石破4条件と新しい獣医学部構想

 

新設の獣医学部の構想には4つの条件と、2つのミッションがついています。

4つの条件は、「①現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、②ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、③既存の大学・学部では対応困難な場合には、④近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う」というものです(平成27630日)。

 

2つのミッションは、「人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国際的に拡大する中、①創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、②地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医系養成大学の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う」(平成28119日)。

 

1、獣医教育改革運動と課題

 これまで約半世紀(1971年~現在まで)、獣医学教育の改善・充実のために獣医系大学は、多くの試みを行ってきた。

①就学期間を4年から6年へ変更し、新しいニーズに対応する教育内容の多様化の試み、

②小規模国立大学の再編統合(北大、東大、東北大、九大へ再編統合する案)、

③全国共通のコア・カリキュラムの整備と専門獣医師養成のアドバンスト教育の配置、

④共同獣医学部、共同教育課程の設置、

⑤大規模私立大学の教育充実(水増し入学定員の是正)などである。

しかし、これらの試みは、いずれも成功したとは言えない。

 その結果、新しいニーズに対応できる獣医師の供給不足問題がより深刻化し、獣医師の職域偏在(過剰職域と不足職域)及び地域偏在(獣医師不足の道府県)が起きている。原因は明瞭で獣医学生の定員を固定化したことにある。

 新しいニーズに応えるには、新しい分野の教育を行い、新しい専門獣医師を養成する必要がある。固定した入学生数では、学生も増員できないし教員も増員できない。新しい分野の教育を行う人材の養成もできない。固定した獣医学教育の講座数で水増し定員を取れば、特定の既存分野に学生が集まり、新しい分野は育たない。

 50年以上にわたる定員の固定化は、日本の獣医学教育の改善・充実を阻害した要因の一つである。

 

 この指摘から明らかなように、1970年代から既に今日の獣医学教育の弱点が記載されている。読み直してみても、公衆衛生獣医師、食料の安定供給と食の安全、リスク評価、高度獣医療、ライフサイエンス分野の研究者の養成に関する社会ニーズと獣医学教育の対応の不備が述べられており、その内容は今もって変わっていない。

 

 

72名以上の専任教員を配置し、再編統合した国立大学でスケールメリットを生かし、スクラップ・ビルトにより、新しい分野をカバーした獣医学教育を進めようというのがコンセプトであったが、成功しなかった。大学基準協会案、農学部長会議、その後の文科省の協力者会議でコア・カリキュラムを決めた際の想定される教員数、大学基準協会の第三者評価の基準でも70人以上に近い教員数が想定され続けた。しかし、実現することはなかった。

 

 現在は第3期の延長線上にあるといえる。国立大学獣医学科の護送船団方式を解除した共同学部が成功したか?失敗に終わるか?はまだ分からない。新獣医学部の設置は、これまでとは違う戦略による、新しい獣医学教育の再編・充実の魁と考えられるのではないだろうか?

 

 

2、4つの条件への回答

 

A:既存の獣医師養成でない構想

国家戦略特区の2つのミッションを ①創薬等イノベーション産業に貢献するライフサイエンス分野の専門獣医師(基礎研究者、医獣連携獣医師)の養成、及び ②感染症統御、食の安全等の公共獣医事に貢献する獣医師を養成することととらえ、獣医学モデル・コア・カリキュラムを基盤とし、これまでにない独自のアドバンスト教育として3分野の科目群(30科目以上)を置き、各分野における専門獣医師を養成する。

そのために、獣医系大学最大の72名の専任教員を配置する。特区により2つのミッションが提示された背景には、以下の事情がある。

新設獣医系大学の設置が認められなかった間に、獣医学領域の研究・教育、社会ニーズは大きく変貌した。50年前にはほとんど存在しなかった伴侶動物医療が、今や卒業生の約半分を占めている。固定化した学生定員のために、ある職域への就職が増加すれば、他の領域は縮小するか、需要に応える供給が出来なくなる。本来であれば新しいニーズに応えるために、新しい分野を設置し、定員数を増加させ、対応する専門獣医師を養成するべきである。

国家戦略特区で新しいニーズがあるといわれる分野は、これまで長年にわたって獣医師の供給不足が続いてきた分野でもある(製薬・創薬研究者、人獣共通感染症・家畜感染症等の研究者、水際対策や危機管理の出来る防疫官、公衆衛生獣医師、産業動物臨床獣医師)。これは獣医師の職域偏在の問題である。3分野の専門獣医師を等分に社会に輩出することで職域偏在は解消される。

