2年生では、本格的な専門の授業が始まります。必修科目である動物危機管理ゼミナールI,IIでは、講義のほかに、野外実習として谷津田での自然観察などがありました。後期には食肉公社や検疫所で体験学習をします。もちろん、体験学習後の研究成果報告や討議を行い、自分たちの考え方を進化させていきます。
前期はゼミナールのほかに、私は、「病原体の科学」と「動物感染症論」の講義を各々15回づつ行いました。1回の授業は90分です。スライドは1回に35~45枚くらいです。初めての講義内容なので、学生さん達と同様、毎週の授業の準備が大変でした。シラバスと学生が期末試験のために、自ら作った試験問題の例も示します。
平成26年4月23日は動物感染症学第3回の講義でした。感染症ゲームで体験しながら感染症とその対策(ワクチンの有効性)を学ぼうという参加型学習です。ゲームは50~60人くらいを想定して作ってあります。
今年は学生さんが少ないので、秘書の高根さん、柴原先生、小野先生と飛び入りで旭農高の伊藤先生と校長先生が参加してくださいました。新型インフルエンザにかかってワクチンが間に合わずに死亡するのが私だけという想定外の結果になりました。昨年はうまくいったのですが、少人数での感染様式は、シミュレートが難しい?来年はもう少し改善しなければと思います。授業風景です。
動物感染症概論 2年生前期:2単位 シラバス
(Introduction to Animal Infectious Diseases)
千葉科学大学、動物危機管理学科、吉川泰弘
ウイルスのように宿主細胞の蛋白や酵素を借りなければ増殖できない病原体は、基本的に宿主への依存性が高く、宿主の範囲が狭い。細菌や真菌のように独立栄養性が高い病原体は、宿主域が広く、種々の動物に感染する。また寄生虫のように宿主と共生関係が強い病原体は、本来の宿主と非宿主ではその振る舞いが異なる場合がある。さらに中間宿主を利用して拡散する戦略を持っている。種々の動物は種々の病原体とのかかわりで、様々な感染症の流行に巻き込まれている。感染症の概念、流行と予防の基礎知識を理解したうえで、各種動物の感染症と宿主応答、予防、リスク評価等について学ぶ。
1、感染症概論
到達目標:感染症とは?その全体像と概要を理解する。
キーワード:病原体と宿主の関係、伝播様式、疫学(ROの考え方)
感染症疫学、予防と治療
2、感染症ゲームによる理解(1)
感染症の概要を説明し、どのように流行が起こるかをモデルケースで体験する
3、感染症ゲームによる理解(2)
感染症への対応、有効性はどのような結果になるかをモデルケースで体験する
4、ヒトの感染症のタイプ(分類)の概要
到達目標:動物由来感染症の事例に基づき感染のタイプと特性を理解する
キーワード:病原体によるタイプ、感染経路によるタイプ(吸入、接触・飛沫、
経口、ベクター、咬傷、土壌・水系、経皮・創傷)動物によるタイプなど
5、動物感染症各論:昆虫(ミツバチ)の感染症
到達目標:昆虫類の防御機能とその特性を理解し説明できる。ミツバチの主な疾患
(原虫、細菌、ウイルス)を理解し説明できる。
キーワード:ミツバチ社会、ディフェンシン、TLR,レクチン、細菌感染症、真菌症、
原虫病、ウイルス病、寄生虫病
6、魚類の感染症とワクチン
到達目標:魚類細菌感染症と魚のワクチンについて、その概要を説明できる。
魚のワクチンの現状を理解する。
キーワード:主な感染症、水産用ワクチン、細菌感染とワクチン、ウイルス感染と
ワクチン、ワクチン接種と報告
7.魚類の生体防御と免疫
到達目標:魚類の免疫能について、その概要を説明できる。魚類の自然免疫と獲得
免疫能の進化を理解する。変温動物としての魚類の免疫応答を理解する。
魚類独特のワクチン方法(浸漬法)を理解し説明できる
キーワード:レクチン、ディフェンシン、補体、IFN、NK細胞、T細胞、
B細胞、MHC, サイトカイン、水温と抗体産生、浸漬法ワクチンとは?
