2016年9月15日に母校の長野県立飯田高校で出張講義をします。以前の講義は「サル類の研究」に関する話で専門的すぎたと反省しました。今回は「生体防御機構の進化」をめぐる話しで、以前に新宿戸山高校で「新しい免疫学の進展」として話したのが最初です。もう一つは千葉科学大学に来てから新しい講義として始めた「病原体の科学」のうちウイルスを例にとって話します。

 免疫学として話すと分子生物学やゲノム科学の説明が中心になってしまい、生物学としての免疫や生体防御と離れた話になってしまうので、ここは生物進化と生体防御機構の複雑化をとおして、免疫現象を理解してもらいます。高校2年生には少し難しいかもしれませんが想像力を膨らまして理解してください。

 

 太陽や地球が約46億年前に誕生しました。地球上に生命が誕生したのが約40~37億年前の化学合成嫌気性独立栄養細菌といわれています。地球の生命史40億年の約半分は細菌だけの世界です(ウイルスは約30億年前に出現したと推定されています)。独立栄養細菌の合成した有機物を利用する従属栄養細菌、光エネルギーを利用する光合成独立栄養細菌、酸素を産生する細菌、好気性の従属栄養細菌など古細菌を含め多様な細菌群が切磋琢磨していました。細菌が細菌自身を守る手段として開発したのが抗生物質、抗菌ペプチド、DNA切断酵素、酸素などの武器です。

 20億年前に原始真核生物(原生生物群、原生動物や藻類)が登場し、αプロテオ菌の祖先をミトコンドリアに、シアノバクテリアの祖先を葉緑体として共生し、進化を遂げました。原生動物のアメーバは、多細胞生物になった後の間葉系細胞の大食細胞(マクロファージ)に似ています。マクロファージからはやがて顆粒球やリンパ球が分岐してきます。

 10億年前に原始的な多細胞生物が登場し、その体は体細胞と生殖細胞に分かれ、体細胞も生体物質生産、代謝、防御などと、その機能を分けてきました。5~6億年前のカンブリア紀に多様な高等多細胞生物が爆発的に出現しました。やがて脊椎動物が魚類、両性類、爬虫類、鳥類、哺乳類と分岐し、生体防御系も自然免疫から獲得免疫(特異免疫)へと進化を積み重ねてきました。「生体防御学」も「病原体の科学」も、地球上の生物の進化と多様性を理解するところから始まります。

 

 簡単に生物進化に伴う生体防御機構の複雑化を概観してみましょう。

 外界から糖(エネルギー源)を取り込むための蛋白質(とりもちのような蛋白質)を作ります。これがレクチンです。レクチン蛋白は細菌から既に産生されていますが、原生動物でも発達しています。高等動物ではレクチンは複雑化、多様化し、その中に病原体の糖鎖を認識し生体防御のセンサーとしての役割を果たす、「生体防御レクチン群」が発達します。従属栄養の好気性原生動物は、動き回るため、ミトコンドリアでのエネルギー産生に多くの糖を必要としたでしょう。

 10億年前に原始的な多細胞生物が登場し、6億年前には海綿、イソギンチャクが誕生します。外皮と内皮細胞層の間に、間葉系の細胞として大食細胞様(マクロファージ様)の細胞が出現します。脊索動物、無顎類では基本的な自然免疫系(マクロファージ、顆粒球、補体の第3成分、NK細胞)ができます。

 5億4千万年前に魚類が誕生し、NKT細胞、原始的な胸腺、T細胞と免疫グロブリン(IgM)産生のB細胞が出現します。3億5千万年前に両生類が誕生すると、陸上生活になり、鰓呼吸から肺呼吸に代わります。爬虫類になり、鰓は胸腺に分化し、多様なT細胞機能が備わってきます。鳥類ではT細胞系とB細胞系の特異免疫が完成します

 1億5千万年前に哺乳類が誕生し免疫グロブリンの多様化が進みます。病原体に最初に反応する自然免疫、次いで特異免疫のT細胞とIgM、クラススイッチしたIgG、分泌抗体のIgA,アレルギー反応のIgE,未成熟B細胞の成熟シグナルであるIgDが産生されるようになります。

 

 生体機能には新しい形質を獲得すると、古いものを消してしまう場合と、古いものの上に新しいものを追加していくタイプがあります。追加の最もいい例が脳構造です。ヒトの脳はワニの脳にトリの脳、ウマの脳を積み上げているといわれるように、古い脳を残しつつ新しい皮質を付け加え複雑化しています。生体防御系も同様で、免疫機能の進化の表に見られるように、バリアシステムから自然免疫、特異免疫(獲得免疫)というように積み上げられています。

 古い生体防御系は単純ですが、その対応は複雑で1システム対多数対応(特異性の低いパターン対応、言い換えれば柔軟な対応)です。他方、新しい系は複雑ですが、その対応は1対1(例:抗原と抗体)ときわめて単純(特異的)です。ちょうど受精卵が単純なのに多分化能を持つ複雑系なのに対し、発生に伴い分化し複雑化した各臓器の細胞が特殊な機能しか持たない単純系としてふるまうことに類似しています。面白いですね。一般教養の学問と専門分野の学問の関係も類似しているかもしれません。

 

 生体防御機構はハードとソフトからなっています。ハードウェアは主に自然バリアからなり、ソフトウェアは自然免疫、特異免疫系といえます

 ハードウェア(自然バイア)は皮膚の扁平重層上皮のように脱核した上皮細胞を幾重にも重ねて、異物の侵入を防いだり、粘膜上皮を粘液(分解酵素や酸性多糖など)で覆ったり、唾液や涙、汗のように付着異物を洗い流す、あるいは血液中のトランスフェリンのように細菌の必要とする鉄を吸収してしまう等の方法があります。

