千葉科学大学に在籍していた折に、危機管理学部の田中先生と巨大津波の構造と防潮堤による防御方法について数年間議論しました。楽しい討議でした。その後、今治の獣医学部設置と獣医学部生教育に忙殺され、議論する機会はありませんでした。
6年間の任期をおえて東京に戻ったおり、田中先生から計算が完了したとの連絡をもらい日本語の原稿を見せてもらいました。数か月の議論の結果として、この英文の論文を書き上げました。レイアウトはChatGPTとの議論の結果です。テクニカルレポートという形式です。日本語の方がわかりやすいと思い、DeepLで和訳してもらったものを載せます。
大型津波流に対する新型海中防波堤モデル
田中 篤成1 山本 誠2 松原 良之2 吉川 泰弘3
1.五十嵐工業株式会社 千葉県千葉市 261-0002
2.東京理科大学 工学部 〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
3.協和化工株式会社 環境微生物学研究所 〒194-0035 東京都町田市忠生2-15-5
要旨
2011年3月11日、東日本大地震は史上最も破壊的な津波の一つを発生させた。津波の一部は茨城県鹿島灘沖を南下し、利根川河口を通過後、千葉県の銚子海岸に向けて急激に方向を変え、屏風ヶ浦の岸壁沿いを移動した。
マリーナ海岸を見下ろす丘からの現地観測中、沖合に静止した「巨大な白い水の壁」(GW3)を記録し、その後、先行する表面波流(SuWaF)を追い越す鈍い銅色の海底ジェット流(BeJeC)を確認した。この印象的な光景は、破壊力の主因が表面波ではなくBeJeCであることを示唆している。
対策可能性を評価するため、我々はSuWaF‒BeJeC構造を解析し、ダクト型及び多孔板型水中防潮堤モデルを用いた高速水路実験(T-mCFT)を実施した。これらの実験により、構造物が流入する流量の約半分に相当する顕著な逆流を誘発することが示された。
実測津波モデルと実験データを組み合わせた数値外挿により、水中防波堤は比力を約65~75%低減し、遡上高を大幅に減少させることが示された。これらの知見は、巨大津波対策として水中防潮堤の実用的な有効性を裏付けるものである。
キーワード:東日本大震災、海岸防潮堤、巨大白壁津波(GW3)、表面波流(SuWaF)、底面ジェット流(BeJeC)
はじめに
2011年の東日本大震災は、前例のない津波を発生させ、東北沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。地震動は強かったものの、極めて長周期の横揺れであったため、建物の構造的損傷は比較的限定的であった。これに対し、伴った津波は圧倒的な破壊力を示した。岩手県宮古市では、津波の到達高が37メートルを超え、世界でも有数の記録となった。気仙沼市と南三陸町では市街地全体が壊滅し、女川町では強力な逆流により鉄筋コンクリート造の多層建築物さえも流された。これらの事例は、津波が流入時と逆流時の双方において、並外れた破壊力を有することを浮き彫りにしている。
同日、研究拠点のある千葉県銚子市にも巨大津波が襲来した。マリーナ海岸を見下ろす丘から、沖合に静止した「巨大な白い水の壁」(GW3)を観察した。その下では鈍い銅色の底面ジェット流(BeJeC)が先行する表面波流(SuWaF)を追い越していた。表面波動を主に作り出すSuWaFとは異なり、BeJeCは破壊的な超臨界ジェットとして前進し、沿岸の岩礁と衝突
し、巨大な岩盤を越流した。これらの現地観測は、BeJeCが津波の主要な破壊的構成要素であることを示した。
2011年の災害後、津波の発生・伝播・影響に関する多くの研究が進んだ。津波波形逆解析により地震時すべり分布が解明され¹、測地学と波形解析の統合により断層源モデルが作り出された²。数値シミュレーションでは被害と死傷者が推定され³、大規模水槽実験では沿岸堤防決壊のメカニズムが明らかになった⁵。レビュー論文は物理モデル化の進展をさらに統合した⁶。しかし、高波防波堤などの従来型対策は表面波には有効だが、BeJeCのような高速ジェット流状の流体には適さない。
これに対し、天然の多孔質障壁——特にサンゴ礁——は、抗力・乱流・逆流を誘発することで津波エネルギーを減衰させる能力を示している。観測・実験研究により、礁の粗さが流速とエネルギーフラックスを低減し、上陸高を緩和することが明らかになった7,8,9。こうした自然防御機構に着想を得て、人工の海中式防潮堤が同様の効果を再現できるか検討した。