8. 鳥類感染症(家禽疾病1):国際感染症と家畜伝染病予防法
到達目標:家禽とは?定義を理解する。世界の家禽産業を理解し説明できる。
アジアと日本の畜産における家禽産業の位置を理解し説明できる。
家禽の国際的感染症、国内感染症と伝染病予防法を理解する。
キーワード:家禽と人、主な家禽とは?ブロイラー、レイヤー、地鶏。
OIEと国際的感染症(越境感染症)、家畜伝染病予防法と家禽感染症
9. 鳥類感染症(家禽疾病2):ウイルス性疾患
到達目標:家禽の主要なウイルス病を理解し説明できる。ウイルス病の疫学、
症状、診断法を理解する。ウイルス病の予防、治療法を理解する。
キーワード:ニューカッスル、マレック病、鶏痘、産卵率低下症候群、
鶏脳脊髄炎、鶏貧血ウイルス病、鶏封入体肝炎、アヒル肝炎、
10. 鳥類感染症(家禽疾病3):細菌性疾患
到達目標:家禽の主要な細菌病を理解し説明できる。細菌性疾病の疫学、症状、
診断法を理解する。細菌性疾病の予防、治療法を理解する。
キーワード:鶏結核(結核)、鶏マイコプラズマ病、伝染性コリーザ、
鶏壊死性腸炎、鶏ボツリヌス症
11.鳥類感染症(家禽疾病4):寄生虫性疾患
到達目標:家禽の主要な寄生虫病を理解し説明できる。寄生虫疾病の疫学、
症状、診断法を理解する。寄生虫疾病の予防、治療法を理解する。
キーワード:ロイコチトゾーン、コクシジウム、ヒストモナス、内部寄生虫症、
外部寄生虫症
12、家禽由来疾患(卵、肉による食中毒)
到達目標:家禽(動物)由来感染症のうち食品に由来する感染症について理解する。
食中毒の原因、課題、対策について理解し、説明できる。
キーワード:サルモネラ、カンピロバクター、O157, HACCP、
農場から食卓へ、日本のHACCP制度の問題
13. 家畜感染症と野生動物(リスク評価の方法論)
到達目標:家畜と野生動物のインターフェイス、病原体の行き来を理解する。
膨大な数の感染症の序列化、サーベイランス方法などを理解する。
キーワード:越境感染症、家畜伝染病予防法、感染症の序列化、ファクトシート、
サーベイランス(アクティブサーベイランス、パッシブサーベイランス)
14. 家畜の主要な感染症(口蹄疫)
到達目標:重要な家畜の越境感染症について理解する。ここでは口蹄疫を例にとって
その原因、特性、国際的対応、わが国の課題等を検討し、理解を深める。
キーワード:口蹄疫の歴史、口蹄疫ウイルス、RO(アールノートン)、
宮崎での大流行の経緯、国際基準、わが国の対応の課題
15.振り返りと動物感染症概論のまとめ、学生の作成した試験問題の解説
到達目標:動物感染症概論の振り返り、まとめ
キーワード:動物感染症の振り返り、感染症の概念、流行パターン、疫学用語、
各種動物の感染症の特徴、病原体の特性と感染症、リスク評価法、
危機管理対応。
ここからは、「病原体の科学」のデータです。
プリオンやウイルスは専門なのでそれほど苦労しませんでした。
細菌類は多少の知識がありましたが、全体をカバーするのに苦労しました。
真菌類、原虫類、寄生虫は今回の授業のために、ほとんど新規に情報収集したものです。やはり、全体を通して教えると、病原体と宿主の関係を、これまで以上に深く理解することができました。
学生さんたちに、その思いがうまく伝わったかどうかわかりません。
まだ、「宿主と生体防御学」、「人獣共通感染症学」、「動物感染症対策論」等で、学生さん達と会うことになるので、その過程で全体を理解してもらえればよいかと思っています。
病原体の科学 2年生前期:2単位 シラバス
(Science of Pathogens)
千葉科学大学、動物危機管理学科、吉川泰弘
細菌(ウイルスを含む)、真菌、寄生虫などの病原体は、地球上に最初に出現した生命体のグループです。病気になる宿主動物は地球上に最も遅く出現した生物群です。両者の出会いが時に病気として起こるのが感染症です。しかし、相互関係はこれだけでなく、また時に進化の原動力として働くこと、科学の発展に寄与することもあります。このような視点に立って、病原体の存在様式、進化と宿主との共生、感染症などの観点から、病原体を科学的に考えてみたいと思います。講義は、最初に一番難しい?プリオンから始まります。
1. プリオンI: 現代科学の謎
到達目標、プリオン(感染性蛋白粒子)が他の病原体と比べて、どのくらい異常なの
