2024年春の千葉科学大学ZOOM講義でベクター媒介感染症のモデルとして「デング熱」を取り上げました。スライドを見直して、新しい改訂版を作りました。以前よりもデーターが追加されたこと、内容が分かりやすく整理されたのではないかと思います。
デング熱に関しては、2016年春学期に3年生の人獣共通感染症・第12回でリニューアルして講義しました。ウイルスの特性、蚊による媒介を含んだ感染症の再生産(RO)の考え方、西ナイル熱とのヒトー蚊ーヒトの伝播の可能性の比較など、ウイルス量の推移に関して、新しい考え方を追加してみました。データ不足で推定値を使っています。
本講義の到達目標は、デングウイルスの構造と機能、増殖様式、デング熱・デング出血熱の流行、分布、特性を理解し、説明できる。デング熱の疫学、感染症対策を理解する。蚊媒介ウイルスの特性を理解することなどです。
キーワードはデングウイルス、ウイルスの構造と機能、ゲノムと複製様式、デング熱の臨床、デング出血熱、デング熱の世界分布、ヒトスジシマカの生態、ウイルスと蚊、疫学とデング熱対策です。
デング熱ウイルスは、本来野生のサル(アフリカミドリザル、パタスモンキー、ギニアヒヒ、カニクイザル、ブタオザル、ハヌマーン)と蚊の間で循環していたものが、田舎の農村地帯でヒトと蚊(ヒトスジシマカなど)の間で循環しはじめ、やがて新興都市でヒトと蚊(ネッタイシマカなど)の間で循環し、爆発的なアウトブレイクを起こすようになったと考えられています。
デング熱の「デング」という言葉のいわれには諸説あります。スペイン語のデング(引きつりやこわばり)という意味で、発熱とともに起こる筋肉痛の激しい症状を示していると思われます。同じ意味合いで、アフリカから来たデング熱(血清型I,II)の流行に巻き込まれた奴隷たちの発症時の歩き方がゆっくり気取って見えたことからダンディ熱(デング熱)と呼ばれたようです。
その後、流行は北上し、北米でbreak-bone fever, break-heart feverともいわれました。いずれも発症時の筋肉痛の激しさを示しています。デング熱という診断名が一般化したのは1828年のニューオーリンズの流行時で、1869年にロンドン王立大学の委員会で正式に承認されたようです。ウイルスは、フラビウイルス(黄疸を起こす黄熱ウイルス:フラビは黄色いという意味)に属しています。日本脳炎や西ナイル熱と近縁のウイルスです。
デング熱ウイルスは「病原体の科学」でならったように、1本鎖のRNAウイルスです。プラス鎖のウイルスなので、ゲノムはそのままmRNAとして働き、ウイルス蛋白の合成が可能です。そのためウイルス粒子の中にはRNA合成酵素は持ち込まれていません。この場合、RNA合成酵素はウイルス粒子の非構造蛋白に入ります。このウイルス群には大型のコロナウイルスから最小のピコルナウイルスまであります。トガウイルス、カリシウイルス、アストロウイルスのほかに、フラビウイルスがあります。
巨大ウイルスから最小ウイルスまで多様性を持つDNAウイルスに比べ、プラス鎖のRNAウイルスは中型から小型のウイルスを含んでいます。マイナス鎖のRNAウイルスは、ほとんど大きさに差がありません。どうしてこのような差ができるのか?いまのところ、納得のいく説明はありません。ウイルスの進化の歴史の違いかもしれません。来年度の講義には、この辺りを調べて、追加したいと考えています。
フラビウイルス科には、フラビウイルス属(デング熱、西ナイル熱、黄熱、マレーバレー熱、日本脳炎、セントルイス脳炎などのウイルスがいます)のほかに、ぺスチウイルス属(豚コレラ、牛ウイルス性下痢症など家畜のウイルス病のウイルス)、ヘパシウイルス属(C型肝炎ウイルス)があります。
デングウイルスは3種類の構造蛋白(カプシド蛋白、エンベロープ蛋白、Pr/マトリックス蛋白)と7種類の非構造蛋白を産生します。興味深いのは、細胞内情報伝達系のSTAT系の蛋白機能を阻害し、インターフェロン産生を抑制することです。