 免疫系は自然免疫と特異免疫があります。自然免疫の特徴は、後で述べるように、先天的に備わっている免疫系で、非特異的(パターン認識)的な生体防御反応を担います。外界との接触部位に発達し、異物侵入時には素早く反応します。炎症反応(主として好中球やマクロファージ)を誘起して異物を排除するのですが、免疫記憶は残らず、同一の病原体に侵入されても、反応は増強しません。主な自然免疫にはレクチン、トール様受容体、抗菌ペプチド、C反応性蛋白、補体、インターフェロンなどがあり、活躍する細胞はマクロファージ、好中球、NK(ナチュラルキラー)細胞などです。

 特異免疫は自然免疫が突破されたときに起動するシステムといえます。従って、抗原に触れてから後天的に獲得される特異的な免疫応答です。反応はやや遅く、リンパ球を主体とする炎症反応を起こします。一度抗原に触れ、免疫記憶細胞が産生されると、2度目の反応は素早く、強く起こります。二次応答と呼ばれる現象です。ワクチンはこの性質(2度罹りなしの経験則)を利用して開発されたものです。

 

 レクチン、補体、トール様受容体、抗菌ペプチドについて簡単に説明します。

 レクチンは糖に結合する蛋白の総称ですが、その中で「生体防御系」のセンサーのような役割を果たすレクチンがあり、「生体防御レクチン」として纏められています。病原体の表面には細菌のLPS(グラム陰性菌の外膜:リポ多糖体)、細菌の細胞壁ペプチドグリカン)、真菌の細胞壁(βグルカン)のように、糖を含んでいます。こうした微生物特有の表面糖関連分子群などを病原体関連分子パターン(PAMPs)と言います。動物レクチンにはこうした糖に結合し、補体などを活性化して炎症反応を誘導し、異物を破壊、処理する働きがあります、生体防御レクチンとしては、コレクチン、フィコリン、ガレクチン、ペントラキシンなどのレクチンが有名です。

 抗体を補うものという意味で命名された補体は正常な動物の血清中に存在しますが、単一の蛋白ではなく、凝血系のように一群の蛋白分子群です。補体の第一成分(C1)から第9成分(C9)までが主な成分です。補体系の活性化経路を調節する蛋白群もあるので、全体としては20種類くらいの血清蛋白群が関与しています。補体の活性化には古典的経路(抗原抗体複合体によるC1の活性化)、第2経路(プロパージン経路:病原体が直接補体系を活性化する)、レクチン経路(マンノース結合蛋白が補体系を活性化する)という3つの経路があります。補体の役割は抗原抗体複合体に結合して食細胞が異物を取り込み、処理しやすくする(オプソニン、調理化)機能と、炎症細胞を呼び集める機能、C5~C9の複合体で細胞膜に孔をあけ、細胞を破壊する機能があります。

 トール様受容体は種々の病原体のパターン分子(PAMPs)を認識する受容体です。細菌の鞭毛、ウイルスの2本鎖RNA,ウイルスの外殻糖蛋白、細菌やウイルスのメチル化されていない核酸配列などです。トール様受容体が活性化すると、細胞内の情報伝達系を通じて生体防御系の遺伝子(炎症性サイトカイン遺伝子やインターフェロン遺伝子)が活性化され、これらの蛋白が発現します。

 抗菌ペプチド(抗微生物ペプチド、抗生物質)は細菌からヒトまで産生します。多くは陽性に荷電しており、陰性に荷電する細菌の外膜などに結合し、細胞膜に孔をあけて破壊します。多剤耐性菌の最後の切り札と言われるコリスチン(ポリミキシンE)は細菌が作る抗生物質です。ディフェンシンのように昆虫からヒトまで多様な分子種からなるものや、蜂・カエルなどの毒として働く抗菌ペプチドもあります。

 インターフェロンは抗ウイルス作用を示す蛋白で、日本で発見されました。生体防御と関連するインターフェロンにはα、β、γの3種類があります。ウイルス感染がおこると、αとβインターフェロンは感染したほとんどの体細胞で産生されます。γインターフェロンは免疫T細胞から産生され、主として特異免疫応答の調節に働きます。

 

 自然免疫が進化のどのレベルから発達したかは、まだ明確には分かっていません。

 レクチンは細菌から真菌、植物、動物まで広く存在しています。系統進化に伴い、レクチンの種類と結合する糖鎖の種類は多様化しています。その中で生体防御系のレクチンとして機能をもつものが出てきました。動物レクチンとしては扁形動物や節足動物くらいから発達を遂げたと思われます。

 トール遺伝子はショウジョウバエの形態形成遺伝子として見つかりましたが、類似のトール様受容体(TLR)は自然免疫の受容体として機能することが明らかになりました。TLR遺伝子は植物にもありますし、節足動物にもあります。節足動物では抗菌ペプチドの産生に関連します。植物、昆虫のどちらも生体防御系のセンサー的な機能を持ています。しかし自然免疫系として体系的機能をもったのは脊椎動物になってからではないかと思われます。

 補体系は古典的経路、副経路、レクチン経路の順で見つかりました。しかし、進化上は、レクチン経路、第二経路(副経路)、古典的経路の順に発達しました。ウニ(棘皮動物)にはC3(補体系のキーとなる第三成分)が存在します。またエビ(節足動物)やホヤ(原索動物)にはC1とC3が存在します。