かを理解する。プリオン病に関連する2つのノーベル賞受賞者について理解し、
説明できる。
キーワード:遅発性感染症とガイジュセック、感染性蛋白粒子、プリオンの
複製機構、プリオンが感染性を持つことの証明実験(ノックアウトマウス等)、
プルシナーの仮説、試験管内増幅(PMCA)法
2. プリオンII: プリオン病
到達目標:動物と人のプリオン病の多様性について理解する。
キーワード:ヒツジのスクレイピー、ミンク脳症、BSE(牛海綿状脳症)、
クール―、CJD(クロイツフェルトヤコブ病)と硬膜移植、
遺伝性プリオン病(GSS, FFI)
3. ウイルス概論:ウイルスから見た世界
到達目標:自己複製可能な最小の生命体であるウイルスについて、その構造、
増殖様式、細菌との違いを理解し、説明できる。
キーワード:ウイルスの大きさ、ウイルスから見た人、ウイルスの基本構造、
ウイルスと他の生物の複製機構の違い、ウイルスに感染するウイルスと
細菌に感染するウイルス、ウイルスから見た世界
(世界はウイルスで満ちている?)
4. ウイルスの多様性:ミミウイルスからピコルナウイルスまで
到達目標:ウイルスの多様性とその特性を理解する。
キーワード:最近見つかった最大のウイルス(ミミウイルス)、最初に見つかった
最小の動物ウイルス(口蹄疫ウイルス)、植物のウイルス、動物のウイルス、
撲滅されたウイルスI(天然痘)、撲滅されたウイルスII(牛疫ウイルス)
5.ウイルスの戦略:破壊、共存、潜伏、進化
到達目標:ウイルスと宿主の関係の複雑さを理解する。致命的なウイルス感染症で
ウイルスはどのように生き残るのか?宿主と共存したウイルス、
進化に役立ったウイルスなどの存在を知る。
キーワード:人のウイルスの起源、ゲノムに潜むウイルス(レトロウイルス)、
ウイルスをやめたウイルス、潜伏するウイルス(ヘルペスウイルス)、
ウイルスの進化
6. ウイルス各論:各種感染症とウイルス
到達目標:主な感染経路とウイルス感染の組み合わせから見て、
ウイルスの分類を理解する。
キーワード:呼吸器感染(空気感染、飛沫感染)ウイルス、消化器(経口)
感染ウイルス、泌尿器(性器)感染ウイルス、接触(経皮)感染ウイルス、
垂直感染ウイルス、ベクター(昆虫)媒介ウイルス
7. 細菌:地球と細菌の歴史
到達目標:地球の誕生とその後の環境変化、地球の最初の生命体である細菌の
変遷を理解し、説明できる。
キーワード:ビッグバンと宇宙、地球の誕生と変遷、単細胞生物の世界(古細菌)、
嫌気性菌群、好気性菌群、ミトコンドリアと葉緑体
8. 細菌の多様性と分類
到達目標:一般的な細菌の分類方法を理解する。また、細菌の分類方法が、
その生物特性からゲノム構造による分類に変化してきたことを理解する。
キーワード:グラム染色(グラム陽性、陰性)、好気性菌、嫌気性菌、
形態(桿菌、球菌、その他)、マイコプラズマ、リケッチア・クラミジア
9.細菌毒素のいろいろ
到達目標:細菌の病原性と関係の深い、主要な毒素とその毒性について理解する。
また毒素とトキソイド、抗毒素血清療法の歴史を理解し、説明できる。
キーワード:破傷風毒素、ジフテリア毒素、ベロ毒素、ブドウ球菌毒素、
LPS(脂質多糖体)、毒素遺伝子の転移
10、真菌の世界と特性、多様性
到達目標:細菌と真菌の違いを理解する。抗生物質と真菌の関係を理解し
説明できる。真菌類の産生する毒素とその作用を理解する。
キーワード:真菌とは?細菌との違い。真菌の生活環、抗生物質の歴史、
ペニシリンとストレプトマイシン、免疫抑制剤と真菌、真菌の多様性
11. 原虫:単細胞動物の世界
到達目標:原虫とは?単細胞動物の特徴について理解する。
キーワード:単細胞生物と多細胞生物の違い、体細胞と生殖細胞及び原虫の性、
原虫の寿命は?原虫の生活環、原虫の分類学、原虫の共生と寄生
12. 病原性原虫のいろいろ
到達目標:重要な人や動物の原虫症と原因となる原虫の振る舞いを理解する。
キーワード:血液原虫、筋肉に住む原虫、腸管の好きな原虫、脳に行く原虫、
肝臓・腎臓で増える原虫、肺を好む原虫、原虫病と駆虫薬
13. 寄生虫概論:生態学
到達目標:寄生虫の特性とは?環境に適応する寄生虫、寄生虫の生活環、
終宿主と中間宿主などについて理解する。
キーワード:寄生虫の特徴と多様性、環境への適応・寄生するとは?