銚子での現地観測を基に、高速津波模擬循環水路水槽(T-mCFT)を用いてダクト型および多孔板型の水中防潮堤実験モデルを開発した。これらを直列に設置することで、津波エネルギーを低減する制御された逆流を誘発した。
本論文では、これらの実験、定量分析、外挿シミュレーションについて報告するとともに、破壊的な津波ジェット流に対する新たな対策として水中防潮堤を考案する。
津波の現地観測:津波流の構造と特性
2011年3月11日正午頃、東日本大震災とそれに伴う津波が、屏風ヶ浦の巨大な崖が聳える千葉県銚子市マリーナ海岸沖合に到達した。当時、我々の研究グループは近くで水路実験を行っていたが、直ちにT-mCFT研究を中止し、住民や作業員とともに指定された高い台地への避難に加わった。
「地球が見える丘公園」と呼ばれる展望地点からは海岸線が遮るものなく見渡せた。沖合約1kmの地点に、高さ約10m、幅30~50mの「巨大な白い水の壁」(GW3)がほぼ静止状態で現れ、水平方向の移動はほとんど見られなかった。その上空にはかすかな白い霧が漂い、空気と飛沫の強い巻き込みを示していた。間もなく、GW3の下方から強力な底面ジェット流(BeJeC)が湧上し、広くて平坦なジェット状の流れとして前進した。その表面は鈍い銅色に日光を反射しており、先行する表面波流(SuWaF)とは明らかに区別できる印象的な視覚的特 徴であった。
この観測点からは、複数の流れの構成要素を同時に認識できた:静止したGW3、銅色の平坦な表面を持つBeJeC、先行する小さなSuWaFのうねり、そしてさらに沖合では海岸へ向かって進む大きな乱流波。南側では別のGW3が形成され、その下で第二のBeJeCが出現し始めた。これらの観測は、津波がSuWaFとBeJeCという二重構造から成り、後者が主要な破壊力を担うという最初の決定的証拠を「提供する」
図1. 2011年東日本大震災時に銚子市マリーナ沖で観測された津波の模式図。高さ約10m、幅30~50mのGW3は沖合でほぼ静止しているように見えた。その下では、BeJeCが平坦な銅色の表面を持ちながら前進していた。この図はまた、屏風ヶ浦の崖、高台避難場所、および観測された流れの特徴の相対的な位置関係を明らかにしている。
沿岸環境の多様性に応じた水中防潮堤システムの最適設計、長期耐久性の評価、人工構造物と自然基盤型ソリューションを統合した「ハイブリッド防御」戦略への組み込みについては、さらなる研究が必要である。しかしながら、本研究成果は将来の巨大津波に備えた革新的な沿岸防護対策の推進に向けた基盤を提供するものである。
住宅地付近における巨大津波の影響
日本では、巨大津波が数百年ごとに沿岸地域を襲うことは広く認識されているが、その正確な発生時期は予測できない。2011年3月11日、東日本大震災によって発生した津波は、千葉県銚子の浅瀬に押し寄せた。この津波は、茨城県鹿島浦から利根川を南北に横切る犬吠崎を通過した後、外川から刑部岬まで東西に広がる広大な屏風ヶ浦湾に流入した。津波は屏風ヶ浦の険しい岩礁に沿ってこの浅瀬を徐々に伝わり、すでに海岸線を越えて内陸へと押し寄せた。
図2aは銚子マリーナの内陸部に位置する住宅地と大学施設を鳥瞰したもので、津波の流入流(SuWaFとBeJeC)に直接晒された区域を示している。図2bは屏風浦の巨大な岩壁の南側を写したもので、津波の衝撃で深刻な浸食と崩壊が生じた。図2cはカフェ・マリーナの内部を示している。押し寄せた津波が車体を斜め上へ持ち上げ、すでに天井へ叩きつけた様子が明らかにしている。最初の津波(SuWaF)はわずかに右へ逸れ、丘の中腹にある軽食店と大学の警備所を直撃した。一方、BeJeCは真っ直ぐに前進を続け、わずかに高台にある大学建物の下層壁面に衝撃痕を残した。
当時の新聞記事は別の出来事を記録している。消防隊員が海岸近くの住民を高い場所へ誘導した。避難完了後、一人の消防士が山道への津波流入を防ぐため、急勾配の斜面に設置された防護ゲートを閉めようとした。巨大な波がすでに接近していたため、彼はゲートを部分的に閉めただけで逃げ延びた。驚くべきことに、翌日の点検でこのゲートは完全に閉じた状態と同様に機能し、津波の進入を阻止していた。この事例は、多孔質板と同様の原理を持つ穿孔バリアが、比較的穏やかな津波(SuWaF)とは対照的に、破壊的な津波(BeJeC)に対して顕著な防護効果を発揮し得ることを示唆された。
