新しい授業 危機管理学入門

2015年9月30日、1年生の危機管理学入門IVが始まりました。

昨年のスライドを見直し、内容を少し変更しました。入れ替えて新しくアップします。

 

危機管理学入門IV、第1回動物危機管理学入門編です。

動物と人の関係はどのようになっているか、そもそも動物をヒトとの関係でカテゴリ―化するとどのようになるか?ここから始めます。動物カテゴリーとカテゴリー内に分類される動物種の現状を理解しましょう。その次に危機とは何か?について考えます。そのうえで、動物危機管理の対象となる課題には、どのようなものがあるか?整理しましょう。

第1回は、動物危機管理の概要と、例題として①生物多様性の意義と②絶滅危惧種をめぐる危機管理の方法を話します。少し難しいかもしれません。

また、第1回講義の課題も提出します。レポートを書いたら、HPのお問い合わせで、添付メールで送ってくれても結構です。

  動物のカテゴリーには、伴侶動物、産業動物、実験動物、展示動物、野生動物などがあります。それぞれに関係するヒトとしては、伴侶動物では飼育者(ペットオーナー)、小動物獣医さん、ペット販売者など、産業動物では農家、獣医師、屠畜・加工・流通・販売者、実験動物では研究者、技術者、実験動物生産者など、展示動物では飼育者、獣医さん、入園者など、野生動物ではハンター、アウトドア愛好家など、様々です。私たちはこうした動物に接し、動物から何を得ているのでしょうか?その関係は非常に複雑です。また、何を与え、どのように保護しているのでしょうか?

 伴侶動物は人の代替、伴侶として接し、ヒトに準じた扱いになります。心の安寧や癒しを得ています。一方、産業動物は動物性たんぱく質の供給源ですし、経済動物です。与える飼料と結果としての肉や畜産品の価値のバランスで生死が判断されます。展示動物は野生動物を捕獲飼育するもので、展示によるヒトとの生態学的、生活的比較による知識、学習の対象ですし、レクレーション的な側面もあります。実験動物はヒトの健康や福祉の向上を目指し、医薬品開発、医療技術の開発研究などに利用するために繁殖飼育する動物です。 

 これらのカテゴリーの動物の現状を理解しましょう。伴侶動物はイヌと猫だけでも2000万頭も飼育されています。牛は400万頭、繁殖豚は1000万頭、鶏は肉用、卵用合わせて、3億羽が飼育されています。乳が760万トン、卵が250万トン、肉は合計330万トンが、これらの家畜から毎年生産されています。これでも足りずに、海外からほぼ同じくらいの量を輸入しています。食料の自給率はカロリーベースで約40%といわれています。実験動物は20万匹が使用され、野生動物(シカ、イノシシ、ニホンザルなど)による農作物被害は年間200~250億円です。こうした現状が、どのような課題を生み、危機管理と関連するか?どのような対応が可能か?を考えていくのが、動物危機管理学です。

 動物に関連する危機とその管理について考える前に、危機とは何かを考えてみましょう。危機は非常に幅広い分野に及んでいますし、一つの分野に収まるものはむしろ少ないです。学問分野でみれば、人文社会科学と関連するもの、自然科学系のもの、両分野にかかわるものがあります。また、危機の出現は突発的なものだけでなく、多くのものは平常時に進行しています。経済的・政治的危機、国際的パワーシフト、エネルギーや食料不足、温暖化や環境汚染、生物多様性や生物資源の減少は、常に進行しつつある危機です。対応を怠ったり、間違えると、突発的危機(クライシス)として破綻のシナリオに入ります。

 また、突発的な危機としては経済・政治的破綻、テロリズム、災害、新興再興感染症、異常気象などがあります。それぞれの危機には質的な違いがあり、個々の対応のシナリオが必要になります。

危機管理には、リスク回避とクライシス管理、復興の3つのステップがあります。動物危機管理についていえば、動物カテゴリーが5種類(伴侶、産業、展示、野生、実験動物)、危機が4種類(平常時の危機、突発的危機には人為的な原因と自然災害、そして感染症のアウトブレイク)です。危機管理ステップは3種類ですから、5x4x3=60通りの組み合わせになります。

 これを15回の授業で勉強するのが、動物危機管理学概論(3年生の授業)です。とても15回の講義では終わりません。また、どのような危機管理方式があり得るのか?皆で議論し、考えるタイプの授業が出来たらと考えています。試行錯誤中です。