新学部におけるアドバンスト教育では、基礎ライフサイエンス、公共獣医事、医獣連携獣医の3分野で専門獣医師を養成する各分野にはほぼ同数の専任講座を置き、4年次より講座に配属させる(各分野ほぼ1:1:1の比率)。①ライフサイエンス分野では、主として、実験動物を用いて基礎研究成果をヒトの治療に繋ぐトランスレーショナル・リサーチ分野で活躍する獣医師を養成するものであり、創薬や医療機器開発等、ライフサイエンス分野で活躍する人材である。②公共獣医事分野では、家畜越境感染症、人獣共通感染症等のリスクが高まる中、国際的な防疫体制や水際対策に関わる知識を有し、さらに食の安全、安心に従事できる人材を養成する。③医獣連携分野で養成する人材は、医学と獣医学は共通である(一つの医学:One Medicine)との認識に立ち、科学的臨床評価に基づき動物とヒトの間で相互に応用できる予防・診断・治療法の確立等、臨床医学の観点から動物とヒトの健康に貢献できる獣医師である。

4年次の初めに各講座に配属し、講座主催のゼミナールを体験する。アドバンスト科目として、5年次の初めに、個々の学生が現場での実務を体験する獣医キャリアスキルアップ研修(2単位)、その後、各分野のアドバンスト実習を受け、ライフサイエンス科目>あるいは<公共獣医事科目>あるいは<臨床獣医科目>から15単位を修得する。アドバンスト科目と同時に研究室で卒業研究を行うことで専門性を高める。さらに、独自に設置したアドバンスト科目は、1つのデーマに対し広い見識を得るため、獣医専任教員がオムニバスで担当する体制で臨むことが本学の大きな特色となっている。

また、国際対応の出来る獣医師を養成するため、ステップアップ教育を設置している。英語教育では、12年次の一般英語のあと、3年次には海外での教育研究経験の豊富な獣医専任教員による専門英語を学修し、4年次からのプレゼミ、卒業研究に繋げる。また、アドバンスト科目は各分野の英語修得の目標をたて、約2割は英語教育を導入する。

  

 

B:ライフサイエンス分野等の新しい分野における獣医師の需要

獣医師が新たに対応すべき分野

①ガットウルグアイラウンド以降、FTA,TPP, EPAに見られるように国際貿易の拡大は、高い関税による自国一次産業の保護政策から、自由貿易物品の拡大、関税撤廃へと動いている。これからは、一次産業を国内調整完結型の生産業から、先進国のように国際輸出産業へと転換する必要がある。そのためには、HACCP等の食の安全、ISO等の品質保証を管理できる専門獣医師が大量に必要となる。また、BSEの例をとるまでもなく、国際的な食品の物流に関しては科学的リスク評価を行う獣医師をはじめ、国際対応の可能な行政獣医師等の需要が極めて大きくなる。

②世界的に増産傾向にあり大型化する養殖漁業、あるいは工場型の養鶏産業、畜産業等にとって、感染症統御は最大の悩みであり、流行病の発生に伴う経済的損失は、風評被害を含め1回の流行で1兆円を上回ることもある。従来の個別治療重視の臨床獣医師から先端的な分子疫学や、メタゲノム解析、抗菌ペプチドや新規ワクチン開発等の予防動物医学に重点を移した研究者や産業動物獣医師の需要が増大する。この分野は獣医学が責任を負わなければならない領域である。

③超高齢社会における加齢性疾患の増加は、伴侶動物の長寿化に伴う加齢性疾患の増加と同時並行状態にある。ヒト用医薬品等の創薬における開発リスクを軽減するため、獣医系大学附属動物病院を「臨床第相試験をヒト試験に先行して実施する機能を持つ機関」と位置づけ、重要性を増す加齢性疾患の予防・治療など創薬研究に利用する。薬獣連携のトランスレーショナル研究分野の発展は創薬イノベーションにとってキーであり、創薬分野の第一線の重鎮等から、獣医師に厚いエールが送られており、ニーズの高さを物語っている。この分野では、ライフサイエンス基礎獣医研究者のみならず、創薬の臨床評価の出来る医獣連携獣医師の養成が必須である。

④エボラ出血熱,SARS, MERS, 高病原性鳥インフルエンザ等、新興感染症は、ほとんどが

人獣共通感染症である。ヒトで流行する前に動物間での病原体の生態を明らかにして防御体制を敷くのは獣医師の責務であり、国際動物保健機関(OIE)も各国に家畜感染症のみならず人獣共通感染症の届出を求めている。動物と人の健康は一つ(One Health)という立場で医学と獣医学の連携研究が国際的にも進んでおり、この分野の専門獣医師の需要が高くなっている。

また、これまでの水増し入学定員を是正し定員(930人)が厳守されると、これまでの入学者数が1割以上減少する。他方、獣医師の供給不足問題を抱える職域が多いという課題を持つ現状がある。現在の活動獣医師数39千人を維持する場合でも入学者数で約130名の補充(獣医師試験合格者数で約110名の増加)が必要となる。加えて上記の新しい獣医師を必要とする分野での需要に応えるためには、高度なスキルをもった専門獣医師を養成するための専任教員を確保し、充実したアドバンスト教育プログラムを配置し、卒業生を新しい分野の中核として活躍させる必要がある。