図2a. 銚子マリーナ海岸の背後にある住宅地と大学施設の上空写真。この地域ではSuWaFとBeJeCが相次いで襲来した。
図2b. 津波により南面が激しく浸食・崩壊した巨大な屏風ヶ浦岩礁の残骸。 2c. 津波の波流により斜め上方向へ天井に向かって持ち上げられた車が最終的に落下したカフェ・マリーナの内部。
巨大津波の特徴と構造
海面上では、GW3が突然現れ、続いてSuWaFが発生した。その後間もなく、壁の前方の海面を横切ってBeJeCが前方へ広がった。これらの観測結果を定量的に解釈するため、我々はGW3の高さ、ほぼ定常面の上を流れるSuWaFの高さ、傾斜した海底を横切る津波流の速度を推定した。これらのパラメータを用いて、津波の高さ、流速、海岸線における浸水レベルが算出されている。
図3a‒cは、水平距離(x, km)と海底水深(y, m)をプロットした海縁、中間点、海岸線の位置を示している。図3cは、海縁付近におけるSuWaFの伝播と、海底から上昇してSuWaFを追い越すBeJeCを示している。これらの流れを記述するため、振動するSuWaFとジェット状のBeJeCに対して、それぞれ質量保存則と運動量保存則を個別に適用した。
SuWaF(水深hs、速度us)については、連続の式は次のように表される:∂/∂x (ρ·hs·us) = 0また運動量保存則は:∂/∂x (ρ·hs·us²) = ∂/∂x (ρ·hs·g· (hs + hb))ここでρは密度、hbは下層ジェット流の水深を意味する。これらの式は、上層流が下層ジェット流の動的影響を受けつつも、その流量を保存していることを示している。
下層ジェット流(水深 hb、速度 ub)については、連続方程式は次の通りである:∂/∂x (ρ·hb·ub) = 0、運動量保存則は∂/∂x (ρ·hb·ub²) = ∂/∂x (ρ·hs·g·hb)これはBeJeCが上層のSuWaFによって課される圧力揚程によって強く駆動されることを示している。言い換えれば、BeJeCはSuWaFによって生じた水位差を動力源とする上昇水塊として加速する。
GEJEの震源は宮城県男鹿半島沖(北緯38度06.2分、東経142度51.6分)の水深24kmに位置し、銚子市から約300km離れている。SuWaFは上層で急速に伝播し、沖合2km地点では約15.1m/sの速度で移動したが、海岸線付近では約9.2m/sまで減速した。波高は約7.4mで、内陸1km地点では約10.4mに達した。
BeJeCは約1km沖合で出現し、SuWaFを追い越してこれを持ち上げ、GW3を形成した。GW3の高さは約12mに達した。その後ほぼ直線的に進み、巨大な礁と衝突し、岩礁を越流した後、約12.9m/sで内陸へ押し寄せた。内陸約2km地点で、最大水位は約18.9mに達した。
これらの結果から、SuWaFは水位変動と穏やかな表面流速を作り出し、押しの波・引きの波として限定的な破壊力を発揮したと解釈できる。対照的に、BeJeCは超臨界流(フルード数>1)を示し、10m/sを超える壁状の流れとして前進した。
このジェット流のような成分が、家屋や森林、インフラへの破壊的影響の大部分を引き起こした。これらの観測結果と特定された流れの構造に基づき、我々はその後、T-mCFT実験を実施し、水中防潮堤が津波流の破壊力を軽減できるかどうかを評価した。
図3 陸地に接近する津波の構造とGW3の発生。
(A) SuWaFが海岸線に向かって伝播し、沿岸部で減速する。
(B) BeJeCがSuWaFを追い越し、沿岸の礁にすでに衝突する前に約12mのGW3が形成された。
(C) BeJeCが内陸へ押し寄せ、最大速度12.95m/s、水位18.9mに達した。海岸線から約2km地点である。
津波シミュレーション用高速循環流水槽(T-mCFT)
本研究で使用された高速T-mCFTの構造図を4aに示す。水槽の寸法は長さ10.1m、幅3.0m、高さ2.1mで、総水容量は150トンである。気泡除去装置と堆積物・砂利回収装置を備えている。サージ流(水位の急激な上昇または不安定な振動運動と定義される)を抑制するため、補助的なサージ回避タンク(0.8m×0.4m×0.4m)がシステムに組み込まれた。