すなわち「生体防御学・進化免疫学」で習った免疫ネットワークのキー言語であるサイトカインによるシグナル伝達系(JanusキナーゼとSTAT系:JaK-STAT系)を阻害する蛋白質をコードしており、生体防御反応を阻害して、増殖しようというウイルスの戦略を持っています。ウイルスがどのように免疫系から逃れるかは、病原体の科学第5回で学びましたね。
Jak(Janus kinase)は、リン酸化酵素です。活性化された受容体と複合体を作ると受容体をリン酸化し、次に受容体に結合した下流分子もリン酸化することから、二面神ヤヌスにちなみ"Janus kinase"(ヤーヌスキナーゼ:キナーゼはリン酸化酵素の意味)と呼ばれます。JakはSTATをリン酸化し、リン酸化したSTATは二量体を形成して核内へ移行し、転写を活性化する(Jak-STAT系)機能を持っています。
ちなみにヤーヌス(Janus)は、ローマ神話の神です。 出入り口と扉の神。前後2つの顔を持つのが特徴です。左右に別々の顔を持つように描く場合もあります。一年の終わりと始まりの境界に位置し、1月を司る神です。入り口の神でもあるため、物事の始まりの神でもありました。また、過去と未来の間に立つという説明もあります。英語で1月をいうJanuaryの語源はヤーヌスの月です。
デングウイルスが侵入する際の細胞受容体は4種類知られていますが、重要なのはICAM3です。ICM3(interacellular adhesion molecule)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属す糖蛋白で他のICAMファミリー分子が血管内皮をはじめ比較的広範囲に分布するのに対し、ICAM 3はリンパ球、白血球、胸腺細胞のように免疫の主要細胞に限局して発現しています。また、もう一つの重要な受容体CD209抗原は、Dendritic cell(DC)-specific intracellular adhesion molecule 3(ICAM 3)-grabbing non-integrin(DC-SIGN)とも呼ばれ、糖認識ドメインを持つC型レクチンです(生体防御レクチンで習いましたね)。マンノース残基を結合する樹状細胞(抗原提示細胞)にきわめて特異的に発現する蛋白です。
デング熱ウイルスには4つの型があります。かつてアフリカにはIとII型が存在しました。奴隷貿易などに伴って、マラリアと同様に中米にI,II型が侵入し、北米に広がったと思われます。他方、アジアでは、I,II,III,IV型が存在しました。ヒトや物流の動きが盛んになって、世界中にIからIV型の流行が始まりました。
いまでは、アジア、オーストラリア、アメリカ、アフリカのどこにでもみられます。大事なことは、どの型であれデングウイルスに最初に感染した時には、多くの場合不顕性感染か発熱・筋肉痛などの軽い症状で済みますが、2度めに別の型のデングウイルスに感染するとデング出血熱のように重症化することがあることです。
デング熱の発症機構の概要は以下のようになります。
①デングウイルスの保有蚊が人を刺すと、蚊の唾液と共にウイルスが皮膚に侵入する。
②ウイルスは、白血球(主としてMφ、樹状細胞)の受容体と結合し、細胞内に侵入し、白血球と共に体内を移動しながら細胞内で増殖する。
③白血球は、インターフェロンなどの多くのサイトカインを生成しながら応答。それが発熱やインフルエンザのような症状、重度の痛みなど多くの症状を引き起こす。
④重度の感染の場合、体内でウイルス増殖が大幅に増大し、 多くの臓器(例えば肝臓や骨髄)に影響を与え、血流から体液が、血管壁を通り体腔へ漏出する。
⑤血管内で循環する血液が減少し、血圧が低下し、主要臓器に十分な血液を送ることができなくなる。
⑥骨髄で機能障害が起こると、有効血液の凝固に必要な血小板減少が起こり、出血や他の主要なデング熱合併症のリスクが高まる。
