ペストに関する原稿を依頼されました。以前、米国からのプレーリードッグの輸入を禁止する際に「プレーリードッグとペスト」の関連性を紹介しました。以下のインターネットにアップされています。http://www.hdkkk.net/topics/pest01.html

 その後、千葉科学大学での「病原体の科学」で細菌の多様性、抗生物質と耐性菌、北里大学と千葉科学大学での「人獣共通感染症」で吸血昆虫(ベクター)の特徴、宿主齧歯類の多様性等を講義する間に、病原体の自然宿主、増幅動物、ベクター及びヒトでの振る舞いを少しづつ理解するようになりました。そうした観点で、複眼的に、この感染症「ペスト」を考えてみました。

 

ペスト

病原体

 

ペストの原因菌はグラム陰性、通性嫌気性の桿菌で、多くの病原菌が属するプロテオバクテリア門、腸内細菌科の細菌であり、特別な細菌ではない。分類学的にはプロテオバクテリア門、γプロテオバクテリア綱、エンテロバクター目、腸内細菌科、エルシニア属、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)である。祖先といわれ、水系感染を起こす仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)に極めて近縁である。実際、両菌のゲノムはほとんど変わらないが、ペスト菌は仮性結核菌にはない2つのプラスミドを持っている。pPCP1(プラスミノーゲンアクチベータ、コアグラーゼ、ペスチシン1)pMT1(莢膜抗原、murin toxinであり、これによりペスト菌が血液中で効率よく増殖するようになった。そのため砂漠周辺の草地あるいは山岳・森林地帯に生息する齧歯類を宿主としノミをベクターとして新たな生態系を確立したと考えられている。

 

 

 ペスト菌には3種類の病原性が異なる型がある。「ユスティニアヌス疫病」と言われ67世紀にシルクロードを介してヨーロッパに広がった古典型(Antiqua)、14世紀に「黒死病」として恐れられ、中世の大流行を引き起こした地中海型(Medievalis),および、19世紀以降の世界貿易の拡大に伴いネズミと共に世界中に拡散し、北里柴三郎とAlexandre Yersinによりペスト菌が分離された東洋型(Orientalis)である。

 

現在も世界各地で見られる流行は、このときの型(Orientalis)であり、アフリカの山岳地帯や密林地帯、東南アジアヒマラヤ山脈周辺と熱帯森林地帯、中国モンゴルの亜熱帯草原地域、中近東からカスピ海西北部、北米南西部ロッキー山脈周辺、南米北西部のアンデス山脈周辺と密林地帯で流行がみられる。病原性は一番古い流行型が最も強く、最後の流行型が最も弱い。いずれの型も中国の中西部に現存していると考えられている。

 

 

自然宿主とベクター

 ペスト菌は自然界では齧歯類とノミの間で維持されている。一般にノミは、蚊やダニのような他の吸血ベクターと異なり、宿主域が狭い。例えば、ネコひっかき病のベクターとして知られているネコノミは、ヒトの血を吸うが、卵を産むにはネコへの吸血が必要であり、ヒトに持続的につくわけではない。また、ペスト菌を媒介するネズミノミも同様に、産卵のためにネズミから吸血する習性を持つと考えられている。

こうした特徴のためか、ノミは蚊やダニと異なり、細菌感染症であるエルシニア属による「ペスト」とバルトネラ属による「ネコひっかき病」、寄生虫症(条虫感染症)の「ウリザネ条虫症」以外、人獣共通感染症としてノミ媒介のウイルス病や原虫感染症は、ほとんど知られていない。

