のタイムラグは5年という長いものでした)。

 封じこめ対策が、それなりに効果を示している様子で?新規陽性者数がやや減少し始めたように見える。しかし、日ごとのPCRの検査数が大きく変動しているので(検査数が非常に多い日は、陽性率が一桁下がっている。)、一定の傾向を読むにはもう少し時間がかかるように思われる。

 3月後半のデータが出てきましたので、日本における流行の全体からその推移を概観してみようと思います。日本におけるコロナウイルスの侵入は、潜伏期・発症期から考えると、1月のかなり早い時期に起こったと思われます。第1期は中国旅行者、武漢滞在者、チャーター機帰国者などによるウイルス侵入期。第2期は2次感染、濃厚接触者による流行の拡大期で、注意喚起や自己防疫のための注意が喚起されました。第3期はクラスター感染(追跡可能?)、と市中感染(追跡不可能?)の混合したステージで、イベントの中止要請、全国休校、あるいは北海道のようホットスポットでは外出禁止要請のような危機管理対応がとられ、あ内ブレイクを避ける措置が取られました。小康状態ですが、新たに海外でのオーバーシュート?(アウトブレイク)を受けて、欧米などからの帰国者や旅行者が、新たにウイルスを持ち込むシナリオが加わりました(第4期?)。

 4月になりました。入学式は、中止になりました。新学期に向けて、3月23日に新入生を含む全学生と教職員を対象にアクティブ・サーベイランスを始めることにしました。既に10日が過ぎ、上級生は90%近い学生さんから報告をもらいました。(4月1日で全学生から回答をもらいました、教員は90%の報告でした。)症状の有無やリスクのある場合の3月中の行動等を調査し、フローチャートを作って、ケースに応じた対応策を検討しました。

 今治に戻ってくる学生さんが増えています。どのように感染リスクを免れるか(大都市で待機するよりはまし?)。今治での生活の仕方、オリエンテーションを含め大学への登校におけるリスク回避の方法など、走りながら考えている状況です。

 大都市をはじめ、3月20日からの3連休で緩んだ行動のツケが、今、明らかになりつつあります。心配していたように急速に拡大したことが明らかになりました。その後の引き締めの効果が読めるのは、これからです。今治に戻った学生さんについても、健康状態を再度調査する必要があります。大学活動の事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)を立てなければなりません。不安の中での計画になります。あくまで科学的評価に基づいて、行動計画を立てていこうと考えています。

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。

 

妻が、稽古に通い、粘土で作った作品です。昨年、東京フォーラムで、他の生徒さんと一緒に展示されました、「仙人草」

(水やり不要です)。