寄生虫の生活環、中間宿主と終宿主、寄生虫の戦略と免疫系、寄生虫の役割?
14. 寄生虫各論:線虫、条虫、吸虫
到達目標:寄生虫の分類、線虫・条虫・吸虫の特徴を理解し説明できる
キーワード:線虫、人と動物の主な線中症、条虫、人と動物の主な条虫症、吸虫、
人と動物の主な吸虫症
15. 病原体の科学:まとめ(ふり返り)
到達目標:病原体(環境微生物叢の一部)を総括して理解する。
テスト問題に関する議論
2年生後期の授業は「感染症と生体防御」です。
ここでは免疫系を中心に生体防御の講義をします。
第1回は免疫系の概論です。
感染症と生体防御 2年生後期:2単位
(Protection mechanism to infectious diseases)
千葉科学大学、動物危機管理学科、吉川泰弘
生物の構築したシステムの中で、生体の防御系は、神経系、ゲノムと並んで進化論的に古い形質の上に新しく獲得した形質を積み重ねている複雑系システムである。すなわち、物理・化学的バリアー、そして自然免疫から特異(獲得)免疫へと進化している。個体の感染時の応答は、この形質を再現しているといえる(個体応答は系統発生を繰り返す)。また病原体の特性に応じて、生体応答も異なっている。進化の途上で獲得した生体防御能を説明し、それがどのように個体の生体防御に反映しているかを理解する。しかし、免疫応答は「もろ刃の剣」的な側面もある。アレルギーやアナフィラキシーのような負の側面も理解しておかなければならない。さらに、ある種の病原体は生体防御系を標的にして戦いを挑んでいる。エイズウイルスはその典型例である。感染症を振り返りながら、免疫系の解明の経緯についても論じたい。その意味では「病原体科学」「感染症概論」と、この「生体防御論」は三位一体の関係にある。
1、免疫学概論:免疫系の系統発生を探る
到達目標:系統進化から免疫を理解し、説明できる。
キーワード:進化と生体防御、系統進化と免疫系の進化、進化と冗長性、自然免疫、
特異(獲得)免疫、T細胞、B細胞の研究史、個体免疫応答は系統進化を
繰り返す!