他方、自然宿主である齧歯類では、感受性の違いが知られている。北米ではプレーリードッグの他にジリス、リチャードソンジリス、ベルディングジリス、タウンゼンドジリス、ユインタジリス、カリフォルニアジリス、キンイロジリス、シマリス、ウッドラット、リスがペストの宿主となっている。ハタネズミやシカネズミのようなキャリアーの動物種(enzootic host)は、ペスト菌に対して比較的抵抗性が高く、繁殖力が高いので、ノミが通年をとおして活動し、ペスト菌を次世代の動物に移していくと考えられている。一方、非常に感受性が高く、致命的でペスト菌による敗血症を起こしやすい宿主(epizootic host)は、前述したジリス、リス、ウッドラット、プレーリードッグなどである。

ペスト菌の自然界での生態を考えると、ハタネズミやシカネズミがレゼルボアの役割を果たし、ペスト菌を維持している。高感受性のジリス、リス、プレーリードッグなどの増幅動物群に流行が広がると、ペスト菌の増殖が盛んとなり、直接あるいは伴侶動物やノミなどを介してヒトに感染が広がり、ヒト―ヒト感染に拡大すると考えられる。ペストは、しばしば南北アメリカ大陸、中国・インド・東南アジア、アフリカ大陸・マダガスカルなどで流行を起こしている。温暖化により大陸地域で乾燥地帯が拡大すると、齧歯類の生息域も変化を受け、ペスト菌を保有する動物とヒトとの接触機会が増加するリスクが考えられる。

 

流行疫学

 ペストは、古くギリシアとスパルタが戦ったペロポネソス戦争の際のアテネでの流行(「アテネペスト」、科学的根拠はないが、そのように推察されている。天然痘、発疹チフスという説もある。)、東ローマ帝国ユスティニアヌス王朝の第2代皇帝(ユスティニアヌス1世)における腺ペストの流行が記載されている。後者は「ユスティニアヌス疫病」として知られ、ローマ帝国拡大・再統合の夢を断念する引き金となった。

14世紀の「黒死病」は、ベネチアの検疫制度の開始やイスラム圏の医学者イブン・アルハティーブの「ペスト流行時、衣類・食器・イヤリングへの接触が発症の有無を左右する」、イブン・ハーティマの「感染症は微生物が体内に侵入することによって発症する」といった、先進的なペストに関する流行疫学の発見を生んだ。しかし、この流行はアジア(中国)からシルクロードを経由して欧州(イタリア)に伝播し、当時の欧州の人口の3分の1から3分の2に当たる、約2,000万から3,000万人が死亡したと推定されている。また全世界では、約8,500万人~1億人が死亡したと考えられる大流行であった。

3回目の大流行は現在に続くものである。中国雲南省1855に大流行した腺ペストを起源とするものであり、香港での大流行(1894年)をきっかけとして拡大し、台湾日本ハワイ諸島、米国、東南アジア南アジアの各地に広がった。1910からは清朝末期の満州で肺ペストが流行した。またインドでの死亡者は1200万人以上に達したといわれている。

 前述したように、ペストは決して過去の疾病ではない。現在でも世界の多くの国々で発生している。1991年から2000年の間に、アフリカ大陸ではマダガスカルの9,000人、タンザニアの4,700人をはじめ、モザンビーク、コンゴ、ナムビアなどで1,000人以上の患者が出ている。アジア大陸ではベトナムの2,900人、インドの900人の他に、ミヤンマー、モンゴル、中国、カザフスタン、インドネシアなどで発生が見られている。アメリカ大陸では米国が100人、南米ではペルーの1,300人、ブラジルの60人の他、エクアドル、ボリビアで流行が見られた。

感染症統御が最も進んでいると考えられる米国では、1970年から1994年の間に、ヒトペストの原因動物として同定されたケースは、リスが44.3%、プレーリードッグが5.7%、ウサギ6.9%、ネコ5.3%、その他の肉食動物2.7%と報告されている。通常、enzootic hostからヒトが感染することはなく、ヒトへの感染はepizootic hostから直接、あるいは伴侶動物などの他の動物種をとおして感染する。また、1959年から1998年まで米国では393例のペスト患者の発生が報告されており、そのうち240例で感染源が同定されている。プレーリードッグあるいはそのノミから、ヒトに感染した例は31例であった。また、米国でのペスト発生州は経年的に増加しており、1995年~97年に発生したヒトの18症例のうち5例はプレーリードッグを介したものであり、2例は死亡している。19985月にはテキサス州でノミを駆除し、10日間の検疫後に売買された356頭のプレーリードッグのうち223頭が輸送後に、ペストを発症するというケースが報告されている。