 

 

C: 既存の大学・学部では対応が困難となる理由

これまで獣医学教育では主に家畜衛生や伴侶動物への高度獣医療技術、獣医療に貢献できる研究者等の人材の育成を行ってきた。しかし、前述したように①近年、多発する動物由来新興感染症の統御、②家畜の国際感染症の防疫、③拡大する食品貿易の安全確保、④食料の安定供給、⑤畜水産品の輸出促進、⑥バイオテロ対応、⑦医薬品、医療機器開発への疾患動物を利用した研究など、新しい分野に対応できる獣医師が国内外で求められている。わが国では、2000年以降、「感染症法」に人獣共通感染症を組み込み、「食品安全基本法」にリスク評価を組み込んだ。これらは、主にレギュラトリーサイエンス等に包括される領域で、科学的知見と行政措置の橋渡しをする科学であり、危機管理や安全確保のための規制措置や規制の国際調和に対応できる獣医師を育てることが必要となった。

しかし、我が国の獣医学教育は6年制に変更されたのちも、従来の獣医学教育規模で推移し、国立大学であれば入学定員3040人、教員が3040人弱と非常に小規模である。そのため、新規に導入されたコア・カリキュラムの51科目、19の実習を行うだけで手一杯である。過去に国立獣医系大学の学科を統合再編し、スケールメリットを生かした新しい学部教育を目指したが実現できなかった。新しい獣医学部の教育は、スケールメリットを生かし、統一的基礎獣医科目の他に、新しいニーズに応える実学教育などアドバンスト教育のようなプログラムを組む構想もあった。

現在は、獣医学教育の改善・充実として、共同学部や共同教育課程が試みられている。自分がかかわった構想であり、否定するものではないし、努力は評価する。しかし、統合しただけで再編せずに既存の重複する基礎分野が共同しても、新しい分野の人材育成は困難であるといわざるを得ない。

多くの私立大学は、学生の要望に合わせて小動物の臨床医を育成することを目指した。大規模の私立大学では、5060名の教員に対し、定員オーバーの140150名の学生を入学させ教育していた。この比率では、効果的な実習や実学教育を実施するのは非常に難しく、定員厳守の方針が文科省から示された。また、小動物臨床獣医学を重視する立場から、ライフサイエンス分野等の研究者育成、国際対応のできる公共獣医師の育成などに取り組む余裕はないのが実情である。

文科省の「獣医学教育改善・充実に関する調査研究協力者会議」で、それまでの不統一で偏ったカリキュラムを分析・評価し、是正するためにモデル・コア・カリキュラムを設定した(2010年)。その際、修学期間の約2/3(14年次)をコア・カリキュラムにあて、残りの約1/356年次)を各大学の独自のアドバンスト教育科目などに充てることを了承した。そして、そのために必要な専任教員数として、約72名を想定したが、これまで、どの大学もこれを実現することが出来なかった。

今回、この構想を実現するため、新設獣医学部では、コア・カリキュラム(51科目、19実習)及び、これに関連する生産農学系科目などを追加したうえで、アドバンスト教育科目を設定した。ライフサイエンス等の分野で活躍する獣医師、国際対応や水際対策など危機管理の出来る公共獣医事をこなす公務員獣医師、高度なスキルを持つ臨床獣医師の養成を目指し、従来の獣医学分野にとらわれず広い分野の教員を招聘し、十分な教員数を確保し、適正な教員・学生比で教育することとした。

 

D:近年の獣医師の需給の動向

長らく、獣医師の職域偏在の解消が謳われてきたが解決できなかった。現在の活動獣医師数を維持するには、毎年の補充は農水省が確保を考えている分野の約750名強+職業自由選択110名強+厚労省や創薬分野のニーズ約280名強で1140名を超える。獣医師合格者数約1,000人では不足し、不足分の約140名強は、公衆衛生、産業動物獣医師や創薬などライフサイエンス分野の人材不足となっている。産業動物獣医師の高齢化の問題、一部の政令都市や人口富裕県を除く公衆衛生獣医師の不足問題、創薬などライスサイエンス分野の獣医師の不足は解消されず、逼迫した需要状況である。新しい獣医学教育を受けた専門獣医師をバランスのとれた比率(ライフサイエンス分野1:公共獣医事分野1:医獣連携獣医師1)で社会に送り出す教育体制と教育プログラムが実行できれば、この問題の解決の一助となる。

 

また、獣医師の地域偏在に関しては、前述した文科省の協力者会議の調査から、16獣医系大学における学生の出身地域と就職地域には高い相関がみられる。従って、不足地域から学生を集める方策が取れれば、この問題を解決することも可能である。現在、私立の獣医系大学はすべて東日本にあり、西日本には獣医系私立大学は1校も存在しない。四国枠のように、獣医師の不足する西日本を中心に学生を集め、獣医師を養成すれば、地域偏在の問題を解決する1つの方策になると考えられる。

 

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。