デング熱は通常、一過性の熱性疾患です。ウイルスに感染しても50~70%は無症状です。約15%は軽度の症状で、5%は重症化します。発症までの潜伏期間は3日から14日(通常4~7日)です。症状は2~7日続き、発熱期、重症期、回復期に分けられます。発熱(40℃以上の高熱、2相性)、頭痛(目の奥の痛み)、筋肉痛、関節痛がみられ、特徴として第1~2病日に紅斑、4~7病日に皮膚発疹、点状出血、口・鼻粘膜から経度出血が見られます。診断は上記の臨床症状とウイルス分離、PCR, 抗体上昇(IgM,IgG)等によります。治療は対症療法が主体(症状を軽減するための支持療法) です。
他方、デング出血熱では血漿漏出、血小板減少、出血を起こし、デングショック症候群に発展、出血性ショックを起こします(全体の5%未満)。前に述べたように、デングウイルス(4つの血清型、I~IV)の初感染は一過性で軽度の症状です、しかし、別の血清型のウイルスに再感染すると、デング出血熱やデングショック症候群のように重篤化します。その機構は解明されていませんが、最も広く受け入れられている仮説では、抗体依存性感染増強(Antibody-dependent enhancement、ADE)があります。抗原の破壊には関与しない抗体と弱く結合することにより、破壊しようと取り込まれたウイルスが白血球内の別の区画に誤って運ばれることが原因?と考えられています。
デング熱の治療は、多くの場合、輸液・解熱鎮痛剤の投与程度にとどまります。 解熱鎮痛剤としてサリチル酸系統のものは出血傾向やアシドーシスを助長することから禁忌です。アセトアミノフェンが推奨されています。デング出血熱では、循環血液量の減少、血液濃縮が問題となり、適切な輸液療法が重要です。輸液剤としては生理食塩水、乳酸加リンゲル液、新鮮な凍結血漿、膠質浸透圧剤などがあります。バイタルサイン、ヘマトクリット値をモニターしながら投与します。酸素投与や動脈血pH の状況により、重炭酸ナトリウムの投与なども行われる。
予防は概して平凡ですが、日中にヤブ蚊(ヒトスジシマカ)に刺されない工夫が重要です。長袖・長ズボンの着用、昆虫忌避剤の使用が勧められます。
デング熱ウイルスの運び屋(ベクター)はネッタイシマカとヒトスジシマカです。ネッタイシマカは日本には生息していませんが、ウイルスが体内で高率に増殖するため、大流行を起こすことがあります。ヒトスジシマカは日本にも生息しています(ヤブカ)。ウイルス増殖は比較的低率なので、ネッタイシマカに比べれば流行規模は小さくなります。デング熱を理解するには、ヒトスジシマカの生態を理解する必要があります。
ヒトスジシマカは胸部の背面に一本の白い正中線(ヒトスジ)とW字状の斑があり、体長は4~5mmです。黒い体色に白い縞の蚊は殆どが本種です。本来、東北南部が北限でしたが生息域を北に広げつつあります。もともと雑木林や竹林の樹の洞や竹の切り株などに溜まった水などで繁殖していましたが、現在は藪・墓地・公園・人家など人工的な空間に存在する水溜りでもよく繁殖します。ヒトスジシマカは待機型の蚊で、その移動距離はおよそ50〜100m(待機型)と非常に狭い範囲です(流行の蔓延を防ぐのに助かります)。世界的に見ると物資の移動に伴いアジアから北米に侵入して定着し、地球温暖化の影響で南北に生息地を広げています。
蚊のエネルギー源は糖分です。花の蜜などを吸って生活しています。メスだけが産卵のための栄養源として吸血し、人が出す炭酸ガスや皮膚のニオイ・温度を感知することで吸血源を発見します。ヒトスジシマカ(通称:ヤブ蚊)は昼から夕方にかけて吸血する特徴があります。夜間に人を追いかけて吸血するタイプの蚊ではありません。
最近流行の「ポケモンgo」は、テレビで見ると昼間でも公園などに不特定多数の人を集める能力が高いようです。不顕性感染を含めれば年間500人近い人がデングウイルスをもって帰国すると推定されます。ゲームを楽しむのは否定しませんが、蚊よけ処理くらいは考えて行動することをお勧めします。