 インターフェロンは節足動物や原索動物には存在しないようです(十分に調べられていない)。脊椎動物(無顎類、軟骨魚類、硬骨魚類)になって発達したと思われます。センサーであるTLR3で2本鎖のウイルスRNAの認識と同じころに発達したのかもしれません。

 

 特異免疫の特徴は、①自己と非自己の識別ができること、②免疫反応が記憶され、同じ抗原に対して二次応答が起こること、③抗原分子に対してT細胞もB細胞も1対1対応をすることです。長い間、いずれも免疫学の謎でした。

 特異免疫細胞(T,B細胞)は自己と非自己をどのように認識するのでしょうか?自分と他人の違いは何でしょうか?人が自我に目覚め、他者と自己を意識するのは思春期頃ですが、免疫細胞は胎児期にすでに胸腺で正の選択と負の選択により、自己成分に対して寛容状態となり、それ以外は他者として排除に働きます。

 一度感染症に罹ると、二度目の反応は素早く、より強く起こります。脳の記憶は時間とともに劣化しますが、免疫記憶は劣化しません。どう違うのでしょうか?免疫の記憶は、抗原に反応したT,B細胞の中に免疫記憶細胞が生じて、リンパ節などに残り、次の抗原に反応する準備を整えています。

 特異免疫の最大の謎は、抗原への対応が1対1という現象です。麻疹の記憶は麻疹に、風疹の記憶は風疹にしか効きません。自然免疫がパターン認識なのに対して、特異免疫は1つの免疫細胞クローンが一つの抗原にのみ対応します。どのように、無限に近い数の抗原に1対1に対応できるのでしょうか?答えはクローン選択説と抗原受容体の遺伝子再構成でした。今風に言うなら、特異免疫リンパ球はゲノム編集を行うのです。

 生物進化のステージでは、無顎類(ヤツメウナギやヌタウナギ)から顎口類(軟骨魚類、硬骨魚類)への過程で特異免疫は飛躍的に進化します。現存する生物ではそうですが、化石生物を間に入れると、無顎類から顎口類までの間には、多くの中間生物と長い時間の経過があります。

 

 簡単に特異免疫細胞に至るまでの生体防御に関連する細胞群を振り返ってみましょう。

食作用、レクチン系:免疫システムのない生物群は、抗体の祖先のようなレクチン(とりもち)蛋白を産生し自分を守る。生体防御の主役は、φ(マクロファージ)様の細胞です。多細胞生物では、外皮と内皮の間に原始的なMφ(アメーバ的な性質を持つ)様細胞として存在します。

顆粒球:原始的なMφ細胞から、赤血球、好中球などが分岐します。大食細胞のφと小食細胞の好中球、そのほかに好酸球、好塩基球などが産生されるようになります。海綿は自己と非自己を認識する原始的能力はありますが、リンパ球がなく、免疫記憶は残らないと思われます。

NK(ナチュラルキラー)細胞:Mφから最も原始的なリンパ球、ナチュラルキラー細胞が分岐します。癌細胞など外来性の異物でなく、自分らしさを失った自分の細胞を排除する自然に備わったキラー(殺し屋)細胞です。ミミズ(環形動物)、ヒトデ、ナマコ(棘皮動物)等が持っています。

NKT細胞:NKT細胞は原始的T細胞で、内部監視の機能を果たす細胞です。NKT細胞はNK細胞(本能的に攻撃するキラー細胞)とT細胞(学習して殺すキラー細胞)機能を持ちます(魚類では抗体を産生するB細胞も出来る)。

キラーT・ヘルパーT細胞:自己反応性を持たない(免疫寛容)、強力な外部監視機構として発達した特異免疫T細胞です。キラー細胞は感染細胞を破壊し、ヘルパー細胞はB細胞に抗体産生を促す機能を持ちます(両生類、爬虫類)。

B細胞:抗原に反応しクローン増殖をして、抗体(飛び道具) を産生する免疫細胞。鳥類で完成します(鳥類ではT細胞は胸腺Thymusで成熟します。B細胞はBursa Fabricius、フェブリキウス嚢で成熟します)。T,Bはそれぞれの特異免疫細胞が成熟する免疫中枢(胸腺、ファブリキウス嚢)の頭文字をとって命名されました。

哺乳類ではIgM IgG IgA IgD IgEの全ての抗体のサブクラスが産生されるようになります。

 

 特異免疫の担い手であるT細胞とB細胞の研究の発展を追ってみます。以下に示すようにT細胞に関しては約10年おきに大きな進展がありました。

①T細胞とB細胞の違い。1968年にG.F.MitchelJ.F.A.P.Miller がマウスの胸管のリンパ液中に

抗ヒツジ赤血球のIgM抗体産生細胞前駆細胞(B細胞)と抗原依存性に抗体産生細胞に分化させる細胞(T細胞)の二つの集団が存在することを発見しました。これにより、機能の異なるT,B細胞(リンパ球)が明らかになりました。そして約10年後。

T細胞分岐:1975年にはP.C.Marrack J.W.Kappler 限界希釈法によりT細胞クローンの間明確な機能的差異があることを報告しました。1つはT-helper(抗体産生の誘導)細胞です, もう1つはT-killer(標的細胞の傷害、破壊)細胞です。Tヘルパー細胞はCD4陽性で、キラーT細胞はCD8陽性です。

③ヘルパーT細胞の機能がさらに細胞性免疫と液性免疫に誘導する能力で2つにわかれました。

Th1(細胞性免疫)とTh2(液性免疫の誘導):さらに約10年後、1986年にT. R. Mosmann らが マウスのT細胞クローン間のサイトカインの分泌パターンの違いによってTh1細胞及びTh2細胞の二つのヘルパーT細胞の亜集団の概念を提起しました。