2000年以降も世界的にペストの散発がみられている。特にマダガスカル、コンゴ、ペルー、米国では毎年発生が報告されている。2010年~2015年には世界で3,248人の患者が報告され、548人が死亡した。直近では、マダガスカル山岳部で恒常的に腺ペストの発生が見られていたが、20178月以降に首都アンタナナリボを含めた都市部での肺ペスト患者の増加が見られており、108日までに肺ペスト患者 227人、腺ペスト患者106人、ペスト敗血症1人の発生が確認され、45人が死亡した。世界保健機関(WHO)がマダガスカルのペストと戦うために、120万ドーズに近い抗生物質を提供し、150万ドルの緊急資金を提供した。WHOは、マダガスカルのペストのアウトブレイクに効果的に対応し、命を救うために550万ドルの資金が必要であることをアピールしている。

 

一般的に、ペスト菌のヒトへの感染経路としては、病原体保有ノミ刺咬による感染が78 %、ペットなどを含む感染小動物の体液を介した傷口からの感染が20 %、ペスト菌含有エアロゾルの吸入が2 %(肺ペストによるヒトからヒトへの感染)となっている。また、流行の常在地域でのペスト患者の発生はノミの活動期(高温・多湿、6~8月)に集中する傾向がみられる。

 

 

症状

ペストの臨床症状には、腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペストの3種類が知られている。

腺ペストの潜伏期間は2日~7日であり、ペストの8090 %を占める。感染齧歯類などに吸着したノミによる刺咬後に発病する最も一般的な型である。稀に、感染したヒトあるいは動物への接触により、傷口や粘膜から感染する場合もある。急激な発熱(38 C 以上の高熱)、頭痛、悪寒、倦怠感、不快感、食欲不振、嘔吐、筋肉痛、疲労衰弱などの強い全身症状、さらに鼠径部、腋窩、頸部などの局所リンパ節腫脹(クルミ~アヒルの卵大)および壊死・膿瘍形成が特徴である。発症後、ペスト菌はリンパ流、血流を介して脾臓、肝臓、骨髄、心臓、肺臓など全身に伝播して敗血症を起こす。34 病日に敗血症を起こし、その後23日以内に死亡する。ノミの刺咬部位には変化はないが、稀に、刺咬部位の皮膚、または眼に化膿性潰瘍や出血性炎症を形成する場合があり、皮膚ペスト、眼ペストと呼ばれている。

敗血症ペストはペストの約10 %を占める。局所症状がないまま全身にペスト菌が伝播して敗血症を引き起こす場合、腺ペストから敗血症への移行によるものがある。急激なショックおよびDIC(播種性血管内凝固)、昏睡、手足の壊死、紫斑など、いわゆる「黒死病」を起こす。通例、発症後2~3日以内に死亡する。

肺ペストは、腺ペストの末期や敗血症ペストの経過中に起こる。増殖したペスト菌が肺に侵入して肺炎を起こし、肺胞が壊れて、痰やペスト菌含有エアロゾルを排出するようになる。この場合、肺ペスト患者が感染源になって、ペスト菌がヒトからヒトへ素早く伝播する。肺ペスト患者のペスト菌含有エアロゾルを吸い込んで2 次的に発症すると、強烈な頭痛、嘔吐、3941 C の高熱、急激な呼吸困難、鮮紅色の泡立った血痰を伴う重篤な肺炎が起こる。潜伏期間は通例23日、最短は1215時間。発病後1224時間で死亡する。