吸血したメスの蚊が水面に卵を産み付けると、約2~3日で孵化しボウフラとなります。ボウフラ(幼虫)は7日~14日かけて4回の脱皮を繰り返して蛹になります。蛹から羽化し、2~3日で成虫(蚊)となり、成虫は交尾し、メスは産卵のために吸血し、吸血後3~5日間卵の成熟を待ち産卵します。この繰り返しですが、メスはこの繰り返しを約4回程行い一生を終えます(30日~40日が寿命です)。冬は卵で越冬します。アカイエカやチカイエカのように成虫で越冬するわけではありません。
日本のデング熱の流行を振り返ってみましょう。
明治36年に、麻布歩兵第一連隊で流行報告されています。また、大正4年に沖縄、昭和6年に沖縄で大流行し、鹿児島に侵入しました。さらに、昭和8年、和歌山市の工場で沖縄出身の女工員から広がり、35人が発症しました。国内でのアウトブレイク(大流行)は、昭和17年です。初めて日本本土で広範囲に及ぶデング熱が大流行(推定20万人)しました。公式患者数は1万7554人でした(長崎1万3323、沖縄1985、兵庫1357、大阪795、鹿児島92人)。流行は翌年も起こり、昭和18年は、神戸市で流行し422名が発症、長崎でも流行が見られました。このときの原因としては、第2次大戦で日本軍の進出地域が広がり、南方との人的・物的交流が盛んであったこと、戸別防火用水槽が各家にあり、ボウフラの生息が盛んだったこと、衛生医薬品の不足などが重なったためです。
戦後は大きな流行はありません。感染症法で届出疾患になり、状況が明らかになってきました。2001年以後、2009年まで50~100例のデング患者(いずれも海外感染)が報告されています。
2010年以後は2011年を除き200例以上の患者数(いずれも海外感染)です。50%が不顕性感染とすると実際の感染者は500人規模であったと考えられます。そして2014年、約70年ぶりに国内感染者が出現したわけです。
70年ぶりの国内でのデング熱流行は、2014年8月に起こりました。厚生労働省は日本で海外渡航歴が無く国内感染した患者1例を報告しました。さらに 8月28日、国内感染2例目を報告(1例目の患者の知人、埼玉県女性)、3例目発見と続きました。1~3例は、いづれも「代々木公園で、蚊に刺され感染した」と思われました。
タレントの紗綾が8月21日放送のテレビ番組「王様のブランチ」の代々木公園ロケで蚊に刺され、8月26日に発症し、8月30日入院、9月5日退院しました。青木英李も感染。9月第一週には、60名を超える感染者が確認されました。9月4日に東京都は、代々木公園で採取された蚊からデング熱ウイルスを検出し、国内での蚊の媒介が明らかにされました。そして、代々木公園の約8割を封鎖し駆除作業に入りました。9月4日に代々木公園に隣接するNHKの職員ら2名がデング熱に感染したことが報告されました。
9月5日に新宿中央公園でもデング熱に感染したと見られる患者が確認され、9月9日には、最近東京を訪問し、海外渡航歴もない千葉県の男性が感染しました。東京以外にウイルスを持つ蚊が広まってることも想定されました。9月第二週に、感染者は15都道府県、100人を超える状況になりました。9月19日には、上野公園で感染した患者が発見され、上野公園の蚊が駆除されました。9月25日、墨田公園、26日中目黒公園で感染したと思われる患者発生しました。10月30日現在、160名が発症しましたが、秋の深まりとともに流行は収束しました。