 第1回の事例として、生物多様性と危機管理を説明します。生物の多様性はどのようにして生まれたか?それは地球の生命史とどのように関連するかを見ていきます。また生物多様性の意義とは?生物の寄生、共生、共存の実態を見てみましょう。そのうえで、多様性の保護、特に絶滅危惧種の危機管理がどのようなステップで、どのようにようになされるのかを考えてみます。リスク回避のための危機管理のステップは、他の事例にも通じるコンセプトです。おぼろげながらでもいいですから、理解してください。

 40億年の地球の生命の歴史の約半分(20億年)は原核生物である細菌だけの世界でした。その後の10年間は原生生物(原虫や単細胞真菌、藻類)、10億年前に多細胞生物が登場し5億年間は単純な多細胞生物(寄生虫のようなもの)の世界で、最後の5億年に高等動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類が登場します。生物の多様性はこうした生命体の末裔の共存社会なのです。

 同一空間に多種類の生物が生息すると、共生や寄生、感染が起こります。クマノミとイソギンチャク、地衣類、根粒菌、内生菌、キクイムシ、菌根、ブフネラ菌、メタン菌と酢酸生成菌等、様々な寄生や共生、感染例があります。また生物界では食物連鎖と食物網が形成されています。これらを含め、生物の多様性の意義は何でしょう?多様な生物の資源としての利用は容易に理解されます。またレジャーや文化・芸術としての価値もわかります。しかし、もっと基本的に大事な特質は、生物多様性が、清浄な大気と水の供給や制御をしていること、土壌や海の肥沃性の維持、災害に対する干渉作用を持っていることです。このような生態系のサービスについて、人々が気づき始めたのは、ごく最近のことです。人工的に作った系(バイオスフェア)では、生態系のサービスは簡単には出来ないことが明らかになりました。

 第2例として、絶滅危惧種の保護について考えてみましょう。国際自然保護連合(IUCN)は、国際的な環境保全のアセスメント、および絶滅危惧種のレッドリスト作成の責任を負っています。生物の国際商取引に関係する条約(ワシントン条約、CITES)の付属書に含まれる動物種の検討、ラムサール条約(国際的湿地の保護等に関する条約)の事務局の役も果たしています。保全地域も絶滅危惧種もその重要性(プライオリティー)を分類し、対応・保護のレベルを提示しています。

 日本も国際自然保護連合に加入しています。環境省が政府間機関として加盟し、その後日本が政府として加盟しました。また、国内の動物種に関しても環境省がレッドリストとレッドデータブックを公表しています。国内のレッドリストもカテゴリー化され、プライオリティ制になっています。絶滅種(EX)、既に滅んでしまった動物種には、オキナワオオコウモリ、ミヤココキクガシラコウモリ、オガワサワラアブラコウモリ、エゾオオカミ、二ホンオオカミ、二ホンカワウソなどがいます。

 最後に絶滅危惧種の危機管理方法について、その基本戦略を説明します。この方法は絶滅危惧種のみならず、食品安全や感染症の統御などにも使う方法です。詳しいことは、個々の事例をもとに2年、3年生で学習します。ここでは基本的な考え方を理解できれば十分です。

 講義の最後に、第1回のレポート課題を示しておきます。

 

千葉科学大学では、昨年、基礎教育カリキュラムの見直しが行われました。2014年4月から新しいカリキュラムで、1年生に危機管理学入門が始まりました。導入教育として、非常に重要です。

 危機管理学入門は、IからIVまであります。危機管理学部の1年生は、全員、必修科目です。危機管理学入門Iは危機管理システム、IIは環境危機管理で1年生前期の授業です。危機管理学入門IIIは防災等、IVが医療危機管理と動物危機管理です。1年生後期に開講します。

 動物危機管理は危機管理学入門IVの前半、1,2,3回に以下の内容で行われます。

第1回は生物多様性と絶滅危惧種、第2回は動物由来感染症と危機管理、第3回は食の課題と危機管理入門です。講義は、第1回が2014年9月24日、第2回は10月1日、第3回は10月8日に行われました。写真は第3回10月8日の講義風景です。

 

 