測定区間(図4b)は、長さ3.5m、幅0.5m、水深0.6mで、大規模かつ高速の津波様水流の特性を高い精度で再現するよう設計された。各実験に先立ち、区間後部上部にU字型ゴムノズルを設置した。これにより流入水が上流に蓄積し、マウンドが形成される。十分に進展したマウンドは新たな高速流を発生させ、津波流を調査するための安定かつ再現性のある条件を提供した。
フルード数≥2.0で典型的に観測される制御不能なサージ流を回避するため、測定区間は
二重層水路として構築され、下層はサージ抑制に用いられた。本装置は高速津波流(Fr ≥ 2.0)を扱うため、水路幅を単純に拡大しただけだとジェット流への再遷移を引き起こす。そこで区間を3.5mに延長し、安定した定常流を維持できるようにした。また、乱流を抑制し定常流速を維持するため、導水管とプロペラシステムの前に大規模な上流貯水池を設置した。
実験では、測定区間の上流端にダクト型水中防潮堤モデルを設置し、流入ジェット流(Fr ≥ 2.0)を破壊性の低い亜臨界流に変換した。しかし、下流側では流れが再びジェット(Fr ≈ 1.5)に遷移し、多孔板式水中防潮堤モデルを通過した。区間側壁に設置された精密ガラス窓により、流れのパターンを直接観察できた。
性能評価のため、ダクト型防潮堤は常に上流側に、多孔板型防潮堤は下流側に配置し、組み合わせたモデルによる相乗的な減衰効果を評価できるようにした。さらに防潮堤による大規模な逆流を防止するため、水路は主実験流路と補助逆流防止流路からなる二層構造として設計された。
図4 T-mCFTの構造構成と測定部
(A) 高速T-mCFTの平面図。(B) T-mCFTの測定部(矢頭)。
T-mCFTにおけるモデル防潮堤を用いた実験
津波の力を緩和する水中防潮堤の有効性を調査するため、ダクト型防潮堤と多孔板型防潮堤の2つのモデル装置を構築した(図5a, b)。両モデルとも、浅海域設置の縮尺条件に合わせ、高さ0.1m、長さ0.4m、幅0.3mとした。ダクト型モデルは2本の平行流路で構成され、多孔板型モデルは外壁の上面と側面に穿孔を施した。
図5 T-mCFT実験で使用された2種類の水中防潮堤モデル
(A) ダクト型防潮堤モデルと (B) 多孔板型防潮堤モデル。
T-mCFTに設置した場合、両モデルとも部分的な逆流と乱流を誘発し、それによってジェット状津波流の運動量を減少させた。図6aおよび6bは典型的な水流パターンを示す。ダクト型モデルでは、流入ジェット流が前方方向の水流と強い上流方向の逆流に分離した。一方、多孔板型モデルでは、穿孔部から水が浸透しながら、弱いが分散した逆流を生成した。いずれの場合も、ジェット流は複数の速度層(表面、中間、底面)に分かれ、下流の流体構造を大きく変化させた。
図6 二種類の水中防潮堤モデルにおける流れのパターン
(A) ダクト型防潮堤と(B)多孔板型防潮堤における流れのパターン。前方流れ(青、紫)と誘導後方流れ(赤)への分離を示している。
ダクト型と多孔板型のモデルの評価は、サンゴ礁に類似した「エネルギー低減多孔質障壁」としての機能を明確に示せるよう、あえて段階的に進展させた。これらの装置はジェット流を完全に止めるのではなく、乱流と逆流が促進され、運動量が再分配・散逸される。
まず、流量の連続性を検証した。ダクト型モデル(図6a)では、流入量はdWqi= (0.10×2.3) +(0.09×2.3) =0.437 m2/sであり、流出量はdWqo= (0.03×2.0) +(0.06×1.8) +(0.08×1.8)=0.312 m2/sと算出した。この差分は上流方向への逆流を表し、有効逆流水深0.15 mの場合、速度は ubf=-(dWqi-dWqo)/0.15=-0.83 m/sとなる。これを基に、次に比力を導入したM=∑(hiui2+1/2ghi2)。これは運動量流束と静水圧を組み合わせたものである。ダクト入口(hi=0.19m, ui=2.3 m/s)ではMin=1.09 m³/s²、出口ではMout=0.63 m³/s²となる。したがって、流入比力のうち0.47 m³/s²(43%)が上流方向へ再分配された。