発症パターンから、7月中旬~末に代々木公園でウイルス血症の感染者から吸血したヤブカ(数匹)が産卵後、代々木公園に来た人々にウイルスを伝播(吸血)し、1回目の発症群(8月中旬、10数人)、さらに2回目の発症群(100人規模)と広がったところで、蚊の駆除が進み、代々木公園での流行は下火になった。東京で感染した人が地方でウイルス血症を起こした(不顕性感染が半数とすると倍近い人が地方にウイルスを運んだ)が、代々木公園のような大きな流行には至らなかったということです。実際には、①ウイルス血症のヒトから蚊(♀)が吸血(1回目のウイルス吸血)、蚊の腸細胞にウイルスが感染を起こす。蚊は3~5日後に産卵し、次のヒトから血を吸います(2回目の吸血だが、ウイルスはまだ唾液腺にいない?)②約8日から10日後に、ウイルスは他の組織に広がり、唾液腺に及ぶと考えられます。その後 ③ヒトを吸血した時にウイルスを伝播(最大3回、4回、5回の吸血で一生を終える)。たったひと刺しでも感染し得る、ということです。
ヒト―蚊ーヒトのウイルス伝播の1サイクルは約16~22日くらいと考えられます。この時のウイルス伝播の量を考えてみると以下のようになります(蚊での数値は一応推定で入れたたもので、正確に定量されたデータはありません、誰か測定すればよりまともな数字になります)。
・ヒトでの発症期のウイルス力価は106~107PFU/mlで平均106.5 。
・1回の蚊の吸血量は2~5mg(平均3.5㎎)なので、そのウイルス量は約1x104 PFU/蚊
・蚊の体内でのウイルス分布は分かりませんが唾液腺が1/10とし、約1x103 PFU/唾液腺
・唾液腺中のウイルス量は増殖するので、蚊の体内でウイルス増殖を10倍として
唾液腺中のウイルス量は約1x104 PFU/唾液腺になります。
・吸血時1回の唾液注入量は?不明ですが、唾液の1/100 として1x102 PFUです。
・ ヒトのウイルス感受性感染に必要な量(推定)は、血管内皮細胞への感染は細胞当たり6PFUで十分ということなので、一刺しで十分感染可能(約20個くらいの細胞に感染する?)ということです。同じことを西ナイル熱で計算すると、ヒト―蚊―ヒトの循環は不可能で、カラスのような増幅動物が必要ということが分かります。
デング熱のROをモデルで計算してみると図のようになり、
ウイルス血症者1名、吸血蚊1匹の場合、1生5回の吸血で、最大3人に感染することになります。しかし、1名のウイルス血症者が数匹(平均4匹)の蚊に刺されるとR0は12になります?
代々木公園の介入(蚊の駆除)前の状況はR0は10以上になっています。一方、地方での流行
のR0は1か1以下(情報が伝わり、ヤブ蚊への警戒が強まる?)です。ヤブ蚊は、生息域を
変え、獲物を追って移動する蚊ではないので、人口密度が影響していることは十分考えられま
す。その意味では代々木公園は絶好のホットスポットであった可能性があります。
デング熱に関する、ワクチン、抗ウイルス薬、蚊の生態への介入研究は以下のようです。
・デングウイルスには、現在まで、認可されたワクチンはありません。しかし、4つの血清型すべてに効くデングワクチンの開発プログラムが進行中です。フランスのサノフィ・パスツール社が開発したデング・黄熱キメラワクチン(4種類のキメラワクチンを混合した4価ワクチン)が第3相臨床試験中です。
・抗ウイルス薬の開発も進行中です。
NS5遺伝子にコードされているウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害するヌクレオシド
類似体、NS3遺伝子にコードされているウイルスのプロテアーゼに特異的な酵素阻害剤、ウイルスの侵入阻害剤(E蛋白拮抗)の開発が進んでいます。
・英国のバイテク企業が遺伝子組換え技術により致死性遺伝子を組込んだ♂蚊を開発、ブラジルで1,000万匹以上を放出。マレーシアでも実施の段階です。カリフォルニア大学の研究チームが飛べない遺伝子組換え♀蚊を作成しメキシコで実験を開始しています。
「感染症対策論」は「人獣共通感染症」「動物危機管理学概論」とダブルところが多いので、解体して両方の講義に取り入れることにしました。しかし、シラバスを見てみると、面白い考え方も入っています、いつか時間がとれたら「人獣共通感染症」や「危機管理学概論」とは別の切り口で、「感染症対策論」を展開してみようと思います。今度は病原体、感染経路、社会的背景等の違う感染症の事例を危機管理の視点からまとめ直してみるのも面白しろいかもしれません。