講義科目  危機管理学入門IV

担当教員  教授・吉川泰弘

学部・学科 危機管理学部

年次・開講 1年後期

曜日・時限 水曜日1時限、看護棟2階大教室

授業の概要 動物に関連する危機管理学の入門として、危機管理対象となる動物には、どのようなものがあり、どのような危機が進行しているかを学ぶ。また、入門の話題として、生物多様性と絶滅危惧種の危機管理、動物由来感染症と動物由来食品に関する危機管理がどのように行われているかを学ぶ。

 

第1回 動物危機管理学、生物多様性と絶滅危惧種。

到達目標  第1回、動物とヒトの関係の多様性を理解する。動物という視点で見ると

      平常時に進行している危機と突発的に生じる危機にはどのようなものが

      あるかを理解し、説明できる。危機管理対応の方策の立て方や課題につ 

      いて考えることができるようになる。

キーワード 動物のカテゴリー、伴侶動物、産業動物、野生動物、展示動物、実験動

      物の特性、危機の種類、平常時の危機と非常時の危機。生命の進化と生

      物多様性の意味、食物連鎖、共生、絶滅危惧種、リスク評価と予防原則

 

第2回 ヒトと動物の共通感染症の危機管理学入門、感染症の由来。

到達目標  第2回、人類の文明の発達と、野生動物の家畜化に関連したヒトの感染症

      の成り立ちを理解し、感染症の出現機構を考える。また、文化の発達の

      中で感染症がどのように変遷していったかを理解する。さらに人が感染

      症に対してどのように対応したかを理解するとともに、新興再興感染症

      など、新しい課題について考える。

キーワード 文明と感染症、野生動物の家畜化と感染症、新大陸と旧大陸の感染症、

      産業革命と感染症、ワクチン、抗生物質、新興再興感染症、動物由来

      感染症、One World, One Health,国際機関の連携,エボラとデング熱

 

第3回 畜水産品など食料の安定供給と安全性確保のための危機管理学。

到達目標  第3回、世界の食料事情を把握する。食の問題(食の安全保障、食の安全

      食の防衛)を理解する。野生動物肉、畜水産品の生産管理とその課題に

      ついて学ぶ。

キーワード 21世紀の課題(環境、感染症、食料)、人口増加、食料供給、食の問題

      の3要素、水産品・畜産品等の品質保証と安全管理、トレーサビリティ  

      HACCP,

 

 第2回は動物由来感染症の危機管理です。人類の感染症の由来をヒトの出現時期をおってみてみましょう。猿人、原人、旧人、新人、そして文明と感染症の関係を振り返ります。

 また、新興再興感染症流行の原因は?そしてヒトは感染症にどのように対抗してきたか?どのように危機管理対策を立てたか?詳細は3年生の各論で行います。今回は入門ということで、入り口の理解でいいです。オープンキャンパスで紹介したデング熱とエボラ出血熱のスライドをおまけでつけました(動物危機管理NEWS2014に詳細がのっています)。

 動物由来感染症の統御は、人類が21世紀に課題とする重要で、避けて通れない問題です。One World, One Healthという概念は、今後、さらに重みのあるキャッチフレーズとして世界に受け入れられると思います(詳細は「獣医さん走る」という私の著書の第1章に書いておきました)。


 かつて人類は猿人、原人、旧人、新人と一直線に進化してきたと考えられていました。しかし、実際には、沢山の枝分かれがあり、原生人類まで20種類以上の人類の系統が滅んできたと考えられています。人類初期の感染症は持続感染する病原体(ハンセン病、結核等)、ヒト以外を宿主とする病原体(マラリア、住血吸虫症)によるものであったと考えられます。先史人類では小集団の移動による狩猟採取生活のため、土着の寄生虫感染(例えば回虫症など)は比較的少なく、土壌菌による野生動物由来感染症(炭疽、ボツリヌス症)が主なものであったと思われます。

 人類の感染症が大きく変わったのは、約1万年前に農耕が始まったことによります。定住化、人口増加と集団規模の拡大、野生動物の家畜化、穀物の増産と備蓄による齧歯類の繁殖などで、多くの感染症が人類社会に侵入・定着を始めました。

 

 伝承の時代から、様々な疫病の発生が伝えられています。また法典や板碑にも記録があります。伝承や記録だけでなく、実際に、ミイラの天然痘や結核などのエビデンスも発見されています。ヒトの感染症を振り返ると、これらの病原体はヒトが出現する以前から存在し、現在見られるヒトの感染症の多くは、過去に動物からきた感染症ということがわかります。