多孔板型モデル(図6b)に同様の手順を適用すると、逆流速度は-0.63 m/sであった。入口と出口の比力はそれぞれ0.69および0.44 m³/s²であり、逆流成分は0.24 m³/s²(35%)となった。最後に、二つの装置を直列に設置した場合、合算逆流力は0.71 m³/s²となり、これは入射ジェット運動量の0.71/1.093=0.65、すなわち65%の低減に相当する。
ダクト型と多孔板型防潮堤モデル装置の組み合わせ効果
二重防潮堤システムによる射流の破壊力低減を検証するため、T-mCFT内において所定の間隔を空け、上流側にダクト型防潮堤モデルを設置し、下流側に多孔板型モデルを配置した。図7aは静水状態での設置状況を示し、図7bは高速射流下でのシステムを明らかにする。
流動状態では、泡を伴う逆流は2つの明確な成分から構成されていた。1つはダクト型モデルに由来する強い運動量を持つ成分、もう1つは多孔板モデルによって生じるやや弱い運動量を持つ成分である。これら二つの逆流はほぼ同じ高さで発生し、かなりの速度を維持したため、流入する射流のエネルギーを散逸させた。これは、二種類の水中防潮堤を組み合わせることで、海岸線に衝突する津波ジェットの破壊力を顕著に軽減できることを示している。
図7 設置されたダクト型及び多孔板型モデル装置
(A)静水状態;(B)射流下における泡状逆流;(C)二つのモデル防潮堤の真上からの眺め;(D)逆流パターンと各モデルに流入する射流の測定水深(m)及び速度(m/s)を示す側面図。
射流は中空ダクト(高さ:0.10 m、幅:0.08 m、長さ:0.40 m、側柱幅:0.03 m)に流入し、一時的に亜臨界流に遷移して直進した。ダクト出口付近で流速が減速し、入口方向への逆流が発生したが、この段階では下流に逆流の流出は視認されなかった。
代表値は複数実験の平均値から導出された(表1)。ダクト型モデルの入口の総流入量は:dih×div= 0.19×2.3= 0.437 m²/s。ダクト型モデルにおける逆流量は:(流入量)−(流出量)= 0.437−0.312=0.125 m²/sであり、直接測定値:dbh×ubf= 0.15×0.833= 0.125 m²/sと一致した。したがって、逆流と流入の比率は 0.125 / 0.437 = 0.286 (28.6%) であった。
多孔板型モデルでは、流入は 0.312 m²/s、流出は 0.246 m²/s で、逆流は 0.066 m²/s となった。したがって、逆流と流入の比率は 0.066 / 0.312 = 0.212(21.2%)であった。測定値は pbh×ubf=0.11×0.627=0.069 m²/s となり、22.1% に相当する。
これらの結果から、ジェット流の破壊力の約50%が水中防潮堤周辺で減衰すると推測できる(表1)。これらの実験結果を総合すると、以下のシミュレーション解析の定量的根拠が得られる。この解析では、様々な津波流条件下における複合防潮堤構造の有効性をさらに検証する。表1 T-mCFT実験における水中防潮堤モデルが用いた逆流量
津波BeJeCに対する水中防潮堤の効果の数値シミュレーション
前述の通り、GEJEGによって発生した巨大津波は銚子市幔浦の浅い沿岸域を襲った。豊富な気泡、渦、表面のうねりを伴うこの潮流は、最終的に高さ約10mの巨大なGW3を形成された。この高波の下から、高速のBeJeCが出現し、鏡のような海面を保ちながら海岸線に向かって進んだ。
シミュレーション実験では、この事象を参考に津波の速度、水深、破壊力、持続時間を決定
した。水中防潮堤の事例は極めて限られており、ジェット状の津波流の実験例はさらに稀であるため、安定した条件下で約1時間にわたり連続的な射流が防潮堤装置に衝突するようモデルを設計した。
ダクト型と多孔板型の防潮堤モデルは、流入する津波流の約半分を海側へ反射させるよう、配置・長さ・間隔・水深・流速が設定された。水深約5mに設置され、全長7~10mの二重防潮堤システムは、すでに射流が構造物の海側端部に到達する前に、徐々に戻り流を誘発する。
ダクト区間内では、流入ジェットは入口方向へ反転し、二つの成分に分かれる:(1) 流入流の表面に沿って流れる定常的な逆流、(2) 防潮堤の前面表面に沿って上昇し、その頂部を越えて継続する流れ。構造物周辺の流れのバランスを表2にまとめた。