動物感染症対策論 3年生後期:2単位
(Animal Infectious Disease Management )
「動物感染症学」「病原体の科学」で人を含む多様な動物の病気とその原因となる病原体の世界や生態を学んだ。感染症を地球上に最初に出現した生命体群と最後に出現した家畜やヒトの相互作用と考え、「感染症と生体防御」で宿主と病原体の関係を進化論的生体防御の側面から考えてみた。これらの集大成として、感染症とヒトあるいは動物の関係にどのように対処するか?「危機管理学概論」で展開された方法論のうち、感染症に特化して、その対策法について学ぶ。
家畜や野生動物自身の感染症、及び動物に由来する人の感染症を統御するにはどのような方法があるか?を一緒に考えてみたい。動物の関連する感染症には非常に多くのものがある。病原体、宿主、感染経路など、個々の感染症により、そのリスクシナリオは多様であり、かつ、文化や社会構造あるいは時代により影響を受ける複雑系である。
しかし、感染症の基本は、宿主がどの程度病原体に汚染されているかを知ることから始まる。母集団の特性や規模、構成、生態などの情報をどのように収集するか?多くの感染症を重要性からどのように序列化するか?選択され標的となった感染症の重要管理点を理解し、適正なリスク管理をする具体的な方法、管理措置の有効性を評価、検証する方法などについて考えていきたい。前半では総論を、後半では具体的事例を中心に感染症対策の各論により、対策の手順を理解する。
千葉科学大学、動物危機管理学科、吉川泰弘
第1回;人の感染症の起源(文明、文化と感染症の関わり)
到達目標:ヒトの感染症史、文明の発祥と異文化交流を感染症の視点で理解し、説明できる。感染症と人類の戦い、その概要と課題を理解する。
キーワード;初期人類、先史人類、原生人類と感染症、文明と感染症、政治を変えた感染症、新旧大陸文化の遭遇と感染症、感染症との闘い、感染症の課題
第2回;家畜感染症の変遷(牛疫、口蹄疫を中心に)
到達目標:家畜感染症の中で最も重要な感染症である口蹄疫と牛疫を中心に、家畜の感染症とその対応に関する変遷を理解する。
キーワード:牛疫4000年の流行史、牛疫との闘い、撲滅された感染症・天然痘と牛疫、口蹄疫の歴史、克服できない感染症・口蹄疫
第3回:野生動物感染症(翼手目、カエルツボカビなどの事例)
到達目標:野生動物に発生した感染症の事例を中心に、どのような調査が行われ、どのように対応がとられたかを理解する。
キーワード:コウモリ白鼻症候群、カエルツボカビ症、ラナウイルス感染症、展示
動物の感染症例
第4回:感染症を知る:疫学の必要性
到達目標:感染症対策を立てるためには、疾病の構造や特性、実情を理解しなければならない。そのためのツールが疫学調査である。国際疫学学会の定義では「特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の分布あるいは規定因子に関する研究。健康問題を制御するために疫学を応用すること」とされている。
キーワード:疾病要因、R0(アール・ノート)、記述疫学、分析疫学、ケースコントロール研究、サーベイランス(能動的サーベイランス、受動的サーベイランス)
第5回:感染症統御、一つの世界、一つの健康(One World, One Health)
到達目標:マンハッタン原則として世界に提示された、感染症対策の基本原則を読み解き、理解する。国際的に展開されているワンヘルス・イニシアティブの活動を理解する。
キーワード:マンハッタン原則、一つの世界・一つの健康のコンセプト、ワンヘルス・イニシアティブ、ズーノーシス統御のための医学・獣医学提携
第6回:ヒトの感染症対応の国際機関(世界保健機関:WHOとは?)
