ペルー産のアシナシイモリ(胎生)を購入し、飼育できるようになりました(獣医学部には面白い学生さんたちが沢山います)。足のないアシナシイモリが土の中をどのように移動するのか?考えてみると不思議です。興味がわいたので少し調べてみました。彼らがどのように穴を掘るのか、どのように前進するのか?その機構は?かなり沢山の仮説と実証実験があるようです。議論は続いているようですが・・・・
アシナシイモリは世界に広く分布しています。両生類の3つの目(無足、有尾、無尾)の中で最初に分岐した最も古い動物群です。特徴は、その繁殖様式で、通常の水生卵を生む水棲群と、陸に卵を産む陸生卵の群と、胎生で卵管内で胚が育ち子宮乳で育つ群がいます。卵生、卵胎生、胎生の3グループを持つ不思議な動物です。最近の系統樹分岐説では、哺乳類は爬虫類と共通の両生類から直接分岐したという説が出ていますが、そうかもしれないと思わせる生き物です。おもしろいレビューがありました。
アシナシイモリの生態は、水生、陸生、2相性(幼生が水生、生体は陸生)、また、繁殖様式は陸生卵生、水生胎生、陸生胎生と多様性がありそうです。個別の記載が多く、分類からしてもかなり混乱します。まだ整理がつきません。
別の論文で、アシナシイモリの胎生と有羊膜動物の起源を、正面から議論しています。
これらの論文を纏めてみると?
①両生類で最初に分岐したアシナシイモリでは、おそらく卵生が始原で胎生は分岐した属でしょう
②同じ属でも、水生の卵生、胎生、陸生の卵生、胎生と分岐していったように思います。
さらに胎生では、胚の羊膜形成?絨毛化(疑似胎盤)、卵管の疑似子宮化、乳腺化などが
種によっては発現したかもしれません?
③哺乳類(単弓類)も同様の多様化(カモノハシなど)と、多数の哺乳類種に収斂進化?
したのかも?
④そう考えると、両性類あるいはポリプテルスや肺魚では、肺や四肢のように、すでに羊膜、胎盤(絨毛化)、乳腺の原基などの遺伝子を持っていた?というのは考えすぎかも?
アシナシイモリの繁殖様式の特性を考え、有羊膜動物の分岐を考えて進化の系統樹を書こうとすると従来のものとは違ってきます。混乱しそうです。他方、動物種に限らず、卵生でなく胎生という様式を選んだ動物は、基本的に卵管内、あるいは子宮内に着床・孵化し、母体内のケアで胚発生の後期を過ごすことを考えると、どのステージで胎生に必要な遺伝子群を開くか?というだけで、系統樹の特性として考えない方が混乱は少ないかもしれません。
有羊膜、有胎盤、哺乳、無弓・単弓・双弓などの特性共通性について、系統樹にどの程度の基準として利用するかは難しいようにも思います。動物の(あるいは植物も)環境適応力(環境に応じて、眠っていた遺伝子を利用する)は、非常に幅広いような気がしますし、これらの遺伝子の多くは細菌、原生動物、単純1~3胚葉動物時代に既に、収集・編集されているようにも思います。
各動物群の①卵生、②卵胎生(現在では、あまり使われなくなっているようです)、③胎生とa.陸生、b.水生を不十分ですが、まとめて考えてみようと思いましす。結果からすると、これらの性質を系統樹の進化の主な要素には加えない方が良い?気がします。各動物群がそれぞれの環境に合わせて独自に分岐したと考える方がいいのではないかと思います。すなわち、これらの発生要素は、既に古くからゲノムに書き込まれていて、どの環境で遺伝子を開くか?に過ぎないようにも思えます。すなわち、水生の卵生、卵胎生、胎生と陸生の卵生、卵胎生、胎生の動物がいるということで、系統樹は卵生→胎生、水生→陸生、水卵生→陸胎生というほど単純では、ないのではないかということです。環境に適応した生物が、その環境下で生存・繁栄するという生物の多様性から考えてみると当たり前のような気もしますが・・・
上記したように、卵生から胎生になったのはどのステージかという進化論は、意味が無いように思われてきました。どうせなら、最も単純な3胚葉動物として線形動物や扁形動物でも胎生種がいていいのではないかと気になりました。寄生虫でも卵胎生種は結構いますし、獣医の国家試験にも出ます。しかし、ついでに調べていたら、胎生の線虫に出会いました。
https://www.atpress.ne.jp/news/272367
2019年の同チームらの研究により、本線虫は人間の約500倍に相当する高いヒ素耐性を持つ未記載種であることが明らかになっていました。今回の研究では、その生物学的特徴をより詳しく調べるとともに、分類学的記載を行いました。既知の近縁線虫種はその子孫を卵として産卵するのに対して、新たに見つかった線虫種は卵が母親の子宮の中で孵化する点が明確に異なります。さらに、子宮内の卵は母親から栄養を受け取っていることを示唆する様子が観察され、線虫としては極めて珍しい胎生の繁殖形態に特徴づけられることが明らかになりました。そこで研究チームは新属Tokorhabditisを提案し、本線虫種を新種記載しました。本線虫種は、極限環境への適応のみでなく、今後特殊な生殖・繁殖形態が進化する仕組みを理解するための有用なモデル生物としても利用されることが期待されます。
極限環境での生活は、一般的に生理学的な問題として研究されているが、極限環境動物の存在は、そのような環境において発達や行動形質も適応的である可能性を示唆している。本論文では、カリフォルニア州モノ湖で発見された新種の線虫、Tokorhabditis tufae, n. gen., n. sp.を紹介する。この新種は、極限環境における動物固有の適応を研究するための扱いやすいモデルであり、珍しい生殖・発生形質を併せ持っていることがわかる。本種は、最近報告された姉妹グループのアウアネマと同様に、雄、雌、自家受精する雌雄同体からなる3異型性の交尾システムを持つ。この新属の記載は、この珍しい生殖様式の起源がこれまで考えられていたよりもさらに古いことを明らかにし、交配システムの変遷を研究するための新しい比較対象を提供するものである。しかし、Auanemaや他のほぼ全ての既知の線虫とは異なり、新種は胎内で成長する胚を持つ、生殖可能な種であり、発生時に母体が栄養を供給していることが示唆された。最後に、この新種属の分子的に異なる2つの株を分離したことで、特に極限地域以外から分離され、このモデルにおける極限環境形質の研究のための比較体系を確立することができた。
アシナシイモリの体幹筋についての論文です。穴居生活をするアシナシイモリのボディプランは、脊椎動物の中で最もスマートと言えるものです。体軸の中心には頭側から尾側まで、全身に椎骨と肋骨があるのみです。手足や尾がないので、骨盤や尾椎はありません。
椎骨と肋骨を包んで2つの縦走筋(背側体幹筋と椎骨下筋)があります。皮下に6つの筋(3つの縦走筋、2つの斜筋、1つの輪走筋)からなる外側筋梢があります。両者を椎骨下筋の腹側部が繋いでいます。それが骨と筋肉の全てです。とても分かりやすいです。