ダクト型防潮堤入口における総流入量は86.7m²/sであった。逆流量は入口-出口=86.7-61.9=24.8m²/sであり、流入量の28.3%に相当する。多孔板式防潮堤では流入量は61.9m²/s、逆流量は入口-出口=61.9-29.3=32.5m²/sで流入量の37.5%に相当した。これらの結果から、津波の破壊的流量の約66%が複合構造物によって海側へ転流されることが示された。
M=hv2+1/2gh2を用いられた比エネルギー計算でも同様の傾向が確認された。
ダクト式入口部では、比エネルギーはdMi=6.8×12.752+(9.8×6.82/2) = 1332m3/s2であった。 ダクト出口では、dMo=589.5m3/s2となり、逆流比エネルギーdMb=dMi−dMo=742.5m3/s2(55.7%)が得られた。
多孔板式の防潮堤の場合、出口の流速はpMo=295.9m3/s2であり、逆流比出力はpMb=dMo;pMi−pMo=293.6m3/s2であった。したがって、複合逆流比エネルギーは (dMb+pMb)/dMi= (742.5+293.6)/1332=0.778 となり、津波エネルギーの約4分の3が二重防潮堤によって減衰されることを示している(図8a)。
このように、水中防潮堤によって生じる大規模な逆流は、海岸に接近する津波流の破壊エネルギーを顕著に低減すると予想される。流れの一部は直線的なジェットとして前進を続けるが、その影響は弱まる。防潮堤がない場合の上流側比力は1367 m³/s²しかし、防潮堤がある場合、比力は114.4 m³/s²となる。したがって、後者の場合の上流側の高さは (18.9 × 114.4) / 1367 = 1.58 m と推定される。残留射流は内陸方向に約1.6 mの高さまでしか到達しないと推定される(図8b)。
図8 GW3と射流を伴う津波流のシミュレーション
(A) GW3とそれに続く射流を作り出す津波流の模式図。
(B) 水中防潮堤の有無によるBeJeCの陸地への遡上高の推定値
これらの構造的影響に加え、津波自体は内陸へ進む過程で大きな変化を遂げる。すでにBeJeCがSuWaFに追い越される前に、巨大な水の塊(GW3)が発生する。このGW3の形成と崩壊により、津波エネルギーのかなりの部分が消費される。GW3以前の津波流の比力は1948.1m³/s²であり、GW3以降は1332m³/s²となるため、616.1m³/s²が失われる。エネルギー分散の観点から、この流れの自然変化は、水中防潮堤によって引き起こされる逆流や変化に類似していると見なせる。これらの自然・人工のメカニズムは相補的な役割を果たし、津波エネルギーがすでに海岸線に到達する前にそれを減衰させ再分配する。
表2. 水中防潮堤モデル周辺の流れと比力バランス
浅い沿岸域における中空ダクト式及び多孔板式防潮堤の設置
高速の津波流がダクト式防潮堤に流入すると、渦を伴う大規模な逆流が発生する。この逆流がダクト内で発生すると、通過流は事実上停止する。T-mCFT実験では、ダクト型と多孔板型の防潮堤モデルは水深の約半分に設定され、板の多孔率比は約3分の2に設計された。
T-mCFT実験では、モデルは高さ対長さの比率が約1:4の長方体として構築された。これらの条件下で、ダクト型モデルは流入量の28.6%に相当する逆流量を生成したのに対し、多孔板モデルは21.2%を作り出した(表1)。これらの結果は、水中防潮堤が流入する津波流のほぼ半分を逆流に変換し得ることを示唆している。
これらの知見に基づき、図9は海岸線に平行に配置された中空ダクト型及び中空多孔板型水中防潮堤の配置案を示す。この構成では、高さ約3mの防潮堤を水深約6mの海底に設置し、沖合約600mの位置に配置する。
より費用対効果の高い代替案として、防潮堤の高さを3mから4mに上げ、水深を6mから5mに浅くした浅海域への設置が可能である。構造物を海岸線にやや近づけて設置することで、既存の沿岸防潮堤と同等の防護性能を維持しつつ、表面の津波流(SuWaF)とジェット状の津波流(BeJeC)に対する効果を保持、あるいは向上させる防護性能を提供することが期待される。
図9. 銚子マリーナ浅海域向けダクト型及び多孔板型水中防潮堤の構成案
考察
巨大津波によって生じる低層ジェット流(BeJeC)における破壊エネルギーの低減を示す自然例には、サンゴ礁、マングローブ林、小島群などが含まれる。