2、免疫と生体:免疫とは?記憶、自己認識、ネットワーク
到達目標:生体における免疫系の特性を理解する。神経系の記憶と免疫系の記憶
(回路に残す記憶、クローンに残す記憶)、精神的自己と非自己、免疫の自己
と非自己の認識機構、免疫ネットワークシステムを理解する。
キーワード:生体防御反応の特徴、免疫応答の記憶機構、自己と非自己の認識機構、
免疫寛容、フリーマーチンとノーベル賞を取り損ねた研究者、免疫ネット
ワークとサイトカイン(インターロイキン)
3、免疫と疾病の歴史:ペロポネソス戦争とペスト、種痘ワクチンまで
到達目標:人類の感染症の歴史とワクチン開発前夜までを理解する
キーワード:感染症と免疫の歴史、免疫の概念を作り上げた事例、バビロニアの
狂犬病、板碑のポリオ、ミイラの天然痘、ギリシャ時代のペスト、
歴史を変えた3回の世界的ペスト大流行、顕微鏡の開発と微生物、病原体、
ワクチン、ジェンナー、天然痘
4、免疫の発展と感染症:パスツールとコッホ、炭疽と家禽コレラ、狂犬病
到達目標:パスツールとコッホの研究を理解する。 感染症統御のためのワクチンの
歴史を理解し、説明できる。 炭疽、家禽コレラ、狂犬病ワクチンの 背景を
理解する。
キーワード:狂犬病ワクチンの歴史、狂犬病とは?炭疽の歴史、コッホの4原則、
ワクチン秘話、家禽コレラワクチンの意義、パスツールのために
5.近代免疫学、免疫学の夜明け:抗毒素血清療法とワクチン
到達目標:感染免疫の経験的な対応の最終段階としての抗毒素血清療法とワクチンに
ついて理解する。ワクチンの進化と展望を説明できる。抗体の概念、補体の
発見について説明できる。
キーワード:破傷風、抗毒素と抗体、北里柴三郎とベーリング、ワクチンの歴史、
ワクチンの種類と特徴、生ワクチンと不活化ワクチンの系譜、ポール・
エールリッヒの抗体側鎖説
6.分子生物学のトップランナー免疫学:免疫の系統進化と免疫学発展の逆転現象
到達目標:20世紀の生命科学の歴史を理解する。分子生物学の流れを理解する
(分子生物学からゲノム科学へ)。分子生物学としての免疫学の重要な発見
を理解し説明できる。免疫学は何故難しいのか?自然進化と学問の展開の
逆転現象、矛盾を理解する。
キーワード:近代科学の特質、分子生物学前期(ダーウィンからモルガン)、
ウイルヒョウとメチニコフ、生命の起源からトリプレットコドンまで、
クローニングからPCR、ゲノム科学とポストゲノム、免疫分子生物学、
単純系と複雑系のサイエンス
7.生体防御各論:レクチンと補体系
到達目標:CRPの特性と役割について理解する。レクチンの特性を理解し説明
できる。補体系の役割と進化を理解する。
キーワード:C反応性蛋白(CRP)、レクチンとは?レクチンファミリー、
マイトーゲンの特性、生体防御レクチン、補体、補体の歴史、自然免疫と
補体、補体因子と作用、補体レセプター
8.自然免疫:Toll様受容体(TLR)、NOD様受容体とインターフェロン
到達目標:抗菌性ペプチドを理解する。TLRの歴史と系統発生を理解する。
TLRの種類と機能を説明できる。NOD様受容体、インターフェロンの
歴史、特性を理解する。
キーワード:自然免疫系、昆虫とディフェンシンToll様受容体、TLRの役割と
発現部位、魚類とTRL, NOD様受容体、インターフェロンの歴史、
インターフェロンの構造と作用機序、
9.特異(獲得)免疫の原点:細胞性免疫
到達目標:特異免疫の原点であるリンパ球を理解する。細胞性免疫の概要を理解
する。NK細胞、NKT細胞、T細胞を説明できる。Tヘルパー、Tキラー、
調節性T細胞の機能と役割を理解し、説明できる。
キーワード:生体防御系細胞の変遷、細胞性免疫、免疫細胞マーカー、無顎類と
魚類の免疫、獲得免疫とトランスポゾン、NK細胞、NKT細胞、T細胞、抗原
提示と免疫細胞、細胞障害の機構、アポトーシス、T細胞免疫記憶、調節性T細胞
10、抗体分子の機能と構造、B細胞
到達目標:抗体の構造と機能を説明できる。抗体が多様性を持つ機序を理解する。
抗体の概念の歴史を知る。抗体が免疫系の中で演じる役割を理解する。
キーワード:抗原提示と液性免疫、抗体概念の変遷、クローン選択説、免疫グロ
ブリン、構造と機能、免疫グロブリンの種類、多様性の獲得(遺伝子再編)、