 感染症は人類の文明の発達に伴い、定着し、ヒトの感染症となりました。文明が拡散する中で、さらに新しい感染症が定着し、それは、異なる文明への武器になりました。こうしたことは、人から人への伝播の中で、異文明の接触時に異文明を滅ぼしたり、産業革命による都市化で猛威を振るうようになった感染症群の出現に繋がります。顕微鏡の発明により、見えない微生物が見つかり、感染症の原因が悪い空気でなく、病原微生物であることが明らかになりました。19世紀後半から20世紀にかけて、人類は感染症の原因を同定し(原虫、細菌、ウイルス)、戦いを挑みます。抗原虫薬、ワクチン、抗生物質などです。

 

 1980年、天然痘の撲滅宣言がWHOから発せられ、人類は感染症を統御できるという楽観論がでましたが、その後の新興・再興感染症の出現により、「いずれの国も感染症の危機からまぬがれられない」という認識に変わりました。

 なぜ、20世紀後半から、このような感染症が増加したのか?新興感染症はどのような特性を持っているのかなどについて説明します。


 最後に、感染症の危機管理に関する国際的な取組とそのコンセプト、対応等について説明します。21世紀は感染症(新興感染症、人獣共通感染症などヒト、家畜、野生動物の健康はひとつという考え方、One Health: 医)、食料(安定供給、食料の安全保障、食の安全、食の防衛、テロ対策など:食)、環境(地球規模の汚染・温暖化防止、生物多様性の保持等、One World:住)の問題をどのように克服していくかが問われています。

 従来の衣食住でなくて、新しい医・食・住の課題です。いずれも有効な危機管理の必要な課題ですし、解決できなければ破綻(クライシス)に繋がっていく問題です。

 

 

第3回は食品に関する危機管理です。食をめぐる3つの要素の意味について学びましょう。

また、世界の食料事情はどのようになっているのか?どのように展開していくのか?穀物の供給は?畜水産物による動物性蛋白質の供給は?食料をめぐる世界的な課題、国内の畜産業の展望は?危機管理の必要な課題は山積しています。


 世界の食糧事情をみると世界の人口70億人のうち8億人が飢餓状態です(FAO報告)。

途上国の人口増加を考慮すると、2010年の食肉需要が3億トンに対し、2040年には5億トンの需要が予想されます。魚は1.2億トンが2040年には1.6億トン必要と予想されます。このような国際的需要拡大に、どのように応えていくか?大きな問題です。

 食肉はより飼養効率の良い家畜(牛肉から豚肉、豚肉から鶏肉)にシフトするでしょう、また、水産は資源確保の問題が深刻で、持続的な供給には、捕獲漁業から養殖漁業へとシフトするでしょう。


 食糧(穀物)の確保は、穀物を巡る家畜とヒトの資源分配、バイオエタノールに象徴されるように、食糧とエネルギーの対立、牧畜と環境保全、畜水産の経済効率化と感染症といった、様々な対立要素を持っています。こうした課題の解決方法を見出していくことが危機管理です。複雑系の問題に挑む方法論はまだ確立しているとは言えません。国際的に取り組まなければならない喫緊の課題です。


 国内の畜産業はすでに、農業生産の第一位を占める規模ですが、次世代の育成、自給率の低下問題、輸入飼料、環境汚染、感染症、貿易問題と解決しなければならない課題が目白押しです。TPPやFTAなどの貿易自由化と関税廃止という世界の潮流の中で、日本の畜産の将来の展望について考えてみました。

 最後に、メディアを含め、良く理解されていない、食を巡る3つの要素について説明します。食の問題は3重の塔の構造によく似ています。食の問題が起こると、いつも食べて安全か危険かという問題になってしまいますが、実際には食の安全保障(食料の安定供給)、食の安全(受け入れられる安全レベルの設定)、食の防衛(バイオテロ、アグロテロ対策)という異なるレベルの問題です。3つの要素の違いと相互関係について理解してください。


 

これで1年生後期の危機管理学入門IVの動物危機管理学(3回)は終わりです。

3年生前期の動物危機管理学概論ではここで紹介できなかった分も含めて15回のデータが載せてあります。興味のある学生さんは見てください。動物危機管理学という学問は、今年始めたばかりで、これから発展させていかなければなりません。来年の授業に生かせたいので、是非、感想文を書いてください。

 

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。