 

B細胞(抗体産生細胞)の研究はT細胞に先行して進められました。

①ベンスジョーンズ蛋白 (Bence Jones protein):この蛋白は形質細胞(抗体を産生する白血球)で作られる蛋白です。多発性骨髄腫(形質細胞に由来する腫瘍)で発現します。ベンスジョーンズ蛋白は低分子容易に尿中に排泄されるので患者の尿から集めることができます。この蛋白質は免疫グロブリンのL鎖 (light chain) の蛋白でした。特殊な性質をもった蛋白で、60℃で熱凝固し100℃で再融解するという変わった特徴のために容易に精製可能でした。この結果抗体分子のアミノ酸配列と構造決定がなされました。1959年という早い時期にエーデルマンが免疫グロブリンの基本構造を解明下のです。(T,B細胞の機能の違いが認識されたのが、前に述べたように1968年ですから、10年後になります)。

抗原と抗体の特異性:クローン選択説(Clonal Selection Theory)。抗体を産生する細胞はエールリッヒが考えた側鎖説でもなく、ポーリングが提唱した鋳型説でもなく、特定のリンパ球(B細胞)が抗原と反応し、クローン増殖する結果、同一クローンが同一抗体を産生するというものでした。1960年代に、いろいろな現象からバーネットの提唱したクローン選択説(1957年)が次第に受け入れられるようになりました。

③1976年利根川進らは免疫グロブリンの遺伝子再構成という現象を発見しました。抗体の多様性に関する遺伝子レベルの謎に答えを出したのです。個々のリンパ球は分化の途中で受精卵の持つ

遺伝子断片のカセットを切り貼り細工をして組み合わせる(VDJ)ことにより、受精卵にはない、個々の遺伝子配列に再編成するというものです。とんでもない発見でした。

 ギリシャ時代から論争された、受精卵の細胞が分裂し、個々の臓器などに分化していく中ですべての情報は維持されるか、あるいは失われるかという論争に一つの答えを出したわけです。山中博士のiPS細胞の研究は、リンパ球のこの形質とは対をなす発見です。多様性のために全能性を捨てるか?多様化しても全能性を維持するか?は偶然、日本の2人のノーベル賞受賞者によって、正反対の実例が示されたわけです。面白いですね。

 

 順列、組み合わせは多様性を生む最高の手段です。ある女性がそれぞれ100個のイヤリングと指輪とネックレスを持っています。彼女は300個の手持ちの飾りで、100の3乗、百万通りの飾りつけの組み合わせができます。毎日組み合わせを変えても2500年間同じものは出てきません。抗体の多様性はこのようにしてできています。

 

 免疫系がなぜ進化したのかは明らかにされていません。しかし生物が進化、放散の過程でその棲息環境を変えていったことが影響したと思われます。

・原生動物:エネルギーとして糖を取り込むレクチン、貪食能

・下等多細胞生物:接合する相手、仲間と他者(餌)異種拒否、補体、顆粒細胞?

・高等多細胞生物:寿命の延長、生体機構の複雑化、体内の異常細胞の排除機能(NK細胞)

・ウイルス、細菌、寄生虫等の侵襲への抵抗、パターン対応から個別抗原:TLR, NLR, MHC, TCR

・陸上生活(病原体との接触機会の増加):T細胞進化 

・恒温動物:(微生物増殖の場)、B細胞の進化といったことが考えられます。 

 

 生体防御システムを振返ると、

①最初は外来異物の侵入部位にマクロファージや好中球が集合し、異物の排除に働きます。多くは病原体等に共通の分子(PAMPs)を認識したり、レクチンで糖鎖を認識します。災害時のボランティア活動のようなもので、しっかりしたシステムが出来ているとは言えません。緊急時対応の自警団ようなものです。

②自然免疫から特異免疫の懸け橋のような役割をするナチュラルキラー(NK)細胞が活動します。どちらかというと外来異物よりは内部に生じた異常細胞(自己でなくなった細胞:例は癌細胞や感染して異常になった細胞)を攻撃・排除して恒常性を保ちます。NK細胞の殺し方は、後のキラーT細胞の殺し方と同じです(パーフォリンとグランザイムを使います)。NK細胞は、国内を守る警察官のような役割といえます。

③次は細胞性免疫です。T細胞による特異免疫反応です。外来の異物や病原体と組織的に戦う陸上自衛隊のような存在です。個々の役割が明確化し、免疫記憶が残ります。次期の侵入に備えた防衛プログラムができるわけです。排除の仕方は、感染細胞と1対1で接触して破壊する肉弾戦です。

④最後はB細胞による抗体で病原体を不活化したり、補体や貪食細胞を使って異物を排除します。T細胞が陸上自衛隊であれば、B細胞は組織的に飛び道具(抗体)を使う、航空自衛隊のようなものです。T細胞同様に免疫記憶を残します。

 