サンゴ礁(縁礁型およびバリア型)の粗さと多孔性に関して、観測データと数値シミュレーションの両方が、浅い礁平地と分枝サンゴの粗さが底面摩擦を増大させ、それによって流速とエネルギー流束を減少させることを示している。2004年のインド洋津波後、モルディブ周辺での分析では、サンゴ被覆率の高い海域でエネルギー流束が減少したと報告され
ている7。理想化された地形モデルでは、海面から1~2メートルの浅海域に位置するバリアリーフが、陸地への津波の打ち上げ高を約50%低減することが明らかにされた8。他の研究では、多孔質被覆が波の通過時に流速を抑制し、被覆のない状態と比較して活動的な流入と浸水を減少させることが示されている9。
マングローブ林は多孔質沿岸自然構造の代表例を示している。幹・根・気根が形成される網目状構造は波高・流速・波力を減衰させ、津波災害リスク低減に寄与する。マングローブモデルを用いた実験では下流流速と波力の低減が実証されている。しかしマングローブは立地固有の生育条件・長期の成熟期間・巨大津波による破壊リスクといった課題を抱える。この理由から、マングローブは単独の対策ではなく、人工構造物と組み合わせた「自然基盤型ハイブリッド防御」の一部として位置付けられることが多い10。
波の散乱・屈折は小島列によって発生し、また津波エネルギーを低減する可能性があるが、配置によっては「レンズ効果」として機能し、風下側の海岸にエネルギーを集中させて津波の遡上高を増幅させる可能性がある。この効果は地形や水深条件に高い依存があるため、「島が多いほど津波の影響が必ず軽減される」とは一概に言えない。11
2011年3月11日の巨大津波では、茨城県鹿島灘海岸が直撃を受け、大規模な岬群が流失し海岸線が劇的に変形する壊滅的な被害を受けた。これに対し、同様の海岸形態と規模を持つ千葉県銚子市の屏風ヶ浦崖系では、津波の影響が異なる形で現れた。津波は崖系から突出する最南端の岩塊を直撃した。最前部の岩盤は破砕・変位したが、この局所的な破壊を除けば、広範囲にわたる壊滅的な被害は確認されなかった。
屏風ヶ浦の東側、沖約1kmの浅海域では、大規模な津波流が流入し、海面を徐々に上昇させた。その上に突如としてGW3(巨大波)が形成される過程で、津波エネルギーの相当部分が消費された。この現象は、自然の流体変形がエネルギー減衰機構としても機能することを示しており、その原理は水中防潮堤によって生じる人工的な逆流と類似している。
対策設計として、我々は銚子マリーナ付近の浅海域に二重水中防潮堤システムを考える。長さ約7メートルのダクト型防潮堤を沖側に設置し、15メートル後方に同等の長さの多孔板型防潮堤を配置する。水深5~6m、高さ3~4mに設置されたこれらの構造物は、自然のエネルギー減衰過程(例:GW3の形成)と連携して機能し、到来する巨大津波の破壊力を低減するとともに、海へ向けた安定した逆流を誘導する。
謝辞:T-mCFTを用いて実験を実施するにあたり、千葉科学大学のスタッフ各位から指導と支援を賜り、心より感謝申し上げる。また、津波対策に関する貴重な助言を賜った銚子市及び銚子消防署には、当研究グループの方向性確立に大きく寄与したことに深く感謝する。その知見は、水中防潮堤モデルの設計及び実現可能性評価において極めて有用であった。特に、超臨界津波流と水中防潮堤の破壊力に関する我々の研究(先行研究が極めて少ない分野)に対して貴重なご意見を賜った東京理科大学の本阿弥眞治名誉教授には深く感謝する。
利益相反:A.T.、M.Y.、Y.M.、Y.Y.は本論文の内容に関して利益相反はない。
References
1) Satake, K., Fujii, Y., Harada, T., Namegaya, Y: Time and space distribution of coseismic slip of the 2011 Tohoku earthquake as inferred from tsunami waveform data. Bulletin of the Seismological Society of America 2013; 103:1473–1492.