 

診断

 診断には、血液や腫脹したリンパ節の吸引物、痰などにペスト菌を証明する。患者血清中の抗Fraction 1 抗体価が、受身赤血球凝集(PHA)反応で10 倍以上上昇する。PCR によりペスト菌の遺伝子を確認する等の方法がある。

 行政的な、疑似患者と確定患者の診断基準は以下のように定められている。

1、疑似患者:ペスト流行地への渡航歴や、バイオテロに巻き込まれた可能性がある場合で、ペストの臨床症状を示し、臨床材料からグラム陰性で両端染色性を示す桿菌や、診断用抗原(莢膜抗原)に対する抗体、蛍光抗体に対して陽性を示す菌が検出された場合。あるいは、ペスト菌に特異的なプライマーを用いたPCR 法で、特異的なバンドが検出された場合、患者血清中の抗Fraction 1 抗体価が、PHA反応で16 倍以上を示した場合。

2、確定患者:臨床材料から分離した菌が、顕微鏡所見で明らかな極小体を示すグラム陰性桿菌で、莢膜抗原に対する抗体、蛍光抗体に陽性を示し、ペスト菌に特異的なプライマーを用いたPCR 法で陽性を示し、ペスト菌特異ファージに対して感受性を示し、生化学的性状がペスト菌の性状と一致することなどから総合的に判断し、ペスト菌(Yersinia pestis)と同定された場合。あるいはPHA反応で、診断用抗原に対する回復期の抗体価が、感染初期の抗体価の4 倍以上上昇している場合。

 

 

治療

幸いペスト菌は多くの抗生物質に感受性であるが、治療が遅れると非常に高い致死率を示す。回復後、予後は良好で、後遺症は殆ど残らない。日本でペストの治療薬として保険が適用されるのは、ストレプトマイシンだけである。ペストに最も効果があるが、副作用があるので過度の投与は避けたほうが良い。新生児、未熟児、乳児、小児に対する安全性はまだ確立されていない。

他方、米国疾病予防管理センター(CDC)、WHO が推奨する抗生物質には以下のものがある(治療期間はすべての抗菌薬において10 日を超えないこと)。また、テトラサイクリンに対する耐性を持つペスト菌の報告があるので注意が必要である。

1、アミノグリコシド系(蛋白合成阻害):ストレプトマイシン、ゲンタマイシンは全てのペストに最も効果がある。
2、テトラサイクリン系(蛋白質合成阻害):テトラサイクリン、ドキシサイクリンは腺ペストおよび肺ペストの治療にアミノグリコシド系と適宜併用。
3、クロラムフェニコール(蛋白質合成阻害):ペストの髄膜炎、胸膜炎、内眼球炎等の治療に用いる。腺ペスト、敗血症型ペストには、アミノグリコシド系と適宜併用。
4、ニューキノロン系(DNA合成阻害):全般的にペストに対して優れた効力を示す。特にレボフロキサシン、スパルフロキサシンが優れている。副作用の強いアミノグリコシド系よりペストの治療に期待が持てる。

 

予防

 患者と直接接触した人や肺ペスト患者に接近した人など、発病する可能性の高い人や、流行地への旅行者などのように短期間ペストの暴露を受ける可能性がある人に対して、予防のためにWHOCDC は抗菌薬(テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ST合剤(サルファメソキサゾールとトリメトプリムを51の比率で配合した合剤))の予防投与を勧めている。投与量は、治療で用いる量の1/2 ~同量を経口投与する。

 

妻と作った人形。

娘の修学旅行の写真をもとにしました。

オリジナルの写真です

 

娘のドイツ時代のカーニバルの写真です。大家さんは子ネズミちゃん「モイスヒェン」といっていました。

下の人形は妻の作品です。

先日、妻の作品が創刊700号記念家庭画報大賞の佳作に入りました。

題「何して遊ぼう」です。