ここで説明した、生体防御系の進化は、教科書の中のことではなく、我々の体内で起こる現象ですおさらいを兼ねて、インフルエンザウイルスに感染した時の生体防御反応の推移を見てみましょう。①ウイルスが上部気道の上皮細胞に感染すると、レクチン系などが活性化し、炎症性サイトカインが産生され、発熱、カタール性炎、補体の活性化などが誘導されます(環形動物、ミミズのレベルくらい?)。②さらにウイルスのRNATLRで認識されて、インターフェロンの産生が起こり、NK細胞が活性化されます(円口類、ヤツメウナギくらい)。③ウイルスの増殖が続くと、下部気道の肺胞マクロファージなどが感染し、特異免疫系が活動を始めます、へルパーT細胞が細胞性免疫と液性免疫とを誘導します(魚類から哺乳類)。④回復すると免疫記憶のT細胞、B細胞が残り、ワクチンと同様に、次に感染した時、速やかに2次免疫応答を起こすことができます。我々の生体防御系は40億年の生物進化を決して忘れてはいません。絶えず繰り返して利用しているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 ここからは「病原体の科学」です。大学では90分の講義15回分の内容ですので、概要をまとめるとしても無理があります。今回は微生物とは?という中で、ウイルスの特性について紹介します。高校生には少し難しいかもしれません。

 

 ペストはペスト菌の感染により起こる致命的な感染症です。世界史上、3回の大流行を起こしています。ユスティニアヌス帝の時代、中世の黒死病、19世紀末の流行です。このうち最大の流行は中世のペストで、当時のヨーロッパの1/3~2/3のヒトが死んだといわれています。しかし、人類は同時に感染症についていくつか学びました。

 

①中世のペストは、モンゴル帝国によユーラシア大陸の東西を結ぶ交易が盛んになったことが大流行の背景にあります。1347年、中央アジアからシチリア島のメッシーナにペストが侵入しました。欧州に運ばれた毛皮についていたノミが媒介したと考えられています。1348年、アルプス以北に伝播し、14世紀末まで3回の大流行で猛威を振いました。全世界で8,500万人、当 時の欧州人口の1/3 2/32,0003,000万人)が死亡したといわれています。このとき、1377年にベネチアで海上検疫が始まりました。当初30日間だったのですが、後に40日に変更されました。上陸前に、海に停泊させて、もしペスト菌が入っていれば、検疫期間中に発症するので、感染が確認できるというものです。イタリア語の40を表す単語からquarantine(検疫)という言葉が出来ました。

②当時のヨーロッパは宗教が強く、自然科学はイスラム圏で栄えていました。感染症伝播することを発見したのは、イスラム圏の医学者でサーマーンイブン・スィーナー(Ibn Sīnāいわれています。「医学典範(1020年)」で患者の隔離より感染症の拡大を止め得ることを記述しています

イブン・アルハティーブIbn alKhaṭīb14世紀のイベリア半島のペスト流行時に衣類・食器・イヤリングへの接触が発症の有無を左右していることを発見しています。また、イブン・ハーティマ(Ibn Khatima, 1369ペストを見て、感染症は微生物体内に侵入することによって発症するとの仮説を打ち立てました。しかし、微生物の発見は17世紀(約250~300年後)、微生物が感染症の病原体であるが理解されたのは19世紀後半(約600年後)です。

 

 目に見えない微生物を見るためには、顕微鏡が必要でした。1590年にオランダの眼鏡師の親子(ヤンセン)により顕微鏡が作られました。その後、ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)は、顕微鏡を改良し昆虫の複眼を描いています1625年、ガリレオの友人であるGiovanni Faber "microscope(顕微鏡:小さいものを見るメガネ)" いう名称を付けました。最初に細胞構造を顕微鏡で観察したのは イタリアGiovanni BattistaHodierna 1597-1660で、1644年に「ハエの眼」を著しています1665年、ロバート・フック(Robert Hooke)は Micrographia(顕微鏡図譜)を出版し、人々に大きな衝撃を与えました。フックはレーウェンフックの業績を高く評価し、彼の観察記録をラテン語訳して出版し、また、王立協会会員として招きました。微生物学の父」と称されるオランダの商人役人アントニ・ファン・レーウェンフックAntoni van Leeuwenhoek 1632-1723)は、多くの微生物(1674年)や精子(1677年)をしました

 献上はじめて認識された微生物である胞子虫は、1674年にレーウェンフックがウサギの胆汁中に観察した、ウサギ肝コクシジウム(Eimeria stiedai)と考えられていいますレーウェンフックは、また顕微鏡下で、あちらこちらに動くたわみやすい棒のようをしたもの、激しく回転する栓抜きのように螺旋形をしているもの」を見ており、これらはや螺旋菌などです

 

顕微鏡で見た微生物が病気の原因になるということが明らかになるには、まだ時間がかかりました。1838年、細菌を意味するラテン語に "bacterium" が使われました。これは、クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクが、顕微鏡で観察した微生物が細い棒状であったため、ギリシア語で小さな杖を意味するβακτήριον から“Bacteriumと命名したものです。

病原微生物が科学的に判明したのは、19世紀後半のルイ・パスツール(Louis Pasteurロベルト・コッホ(Robert Kochの活躍によります。フランスのパスツール研究所とドイツのコッホ研究所は優秀な科学者を集め、研究成果を競っていました。パスツールは、有名な「白鳥の首フラスコ」を用いて、煮沸滅菌したフラスコ内の溶液には、空気中の微生物の混入を防げば、自然には微生物が発生しないことを実験で突き止め、微生物の自然発生説を科学的に否定しました。さらに世界で初めて、実験室で細菌感染症である炭疽や家禽コレラの生弱毒ワクチン、ウイルス病である狂犬病の弱毒ワクチンを開発しました。コッホは、ゼラチン等を用いた固体培地に1種類の微生物だけを純粋に分離する、純粋培養法を確立し、炭疽菌、腸チフス菌、結核菌、コレラ菌などを分離しました。また、有名な病原菌に関するコッホの4原則を確立しました。パスツール研究所とコッホ研究所の研究者らにより、近代微生物学の基礎が築かれました。