2) Gusman, A. R., Tanioka, Y., Satake, K., Fujii, Y: Source model of the great 2011 Tohoku earthquake estimated from tsunami waveforms and geodetic data. Earth and Planetary Science Letters 2012; 341–344: 234–242.
3) Suppasri, A., Koshimura, S., & Imamura, F: Tsunami hazard and casualty estimation in a coastal area that was severely damaged by the 2011 Tohoku earthquake tsunami. Natural Hazards 2012; 63: 823–843.
4) Yeh, H., Sato, S., & Tajima, Y: The 2011 Tohoku earthquake tsunami: Field observations and findings. Pure and Applied Geophysics 2013; 170: 1951–1961.
5) Arikawa, T., Sato, M., Shimosako, K., Hasegawa, I., Yeom, G.-S., Tomita, T: Failure Mechanism of Kamaishi Breakwaters due to the Great East Japan Earthquake Tsunami. Coastal Engineering Proceedings 2012; 1(33): 1–13.
6) Oetjen, J., Sundar, V., Venkatachalam, S., Reicherter, K., Engel, M., Schüttrumpf, H., Sannasiraj, S. A: A comprehensive review on structural tsunami countermeasures. Natural Hazards 2022; 113: 1419–1449.
7) Lahcene, E., Suppasri, A., Pakoksung, K., Imamura, F: The impact of the coral reef system on the tsunami propagation of the 2004 Indian Ocean event in North Male Atoll. Ocean Coastal Management 2024; 257: 107348.
8) Kunkel, C. M., Hallberg, R. W., Oppenheimer, M: Coral reefs reduce tsunami impact in model simulations. Geophysical Res Letters 2006; 33, L23612, doi:10.1029/2006GL027892
9) Fernabdo, H.J.S., Samarawickrama, S.P., Balasubramanian, S., Hettiarachchi, S.S.L., Voropayev, S.L: Effects of porous barriers such as coral reefs on coastal wave propagation. J Hydro-environment Res 2008; 1: 187-194.
10) Benazir, Triatmadja, R., Syamsidik, Nizam, Warniyati: Vegetation-based approached for tsunami risk reduction: Insights and challenges. Progress Disaster Science 2024; 23:100352
11) Rasyif, T. M., KATO, S., Syamsidik, Okabe, T: Influence of small islands against tsunami wave impact along Sumatra Island. Kaigan Kogaku 2016; 72: 331-336.