クラススイッチ、液性免疫記憶
11. 免疫ネットワーク
到達目標:免疫系のネットワークを理解する。サイトカイン、インターロイキンの
定義を理解し、説明できる。主要な細胞表面分子の役割を理解する。
キーワード:抗原提示とネットワーク、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、MHC,
CD4, CD8分子の役割、サイトカイン、サイトカインとシグナル伝達、
MHCと自己・非自己、非自己の寛容(妊娠機構)
12.免疫疾患:自己免疫病
到達目標:自己免疫病のメカニズムを理解する。主な自己免疫病を理解し、その
特性を説明できる。自己免疫病の治療法を説明できる
キーワード:自己免疫病の悪循環、自己と非自己(振り返り)、自己免疫病の機序、
自己免疫病、全身性疾患、臓器特異的自己免疫病、自己免疫病の推移、治療
13.アレルギー(Allergy)
到達目標:アレルギーの機序を理解する。アレルギーの分類とその特性を理解し
説明できる。自己免疫病とアレルギーの関係を理解する。
キーワード:定義、アレルギーの歴史、アレルギーの型(I, II, III, IV)、
アナフィラキシー、化学物質とアレルギー、
14.遺伝的免疫不全症
到達目標:遺伝的免疫不全症の多様性を理解する。自然免疫不全の例(補体、TLR
欠損症)と特異免疫不全の例(NK,T・B細胞欠損症など)を理解し説明
できる
キーワード:原発性免疫不全症候群、補体欠損症、TLRシグナル伝達不全、
慢性肉芽腫、チェディアック東症候群、ヌードマウス、ディジョージ症候群、
無ガンマグロブリン血症
15.感染と免疫不全:AIDS,SIV,FeLV
到達目標:免疫不全を誘発する感染症があることを理解する。レトロウイルスによる
免疫不全症を理解し説明できる。
キーワード:はしか(麻疹)、伝染性ファブリキウス嚢病、レトロウイルス、
エイズウイルス、AIDSから逃げたサル、ヒト後天性免疫不全症(AIDS)
(ふり返りとおまけ:試験問題の検討)
生体防御系は、
①自然バリアーの上に②自然免疫系と③特異免疫(獲得免疫)系を追加してきました。自然免疫系は、レクチン、Toll様受容体、NOD様受容体のように病原体のパターンを認識して対応します。受容体の認識により活性化された細胞群からはC反応性タンパク質、抗微生物ペプチド(ディフェンシンなど)、補体やインターフェロンなどが産生されたり、活性化します。これらの刺激を受け、マクロファージや顆粒球が異物(病原体)の排除に働きます。
自然に備わった殺し屋細胞(NK細胞:natural killer cell)も自然免疫に入れられますが、この細胞はのちの特異免疫を担うT細胞と共通点が多いです。
特異免疫(獲得免疫)は、脊椎動物の無顎類と軟骨魚類の間で大きく変わります。ヌタウナギ、ヤツメウナギと普通のウナギとは似た形をしていますが、免疫機構は大きく違います。特異免疫の特性である、自己と非自己の認識、自然免疫にはない免疫記憶、抗原特異性はどのように獲得されたか?どのような巧妙な仕組みが導入されたのか?これを解明するのが分子免疫学のテーマでした。
ごく最近、無顎類は魚類とまったく違う方向で特異免疫系を立ち上げたことがわかってきました。しかし、魚類が獲得した特異免疫系システムがその後の両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類につながっています。この詳細は第9回の獲得免疫の原点、リンパ球で説明します。
免疫系は生物進化の話だけではありません。私たちが病原体に暴露され、感染がおこったときには、系統発生の過程で獲得した防御システムを順次動かして対応するようにできています。免疫応答は教科書や講義の中だけでなく、日々、私達の体の中で起きている現象であり、また、40億年の生命史を繰り返している現象でもあるのです。
たとえば、インフルエンザウイルスに感染すると・・・・
気管の粘膜上皮バリアーが反応し、Toll様受容体が反応し、炎症性サイトカインやインターフェロンが産生されます、NK細胞が対応し、やがて抗原提示されT細胞やB細胞の獲得免疫が活動します。無事に治れば、T細胞、B細胞の免疫記憶細胞が、次回の感染に備えて待機します・・・・。