 白鳥の首フラスコの実験は、以下のようなものです。

①フラスコ内に有機物溶液(細菌培養液)を入れる。

②フラスコの口を加熱し長く伸ばし、下方に湾曲させた口を作る

(この形が白鳥の首を想定させる)。

③フラスコを加熱し、細い口からしばらく蒸気が噴き出すようにする

(培養液とフラスコ内の滅菌)

④この白鳥の首フラスコを放置しても微生物の増殖は見られなかった。

しかし、このフラスコの首を折る、あるいは無菌の有機物溶液(培養液)を微生物がトラップされる首の部分に浸し、それをフラスコ内に戻すと微生物の増殖がみられる。

 当時、生気が宿っていると考えられていた非加熱の空気の出入りは行なうが、微生物が細長い首でトラップされ、培養液で微生物の増殖が見られないと言う、極めて説得力ある自然発生説否定実験でした。この実験をもとに1861年、ルイ・パスツールは『自然発生説の検討』と言う論文を公表しました。ワインのアルコール発酵と腐敗による酢化の研究をしたパスツールの経験を生かした証明実験といえます。

 

 最初の生命体である細菌(原核生物)から原生生物(真核生物)ができるまでの過程を簡単に振り返ると以下のようになります。

① 原始地球では最初の細菌として化学合成(嫌気性独立栄養)細菌が出現します。

② 次いでこれらの菌が生産する有機物を利用する真正細菌(嫌気性従属栄養細菌)と

   古細菌(嫌気性独立栄養菌:高熱菌、高塩菌など)が分岐します。

③ 光をエネルギー源とする光合成細菌(嫌気性独立栄養細菌、従属栄養細菌)、

  その後 好気性光合成菌等が出現し、酸素が産生され、空気中の酸素濃度が

  上がります。 

④ αプロテオ細菌の祖先がミトコンドリアとなり、シアノバクテリアの祖先が葉緑体となって、嫌気性真核生物に共生し、原始真核生物が誕生したと思われます。

   原生生物の真核細胞は、単細胞生活から集合、多細胞化し、下等多細胞生物が

  誕生します。カンブリア紀の後に多様な高等多細胞生物が現れ、脊椎動物が魚類

  から哺乳類まで進化してきます。

 感染症の病原体は細菌、原虫、真菌、寄生虫というように地球上に最初に現れた生命体群で、宿主は家畜やヒトのように、最後に出現した生き物です。だとすると中間に多種多様な感染(生物相互作用)があるはずです。事実、最近になってウイルスに感染するウイルスや、細菌、原虫、真菌に感染するウイルスが見つかっていいます。もちろん動物や植物に感染するウイルスがあります。これらは100年以上も前に見つかっています(タバコモザイクウイルス、口蹄疫ウイルスが植物と動物の最初に見つかったウイルス:濾過性病原体、です)。

 

 ここから今日のメインテーマであるウイルスに話を絞りましょう。ウイルスは結晶化したり、エネルギー産生系、代謝系を持たないので生物ではないという考えが長くありました。しかし、独自のゲノムを持ち、複製し、増殖する点では立派な生命体といえます。これから病原体としてのウイルスの戦略を紹介します。

 病原体の大きさは種類によって違います。寄生虫は線虫、吸虫、条虫と3つのカテゴリーがあります。条虫(サナダムシ)のグループには1㎝くらいのエキノコックスから数メートル(10m級のものもある)サナダムシがいます。細菌は1μm~数μmで、約十万分の一から百万分の1メートルの大きさです。グラム染色の陽性・陰性(細胞壁の厚さ)や形(球菌、桿菌、螺旋菌、その他)によって大きく分けられます。通常の光学顕微鏡で見ることができます。しかし、一番小さなウイルスは数十ナノメートルから数百ナノメートルで、平均的には一千万分の1メートルの大きさで、電子顕微鏡でないと見えません。

 ウイルスの大きさは電子顕微鏡や小さな穴の開いたミリポア(小さな穴という意味)フィルターの濾過性で分かります。また、培養細胞に感染させて、死んだ細胞の作る斑点(プラーク)で、その数を知ることができます。

 ウイルスは細菌から動植物まで感染していることから、その起源は古く30億年前くらいと考えられています。その起源については、以下のようにいくつかの仮説があります。

①細胞性の生物ができる前に存在した原始的「自己複製子」が現在も生残している。

  細菌よりも古く、最も原始的な自己複製ユニット??

②細胞性生物内のmRNAtRNA進化し、細胞外で独立した。

  細胞核よりDNAウイルスが、細胞質のRNAからRNAウイルスが出現?

③細胞性生物内のゲノム縮退が極端に進み、現在のウイルスになった。

  細胞内寄生により退行性進化(ミトコンドリア、ブフネラ菌?)

宇宙から隕石について地球に到達した・・・・・????

 ごく最近、外形、ゲノムの大きさが小型細菌よりも大きなメガウイルス群が登場し、話が変わってきました。多くは環境に生息するアメーバ―などに感染しています。小型の細菌(マイコプラズマ)の倍以上のゲノムサイズや大きさを持っていて、これまでのウイルスと異なり、たくさんの蛋白質や酵素を産生します。機能のわからないジャンク(がらくた)DNAを持つこと、DNAとRNAの両方を持つものがあること、蛋白合成に必要な遺伝子群を持つことなどから、原始的な細菌からの退行性進化の説が有力になってきています。しかし、メガウイルスの塩基配列は、既存の生物のDNAとの相同性が7%しかないので、現存しない(絶滅した?)生物群から進化した可能性もあります?