到達目標:ヒトの感染症の統御の責任を負っている国際機関は、国連に所属する世界保健機関(WHO)である。WHOの目的、組織、機能などについて理解する。
キーワード:世界保健機関(WHO)、米国疾病統御センター(CDC)、欧州CDC)
第7回:家畜(野生動物)感染症に対応する国際機関(OIE, FAO)
到達目標:家畜感染症の統御を目的として発足した国際獣疫事務局(現国際動物保健機関OIE, WOAH)は政府間機関であり、家畜や野生動物疾病の統御の役割を果たしている。OIEと共同で食料安定供給を目的とする国連の国際食糧農業機関(FAO)について理解する。
キーワード:OIE(国際獣疫事務局), FAO(国連食糧農業機関), IRLI(国際家畜研究所)CAC(コーデックス委員会),
第8回:感染症に関わる国内の主な法律
(感染症法、検疫法、家畜伝染病予防法、狂犬病予防法)
到達目標:動物感染症及びヒトの感染症(動物由来感染症を含む)に関連する主な法律には感染症法、検疫法、家畜伝染病予防法、狂犬病予防法などがある。これらの法律に規定されている感染症対策を中心に学ぶ。
キーワード:感染症法、検疫法、家畜伝染病予防法、狂犬病予防法
第9回:動物由来感染症のリスク評価とカテゴリー
到達目標:伝染病予防法から100年ぶりに見直された感染症法では、はじめて動物由来感染症が法律に組み込まれた。ヒト-ヒト感染を対象に制定された法律に組み込むためになされた動物由来感染症のリスク評価方法について理解する。
キーワード:感染症のリスク評価、動物由来感染症のエビデンス、伝播力、重篤性、
予防法、治療法、定性分析
第10回:輸入動物に関連する感染症リスクと対応
到達目標:わが国の動物由来感染症アウトブレイクの可能性について、最もリスクが高いと考えられた輸入野生動物に関するリスク評価を行ったWGの分析過程を振り返り、どのような評価を行い、評価に基づき、どのようなリスク管理を行ったかを理解する。
キーワード:地域別評価、輸入実績、疾病重要度評価、1次評価、2次評価、リスク
管理措置、効果の検証、ニアミス事例
第11回:動物由来感染症のリスク評価と重要度序列化
到達目標:動物由来感染症は主要なものでも100種類を超える、動物種も病原体も疾病の特性も異なる感染症をどのように重要度に応じて統一的な評価方法で序列化するかは、感染症対応にとって重要である。プライオリティーの決め方について事例に基づき、その方法を理解する。
キーワード:因子の選択、階層化、AHP法、2項比較法、序列化、ステークホルダー
による差異、リスクコミュニケーション
第12回:動物由来感染症への対策事例
到達目標:動物由来感染症のリスクを回避するためにとられた対策の事例について
学び、その基本戦略を理解する。
キーワード:野生動物の狂犬病、実験動物由来感染症(HFRS)、Bウイルスフリー
動物園計画、北海道エキノコックス症、
第13回:家畜と野生動物インターフェイスのリスク評価手順
到達目標:家畜は本来野生動物であったが、ヒトの文明の中で家畜化されたものである。そのため家畜と野生動物の間では、感染症が伝播する。どのような感染症があるか、その中で重要なものは何かを理解する。
キーワード:OIEリスト、家畜伝染病予防法、届出伝染病、ファクトシート、能動的サーベイランス、受動的サーベイランス
第14回:感染症統御計画の事例
(利根川の汚染防止とクリーンなグリーン・イノベーション計画)
到達目標:身近なテーマを例にとり、感染症統御のためのサーベイランス方法、リス
ク評価と統御方法の戦略、統御成果の新規産業への展開について考える。
キーワード:環境微生物叢の解析、次世代シークエンサー、メタゲノム解析、土壌、汚泥、ヘドロの微生物叢の解析、超高熱好気性発酵菌、SPF農場と養殖
第15:動物感染症対策論の振返り、試験問題解説
到達目標:動物感染症対策を振返り、問題点、課題を検討する。試験問題の内容の
理解を深める
キーワード:感染症とは?病原体の進化・多様性と生態学、危機管理からみた感染症、感染症の課題と対応