 

 ウイルスは栄養素を取り入れて、自分でエネルギー生産をすることができません。すべて宿主の細胞に依存するので生きた細胞の中でしか増殖できません。また、細菌や通常の細胞のように2分裂で増えるのではなく、全遺伝情報を担うゲノムだけを複製し、別に蛋白質などを合成させ、一気に組み立てるという方式をとっています。細菌から人まで共通する通常の細胞分裂・増殖が手工業生産なら、ウイルスは近代工場のベルトコンベア方式で各部署で部品を作ってから一気に組み立てを行います。そのため、暗黒期(エクリプス期:10~20時間)を経て、細胞あたり10の8乗~12乗101012くらいのウイルス粒子を複製・生産します。

 

 ウイルスが増殖するときに、細胞を使って自分に有利な状況を作り出す、3つの方法を紹介します。自分の情報だけを細胞に読み取らせる方法、自分を複製する足場を作らせる方法、細胞の中に潜んでしまう方法です。

ウイルスは、細胞の最も重要な蛋白合成工場であるリボゾームでの蛋白合成機構(翻訳機能)を乗っ取ります。細胞のmRNAの翻訳機能を止めて、ウイルスのmRNAだけを専門に読み取らせようという戦略です。種々のウイルスが異なる戦術でこれを行っています。mRNAは、細胞の翻訳開始複合体と呼ばれる酵素複合体によって翻訳が開始されます。ウイルス蛋白質の多くは、これらの複合体と結合することにより細胞のmRNAの翻訳を止めてしまします。しかし、細胞の翻訳を止めながら、なぜ、ウイルスのmRNAの翻訳は可能なのでしょうか?ある種のウイルスは、細胞のmRNAと異なり、ウイルスmRNAの中に、酵素複合体のように独自にリボゾームに結合できる部位を持っていることがわかりました。そのため、細胞のmRNAを翻訳できないようにして、ウイルスのmRNAのみを翻訳させる工場に代えてしまうのです。こうした現象をウイルスのシャットオフ(締め出し)機能と呼んでいます。

ウイルスによっては、宿主にウイルスが増殖する足場を作らせるものがいます。上皮細胞で増殖するショープ繊維腫ウイルスは、細胞の上皮細胞増殖因子などに類似の遺伝子を持っています。このウイルス遺伝子を使い、宿主であるウサギの上皮細胞を異常増殖させながら、増えた上皮細胞をウイルス増殖の場に利用します。他のポックスウイルスでも上皮増殖因子様蛋白で上皮細胞の増殖を誘発する類似の現象がみられます。天然痘などに特徴的な皮膚病変である痘疹(ポック)は、こうしてウイルスの指令によって作られ、ウイルス増殖の足場に利用される病巣です。

水痘(みずぼうそう:バリセラ)は、子供の時に罹る病気です。発熱と発疹を主症状とする比較的予後の良好な感染症です。ヘルペスウイルスなので、水痘がなおった後も脊髄神経節や三叉神経節に潜伏感染します。中年以後になってストレスや免疫機能が低下するとウイルスが再活性化し、今度は帯状疱疹として発症します。同じウイルスが潜伏感染し2つの違う病気を起こすのです。ヘルペスウイルスはヒトに限らず、両生類、爬虫類、魚類、鳥類、哺乳類のそれぞれの種が独自のヘルペスウイルスに感染しますが、宿主に潜伏感染する点は共通です

 

 ウイルスにとって、最大の脅威は宿主の免疫応答です。生きた細胞の中でしか増えられないウイルスは、免疫系の活動によって異物と認識され破壊されたり、排除されたりすれば、それでおしまいです。そのためウイルスは、生体防御系に活動を阻害したり、免疫応答から逃れたり、逆に免疫系を標的に選んだり、免疫中枢を破壊するものがあります。

ウイルスに感染すると宿主の防御機構にもスイッチが入ります。しかし、ウイルスが合成する蛋白質の中に、特に初期の防衛反応を阻害するものが見つかっています。初期にウイルスの増殖を止める最も有効な因子はインターフェロンです。例えば、国内流行を起こしたデング熱ウイルスは、自分の増殖に必要なウイルス粒子の構造蛋白の他に、ウイルス粒子に取り込まれない非構造蛋白を作ります。この蛋白にはインターフェロン産生を阻害するものがあります。また、産生されたインターフェロンによって、次の免疫応答を誘発するために働く細胞質・核内の主要な情報伝達因子の機能を止めてしまものもあります。こうした例は、他のウイルスでも見られます。

ウイルスは免疫機構から逃れるために様々な手段をとりますが、最もよくとられる方法は変異です。変異の結果、ウイルスは違う環境に適応できる多様性を手に入れます。ウイルスのような単純なゲノムでは、正確に複製すると同じコピーが出来るだけで全く多様性ができません。こうなるとワクチンや免疫で完全に排除されてしまいます。このようなリスクを避けるために、ウイルスは2通りの方法使います。インフルエンザウイルスは遺伝子毎に染色体のように8本の分節に分かれています。2種類のウイルスが同時に同じ細胞に感染すると、遺伝子の再集合(リアソート)が起こります。2通りの子供ウイルスが出来ます。このような過程では、誰も免疫を持っていないインフルエンザウイルスが出来る可能性があります。新型インフルエンザウイルスです。一方、ウイルスの複製酵素はいい加減なところがあり、複製のたびにエラーを起こします。1塩基単位のミスが起こるのです。場合によっては、その結果1つのアミノ酸の置換や蛋白の立体構造の変化が起きます。ワクチンを用意しても、季節性インフルエンザのように、いつの間にか効かなくなるのは、こうしたウイルスの小変異(抗原シフト)によるものです。高病原性鳥インフルエンザウイルスはこうしたメカニズムで出現します。

鳥類に感染する伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスは、ファブリシウス嚢のリンパ球を標的にして増殖します。ファブリシウス嚢はB細胞の中枢(液性免疫中枢)なので、ここがやられると抗体産生が出来なくなってしまいます。ヒトの麻疹ウイルスはリンパ組織をはじめ全身で増殖します。特に胸腺(T細胞の中枢で細胞性免疫中枢)やリンパ節で、激しく増殖するので感染・発症すると一時的に免疫不全となり、日和見感染等が起こり重症化します。また麻疹肺炎や麻疹脳炎などを起こすこともあります。

時間をかけて免疫機能を徹底的に破壊するのがエイズウイルスです。エイズウイルスの受容体はCD4というヘルパーT細胞にのみ発現する蛋白です。ヘルパーT細胞は液性免疫、細胞性免疫の両方を誘導する免疫のキー細胞です。エイズウイルスに感染すると、徐々にヘルパーT細胞の数が減少し、免疫機能が失われます。後天性免疫不全症候群(AIDS)はエイズウイルスの感染により、最終的に免疫機能がほぼゼロになるので、そこら中にある通常の微生物の感染(日和見感染)により死に至る病です。人類はまだ、エイズウイルスには勝てていません。

 

 宿主の機能を阻害したり、防御機構を攻撃するウイルスの話をしてきましたが、ウイルスの中には宿主と共存したり、職種の防御や進化に働いてきたと考えられるものがあります。エイズと同じレトロウイルスに属するグループです。

 レトロウイルスは直径約100nmの球状のウイルスで、通常のウイルスと違って逆転写酵素(RNAからDNAを合成する)を持っています。そのため逆転写酵素でウイルスRNAから2本鎖DNAを合成し、挿入酵素で宿主細胞の染色体に組み込まれます(プロウイルス)。ほとんどのレトロウイルスは、体細胞に感染しますが、まれに生殖細胞に感染することがあります。その結果、レトロウイルスが生殖細胞の染色体に挿入され、宿主の遺伝子と全く同様に、世代を通じて伝わっていくことになります。これが内在性レトロウイルス(ERVです。多くのERVは何百万年もの間、その宿主のゲノムの一部として維持されてきています。さらに、ERVは宿主DNAの複製中に、遺伝子の一部を欠失したり、不活性化の変異を起こし、ウイルスを生産しない断片化した遺伝情報になります。こうしてできた寄生ゲノム(レトロエレメント)は、莫大な数のレトロウイルスの断片として宿主の染色体上にバラバラに挿入されています。レトロエレメントの中には、胎盤で発現し、胎盤形成や胎児の維持に働いているものがあります。また、レトロウイルスの感染に抵抗性の因子として見つかったものがあります。宿主の側に立った働きをする遺伝子断片になっています。

 

 ウイルスの寄生体としての進化の方向(多様化)を振り返ってみましょう。

①ウイルスは、まず「シンプル・イズ・ベスト」の戦略で突き進みました。徹底的に無駄をなくすこと、冗長性をそぎ落とすことを目指しました。自己再生産のみを目的とする戦略では、最低限の必要な要素は全遺伝情報をになうゲノムと自己複製酵素と粒子構成蛋白だけです。いかに早く、効率よく自己複製をするかが、競争原理になりました。

 

②しかし、ウイルスの進化は別のグループを生み出しました。宿主の中で長く残ろうという戦略です。宿主の中で持続的に感染したり、ヘルペスウイルスのように潜伏感染等により、感染した個体の中で出来るだけ宿主と共存し、ともに生きようという選択です。しかし、この場合も宿主が死んでしまえば、生きた細胞でしか生存できないウイルスも滅んでしまいます。宿主が死ぬ前に次の世代に感染しなければなりません。

 

レトロウイルスは逆転写酵素を使い、ウイルスのゲノムをRNAからDNAに複製し、宿主の染色体に組み込みました。あたかも宿主の染色体中の遺伝子のように、細胞が分裂するたびに継がれていくのです。さらに、こうした過程で体細胞だけでなく生殖細胞の染色体に組み込まれることが起こりました。内在性レトロウイルスは、宿主の親から子に精子や卵子を通じて伝播することになります。基本的には、もう感染する必要性はありません。

最後は、こうしたウイルスがウイルスであることをやめ、ウイルスゲノムが断片化した遺伝情報として生き残るレトロエレメントとなりました。レトロエレメントは宿主の遺伝子組み換えや、細胞分化などに必須の要素として、我々の染色体でも大家さんのような位置を占めています。ヒトのゲノムの中でヒトを構成するための遺伝子はわずか1.5%です。レトロ

エレメント8%に比べれば、店子のようなものです。

 

 

ここまで見てくれた学生さん、ご苦労様でした。

一度で分からなくても何回も見ていれば次第にわかります。

興味のわいた人はインターネットで詳しく調べてみてください。

ますます、興味がわくと思います。

 

無事に終わりました。最初は病原体のほうが難しいかと思ったのですが、生徒さんたちの反応を見ると、病原体の科学のほうが受けていました。テーマをウイルスに絞ったのがよかったのかもしれません。生体防御はやはり、専門用語が多くて概念のない学生さんに説明するには工夫がいると反省しました。進化と免疫、やはり難しい。1時間足らずでは無理だったかも?

 

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。